第140話 戦「静寂」
北の村から戻ってきて20日が過ぎた。
北の村の復興は順調のようで、すでに多くの村民は北の村に戻っている。
けど一部で、避難の混乱に乗じて泥棒を行った者が居た。
コウの町へ来て直ぐに別の町へ移動しようとしたので拘束されて調査され発覚したらしい。
その人は町の牢屋に収監されている。 どんな重罪が下されるのかは判らない。
そんな報告を宿屋タナヤを定宿にしている視察団のチームの打合せで聞いている。
本来、一冒険者の私は場違いなんだけど、最初期から関わっているので関係者として扱われている。
場所は、宿泊している部屋だ。
宿屋タナヤは、部屋で食事する形式のため一部屋が広い。
今座っている場所も、8人はまとめて食事できる机と椅子がある。
内密な話をするのに向いているということでも、定宿としている宿泊客から好評らしい。
「黒い雫ですが、北の村に大きな雫が落ちて以来、周辺の村を含めて発生の報告は受けていません。
魔物の発生も同じくありません。
なお、魔獣ですが草食獣の魔獣が発見されていますが逃げられて討伐されていません、危険度も低いので放置されています」
ブラウンさんが報告してくれる。
「うむ。 黒い雫と魔物が発生して居ないのは良いことだが、本当に良いことなのだろうか?
意見がある者はいるか」
それは私も気になっていた。
小規模なものが続いてたが、大規模なのが発生して沈静化した。
何か理由があると考えて良い。
「空の迷宮から黒い雫が発生するのに、何か力が溜まってじゃないかな?
だから、その力が消費されたので黒い雫が発生しなくなっているというのは」
シーテさんが意見を言う。
私も同意だ。
だからこそ、空の迷宮が発生する要因となった、改良されたダンジョンコアが気になる。
あれ、また何か腑に落ちない感じがする。
何だろう?
「マイちゃん、何か気になる」
「いえ、シーテさんの考えが現状を説明するのに合っていると思います。
だからこそ、その力の供給源が改良されたダンジョンコアだとすると、状況の改善は王都での扱い次第になるかと。
どうすれば良いか……簡単なのは北の村で見つかった時のように地中深くに埋めてしまえば良いんですが」
顎に手を当てて、意見を言う。
けど、これは私達がどうこう出来る問題じゃ無い。
「王都の状況は全く伝わってきていませんからね。
我々ではどうしようもありません。
ブラウンさんが済まなそうに言うけど、仕方がないだろう。
「いえ、仕方が無いかと。
あと気になっていることです。
北の村に大きな黒い雫が発生しました。
シーテさんが言うように、空の迷宮に力が溜まって発生したのなら、どうやって溜まったのでしょう。
以前、ギムさんが雲や霧があるときに黒い雫は発生して居ないと言っていました。
なら、晴れている時には力を溜めていない、か、溜まっている力を放出して黒い雫を生んでいると考えられないでしょうか?」
「可能性は有りますね。
天候にとの関係は調査しているかもしれません、少なくても記録はあるはずです確認します」
今は、雨の年が始まっている。
雲が多い日が続く、そうなると空の迷宮で力が蓄えられて大きな黒い雫が発生する可能性がある。
考えたくないけど、状況としては余り良くない。
今日も薄曇りで空一帯に薄い雲に覆われている。
薄らだけど、雲間から空の迷宮が見えている。
今の静寂は長く続くとは考えにくい、何か対策が取れると良いのだけど。
「役場の方より、空の迷宮を移した絵を入手しています。
それと、黒い雫が発生した場所の推定をしていますが、明確な法則や発生場所の予測は出来ていないですね」
ブラウンさんが、一枚の紙を広げる。
そういえば、空の迷宮の模様についてまで考えたことが無かった。
空の迷宮の形は形が変わらないのだろうか?
ブラウさんの周りに近寄って見てみる。
「ブラウンさん、迷宮の形は変わらないのですか?」
「大きな部分は変わりませんが、細かい所では変化しています。
この絵も何処まで正確かと言われると疑問があります」
空の迷宮の絵を改めて見る。
幾何学模様のようでもあり、絡まり合った木の根のような感じもある、不思議な模様だ。
黒い雫が発生した場所についての印があるけど、ハッキリと場所を確認したわけじゃないようで、広い円で示されている。
暫く空の迷宮の絵を見ていたけど、何らかの力が溜まる場所、黒い雫が発生する場所の予測は出来なかった。
役場の人達が既に調べていて判らなかったのだから、当然かなぁ。
「判らんな、規則性も有るのか無いのかも判らん。
領都の方からも不明としか連絡が来ていないようだしな。
検討するのは、ひとまず別の者達に任せておくべきだろう」
ジョムさんが腕を組んで椅子に深く座る。
それに続いて、迷宮の絵を見ていた私達も座る。
それから、今後の監視体制や魔物との戦い方などを話し合った。
「皆さん、そろそろお昼ですよ」
オリウさんが扉を叩いて知らせてくれる。
「うむ。 打ち合わせはここまでにしよう。
午後は各自予定の行動を取ってくれ。
女将、料理を頼む!」
「あいよ」
「マイちゃんはどうする? タナヤさんと食べる?」
「はい、そっちで食べます」
オリウさんとフミが料理を運び込んでくる。
ついでに私も配膳を手伝う。
「では、ごゆっくり」
私とオリウさんフミが1階に降りる。
「マイ、ギムさんたちとは良いの?」
「ええ、現状の情報共有だけだったので、かまわないですね。
多分、今から他の人には話せない事の打ち合わせをするんじゃないかな?」
私はお盆を胸に抱きながら、顎に指を当てて答える。
「でね、マイ。
今日のお昼は私が作ったんだよ」
フミが笑顔で言う、自信作なのだろう一緒に食べるのが嬉しいのかな? だと良いな。
「それは楽しみだね」
私も嬉しくなってくる。
不安は多いけど、この日常は守っていたいな。
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