61 6月19日(日) 焚き火礼賛

 焚き火が好きだ。炎がいい。


 暗闇に浮かび上がるオレンジの炎・・闇の中に手を差しのべるように伸びあがっては縮んで・・誰かを探すように右に動いては、次の瞬間にはもう心変わりして左に向きを変える。変幻自在で一瞬たりとも同じ形はない。まるで自由気ままに移ろいく女心のようだ。


 そんな炎を見るのが好きなのだ。


 炎には言葉を奪い取る魔力がある。


 学生の頃に体験したキャンプファイヤー・・みんなで焚き火の炎を取り囲んで座る・・みんなの顔にオレンジの陰影が妖しく揺れる・・誰も一言も発しない。みんな無言だ。黙って炎を見つめている・・無言で共有するひととき・・安堵するひととき・・青春のひとときがそこにはあった。


 そんなキャンプファイヤーの思い出がある方も多いのではないだろうか。


 僕もその一人だ。


 それに焚き火はキャンプファイヤーだけじゃない。昔は道のあちこちで焚き火を見かけた気がする。『落ち葉焚き』なんていう言葉や童謡もあるんだ。きっと、昔は秋から冬になると、あちらこちらで『落ち葉焚き』をしていたんだろうなぁ。


 だけど、今は焚き火など簡単にできなくなった。


 もし今、都会の道路で焚き火をしようとしたらどうするのだろう? まず、消防署に届出を出さないといけないのだろうか? その中には消火計画が盛り込まれていなければならず、その計画に従って焚き火の横には水を入れたバケツや家庭用の消火器なども準備して・・腕に『焚き火監視員』の腕章をした監視人を置いて・・やっと、焚き火が許可されるのだろうか? あっ、その前に焚き火にする木材と着火剤を買ってこなくっちゃ・・


 だから、焚き火なんて滅びゆく文化だと思っていた。


 今日、久しぶりに地元の図書館に行って驚いた。アウトドアコーナーというのができていて『オートキャンプの楽しみ方』といった本が並べてあった。その中に『焚き火のやり方』とか『楽しい焚き火』などという本が置いてあったのだ。


 なんと、いま焚き火がブームになっているようだ。


 その中の本を一冊手に取ってパラパラやってみた。すると、どうも、僕の想い出にある焚き火と今の焚き火はだいぶ違うようなのだ。


 まず、今の焚き火は『焚き火台』の上でするらしい。昔は地面にじかに木を組んで火をつけていたが、今は『焚き火台』という小さな鍋のような台の上に木を置いて火をつけるのだそうだ。


 なるほど。これだったら、火が何かに燃え移る可能性が低いので、安全に焚き火ができるわけだ。本には、焚き火は一時衰退したが、『焚き火台』の普及でいまブームになっていると書いてあった。

 

 『焚き火台』を使う場合、上に載せる木材の量が限られるので、大きな焚き火はできないのだ。自ずとコンパクトな焚き火になる。しかし、『焚き火台』の底には穴が開いていて、そこから空気が入ってくる。昔の焚き火は、空気が底から入ってくるように木を組み上げるのが一苦労だったが、そんな苦労はいらないわけだ。焚き火が終わったら、燃え残りの木を入れて火消しを行う箱のようなものまで付属している。


 確かに便利になったとは思うのだが・・・


 こんなことを言うと「古い」って笑われそうだが、これでは昔の焚き火のような野趣がなくなったように思うのだ。


 昔は火をつけるのに苦労した。火がつくと、今度は火を消さないように努力した。ある程度燃え出すと、木を入れて焚き火をいくらでも大きくすることができた。そして、炎が消えた後、くすぶり続ける残り火で余韻を楽しむことができた。まるで焚き火の誕生から終焉の中に人生を見るようにね・・


 今はコンパクトで管理された焚き火っていうのかな。簡便で効率的で安全だが・・焚き火の中に人生を見ることはできなくなったんじゃないかな。


 なんだか、全く違うものになってしまった気がする。


 まあ、これも時代の流れだから仕方がない・・


 そんな『焚き火台』を知ったことが今日のよかったことだよ。


 どう? 皆さんは『焚き火台』を知ってる? そして、最近、焚き火してる?

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