第167話 追憶「過ぎる日々」

 ギムを含む視察団チームは、馬上から目の前に広がる町を見ていた。


「2年ぶりになりますかね」


 ブラウンが感慨深く呟く。

 装備している弓は一回り大きく強力になっている。

 元の弓を元により耐久力を上げている。


 馬に乗っている数は4人だ。

 視察団のチームのメンバーはハリスが居ない。


「ハリスは今頃、教会で聖属性の魔術師としての試験を受けているのか」


 ジョムがその屈強な体を軽く揺すりながら、本来は居るはずのもう一人の仲間のことを思い出す。

 その背中にある大楯も以前の物を更に手を加えられている。


「ハリス、頑張ってたもんね。

 マイに触発されて、自分ももっと強くならないと、って」


 私は、さらに女性として魅力が増していた、と思う。

 若さが抜けてきて美人とお世辞を言われることも時々ある。


「そういう貴女も、マイに負けないようにと頑張っていますよね」


 ブラウンが私に頑張ってきていることを指摘する。

 私は、顔を逸らして誤魔化すが、身に付けている魔道具が増え、魔術師としてもかなりの高位になっている。

 実際、領軍の魔術師たちに実戦指導をする程だ。

 それでも、知識量はマイちゃんに追い付いているのか判らない。


「うむ。 そろそろ向かおうか」


 リーダーのギムは、その大剣と作り直した軽鎧を身につけている。

 服から覗く肌には傷の数が増えている。

 腕も一回り太くなり、更に強くなったことがうかがえる。



 視察団のチームは領都に帰還した後、装備の修繕の他に、コウの町で起きた事に対して、ほとんど尋問に近い事情聴取を受けた。

 それもそうだ、たった1人でジャイアントを含む数千のオーガ種の魔物を討伐した少女、この情報を提出しなかった事は重大な任務違反だ。

 だが、当の本人が力を隠していた、または討伐の力は別の何かによるものの可能性があり、戦いを見て居た者が居なかったため、処分は保留となった。


 それでも一騎当千の活躍をした魔術師、いや魔導師と言っても良い活躍だったとの評価がされた。

 その評価に私は苦渋の顔をしていた。


『死んでから評価されたって意味ないじゃ無い』


 それから私達 視察団のチームは、領内の各地で残存する超上位種やその上の特種に分類される魔物の討伐に駆り出された。

 数少ない、強力な魔物に対抗できる戦力として、休む暇も無く戦い続けた。


 2年かけ、ようやく超上位種や特種の魔物の討伐が終わったと判断された時、視察団のチームの扱いに支配層は悩んだそうだ。

 私達は顔が売れすぎた、領内でも1,2を争う強力や戦闘力とその実績。

 その評価は非常に高い。

 領軍内に入れれば、その経歴から冒険者上がりの私達が領軍の上層部に配置されてしまうだろう。

 実力主義とはいえ、指揮官相当の自分たちの権威を守りたいと思う者達も多い。

 悩んだ末に出した結論が、コウの町の今も存在し続けているダンジョンの監視だった。

 大きなそして異例ずくめのダンジョンの発見者は視察団のチームだ、そして、改良されたダンジョンコアが見つかった村も近い。

 コウの町への赴任は丁度良い言い訳になった。


 ギムはその辞令に何の文句も無く受け入れた。

 私達も戦いに疲れたのだ、それに領軍内の政治的な駆け引きはごめんだ。

 そして、コウの町は居心地の良い町だ。


 なにより、マイが眠る町。


 ゆっくりとコウの町に向かっていった。



■■■■



「こんにちは、宿は空いていますか?

 2部屋借りたいのですが?」


 ブラウンが、その人当たりの良さを利用して何時ものように宿へ交渉に入る。

 私も付き添いだ、女性がいると相手の対応が柔らかくなりやすい。


「はい、空いていますよブラウンさん」


 ブラウンは、一瞬、目の前の女性が誰だか判らなかった。

 が、彼女がフミちゃんであることに気が付くと、破顔した。


「フミさん、お久しぶりです。

 すっかりお美しく見違えましたね、直ぐには判りませんでした」


「おだてても宿賃は変わりませんよ」


 クスクス笑いながら受け答えるのは、すっかり宿の若女将の雰囲気を出している。

 ギム達も笑い声が聞こえたのか入ってきた。


「あら、ハリスさんは?」


 フミちゃんが1人足りないのに気が付いて質問する。


「ああ、ハリスは今頃、領都の教会で聖属性の魔術師になるための試験を受けているよ」


「そうでしたか、皆さんもご活躍されているようで、旅の方から話を聞いています」


「うむ。 我らはやることをやっているだけだがね。

 泊まれるで良いかな?

 タナヤ殿とフミ殿の料理が楽しみなのだよ」


「はい、空いてますよ。

 以前と同じで、6人部屋と2人部屋の2つで良いですか?

 3人部屋もありますが」


「ああ。 以前と同じで構わない、それと長期になる予定だ、よろしく頼む」


 ギムの宿泊期間が長くなることに、少し首を傾けて、フミちゃんは深く追求しないことにした。


「判りました、前回と同じ部屋が空いてるので、ご利用下さい」


 2年ぶりに見る宿屋タナヤは、ほとんど変わりは無かった。

 外から履いてきた靴を室内用の楽な靴に履き替え、靴洗いを依頼する。

 旅で汚れた靴やマントなどは、近所の主婦に声を掛けて有料でやって貰っている。


「うむ。 所でタナヤ殿とオリウ殿は何処かな?

 挨拶をしておきたいのだが」


「父は食材の購入に行ってますがもう間もなく帰宅するかと、母は奥の居間に居ます」


「うむ。 ではタナヤ殿が戻ったら挨拶に行かせて頂く。

 ブラウン、すまんが町長とギルドマスターとの面会の調整をしてきてくれ」


「判りました、行ってきます」


 1人、靴を履き替えていなかったブラウンは、荷物をゴシュに預けると、其の足で町の中央に向かっていった。


「ありがと、フミさん。

 私達を受け入れてくれて」


 私は、フミちゃんに申し訳ない気持ちで礼を言う。

 2年前、マイちゃんを生きて連れ帰って来れなかったことに、酷く責められた。

 マイちゃんの一部を持ってき私は、ただ謝ることしか出来なかった。


「いえ、私こそすいませんでした。

 皆さんも命がけで戦ったというのに、町でジッとしていただけの私に責める資格なんて無かったのに、酷いことを言ってしまって後悔していました」


「そうね、お互い様ね、出来れば友人としてやり直させて貰えるかな?」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 私とフミちゃんは、手を取り少しぎこちないが笑顔でお互いを許し合った。



 裏口が開き、タナヤさんが帰宅してきた。


「戻ったぞ」




 フミちゃんは声を上げて迎えた。


「お帰り、ギムさん達が来たよ!」

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