第108話 前兆「不思議な雲」
ギムをリーダーとする視察団は、東の町まで移動していた。
目的は、情報収集。
コウの町は交通の要所では無い、通過される町の一つだ。
その点、東の町は領都への道と、他の町への道が集まる交通の要所で、情報を集めやすい。
同じ目的で各地に散っていた仲間とも情報の共有も行う。
東の町にある、行政機関の一室。
ギムを含む複数の視察団のリーダーが集まっていた。
「うむ。 魔獣の増加は、増えているもののそれほどでもないのか。
魔物の発生が増えていて、ダンジョンの発見がないのはどういうことだ?」
「判りません。
そもそも、魔物の発生自体が前例が少ないので、何か別のことがあるのかもしれないのですが……」
「その魔物だが、上位種が発生したというのは本当か」
「はい、オーク、オーガ、ダークウルフ、など、知能は低いですが食欲と攻撃性が高い種が多いです。
また、1カ所に1種類で多種が発生したことは無いとのことです」
「つまりは、記録に載っている、本当に危険な種は確認されていないのだな」
「ええ、今の所は全て討伐に成功しています」
ギムは、考え込んだ。
ここに集まっている視察団の各チームは戦闘力には優れているが、魔獣・魔物の戦いにはなれていない。
それでも、何度かの戦闘は経験してきているはずだ。
「ふむ。 私のチームは魔獣の戦闘があったが、皆はどうだったか」
東の町にも、コウの町で大型の熊の魔獣を討伐した情報は伝わっている。
「うちは、魔獣で草食獣があった程度だな。
風属性で動きが速くて苦労したが、その程度だ」
「こっちは、魔物、ゴブリンだな、数が少なかったから特に問題は無かった」
「俺の所は、上位種のオーガだ、同行した冒険者6人が殺された。 くそっ。
ゴブリンどもを食い尽くして、空腹で戦うんじゃ無くて食い散らかしに来やがった」
このチームではオーガの討伐をしたのか。
犠牲者を出してしまったのは、残念だ。
「ギムの所は、魔物は出ていないのか?」
「いや。 ゴブリンが2度 発生して居た。
町の冒険者が適切に対応したので上位種が出る前に処理されていて運が良かった」
「ほう、どんな冒険者なんだ?」
「ベテランの冒険者チームと……ソロの時空魔術師だ」
「は? いや、ゴブリン程度なら確かにソロでも対応は出来るかもしれないが、初見だろ、何とか出来る者なのか?」
「うむ。 元国軍、しかも辺境師団に所属していたらしい」
「ばりばりの実戦部隊じゃねえか、場数がおれらより上じゃないのか? なるほどね」
「ああ。 一緒に行動したが、実戦慣れに関しては、俺以上だったな」
「ギムよりすげえなのか、会ってみたいものだな」
ギムは、頷く。
心の中では、実際にあったらどんな顔をするのか想像して複雑だ。
成人もしていない、小柄な少女が正体なのだ、自分も信じられなかった。
その後も打合せは続いた。
■■■■
王都。
トサホウ王国の中心から南よりに位置する、この国の首都になる。
規模自体は、他の都市でも大きい所があるが、首都だけあり、豪華さや町の整備に関しては、国一番を誇っている。
その王都の王城、その前庭に、改良されたダンジョンコアが目立つように飾られていた。
その塊を満足そうに見下ろす、国王ディアス。
細身で長身のその容姿は、王というより文官のような神経質な雰囲気がある。
その目が細められ、手に入ったばかりの、改良されたダンジョンコアを見つめ。
口元は、うっとりと緩んでいた。
光の当たり具合で複雑な色に変化する様子、不思議な質感。
今日は、細かい雲が多く日が差したり陰ったりしている、そのおかげで、その特徴が際立っている。
変わった物が大好きである国王にとって、これほど自分の趣向を満たす物は久しぶりだった。
その為、設置とお披露目を優先させ、調査は後回しにした。
今は、お披露目会として、近隣の領主と遠方の領の代行者を招いて野外パーティを開いている。
先ほど、献上したコウシャン領の代行に対して、少し多めの下賜を行う行事を済ませた。
なんの問題も無く、これで、この不思議な塊は正式に自分の物にになった、これほど嬉しいことは無い。
国王は、ゆっくりと部屋を出る。
供付の者に、パーティの開始の挨拶をすることを伝える。
直ぐに準備が行われる。
正式に譲渡が行われ、ここに設置することを宣言するのだ。
心が躍る。
しばらくして、前庭に「国王万歳」の声々が響く。
音楽隊が穏やかな演奏を始め、改良されたダンジョンコアを中心としてダンスに興じたり、食事や酒に、そして、情報交換のための話や顔合わせなど、何時ものパーティの様子になっていく。
王は、用意されたテーブルに着き、近隣の領主や同じ王族との会話と、塊について自慢話を披露する。
「王よ、王都の民がこの、謎めいた輝きを持つ岩を1度見たいとの話が出てきております。
お慈悲により王城の開放をご検討願えませんでしょうか?」
話し掛けてきたのは、自分の息子、第1王子だ。
王とは異なり平均的な体格に、思慮深い顔つきをしている。
すでに政務の一部を行わせており、特にそつなくこなしている。
民の声を適切に拾い上げる事でも、民からの信頼を得ている。
そろそろ、王太子として正式に次期国王に任命しても良いだろう。
「本来ならば、建国記念日、王の誕生日など、特別な日のみ、城の一部を開放している。
が、良いだろう、前庭に限定して公開するのを許可する」
「御慈悲に感謝いたします」
仰々しく頭を下げるが、これも、第1王子から国王に申し出て実現したと言うのだろう。
国王の慈悲のついでに、民の声を叶えたと自分の人気も上げようとする。
少し小賢しく育ってしまったのか。
それでも、自分よりは政策を工夫したり改定することに熱心で、良い王になるかもしれない。
第1王子が、周辺の招待客に、王が民にも閲覧する機会を与えるとの慈悲を下されたと、仰々しく触れ回ってる。
明日には、上流階級には広まっているだろう。
太陽が雲間から帯のように、改良されたダンジョンコアに当たる。
全体が、不思議な色合いに変化しながら光っているように見える。
参加者から、ため息とも驚きとも取れる声が湧き上がる。
国王は、その様子を見て大いに満足していた。
その日から暫くして、王都の空に時折、不思議な模様が浮き出るようになった。
気が付く者も少しは居て不思議がっていたが、それ以外は特に何も無かったので、そのうち誰も気にしなくなった。
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