13 4月28日(木) 女性は花を掃いていた

 仕事場の近くに小川がある。

 そこの川沿いの歩道に遅咲きの桜の木が何本か植えられていて、ピンクの花を咲かせていた。

 何という桜の種類なんだろうか?

 僕は花の名前はよく知らない。

 ホントに綺麗だった。

 僕はいつも歩道を歩いてピンクの花を眺めて楽しんでいたのだが、さすがに五月の連休を迎えるこの時期になると、桜の花がすべて散ってしまった。

 そして、歩道が散った花びらで埋まっていた。

 歩道にピンクの絨毯を敷いたようだった。

 それはそれで見事で綺麗だった。

 しかし、その絨毯を踏むと、足が滑って歩きにくかった。

 先日、女性が箒で散った花びらを掃き集めているのを見た。

 女性は普段着で箒を持って、一心に花びらを掃いていた。

 僕は感心した。

 たぶん、近所の人なんだろう。

 歩道はみんなが使う共用の場所だ。

 その場所を率先して掃除するのは、なかなかできないことだと思う。

 歩道のピンクの絨毯はなくなってしまったが、歩道は歩きやすくなった。

 僕はいいものを見たと思った。


〔天の声:そういう人がいてんねんなあ。あんたもなあ、その女の人を真似して、なんか人の役に立つことをせんとあかんで。いっつも、いっつも、カクヨムで☆をもらうことばっかり考えとったらアカンで。ええか、ちゃんと、反省しいや〕


 ・・・反省・・・


 反省していると、僕は以前経験したことを思い出した。


 ある夜、JRの駅のホームで、二人組の外国人に「○○に行くにはどうしたらいいのか?」と聞かれたのだ。○○は国際的な観光地だった。僕がこれから乗ろうとしている電車に乗れば、○○に着く。僕がカタコトの英語で二人にそう伝えると、二人はたいそう喜んでくれた。

 僕はその二人と一緒に、次にホームにやってきた電車に乗り込んだ。二人はイギリス人とイラン人で、大学の先生だという。電子工学が専門だといっていた。日本で電子工学の国際学会があって、二人はその学会で知り合って意気投合したらしい。二人とも日本は初めてで、明後日に帰国するのだそうだ。今日、学会が終わったので、せっかく日本に来たんだから、明日は一日だけだが、二人で有名な○○を見物しようということになったらしい。

 電車の中で、二人は僕にさかんに話しかけてきた。それも、突拍子もない質問をするので、僕は弱ってしまった。「日本にはあちこちに神社があるが・・神社は神道ということは知っているが、日本の神道というのは、あれは宗教なのか?」といった質問をするのだ・・・そんなの、知らないよ!

 そして、彼らは日本の町がきれいなことをさかんに感心していた。それは僕も同感だった。昔、仕事でヨーロッパに行ったときに、国際的に有名な都市(名前は伏せる)の中央駅の玄関口に生活ゴミが山積みにされていて、あまりの汚さに閉口したことがあった。だって、日本で言えば、その駅は東京駅とか大阪駅といったところなのだ。そんなところの玄関口に、生活ごみが山になって積まれているところを想像してもらいたい。そういうところから来た人たちが日本の街を見たら、たしかにきれいなのでびっくりするだろう。

 案の定、彼らは「なぜ、日本の街はこんなにきれいなのか?」と僕に聞いてきた。僕はいろんなことを答えたが、僕が次のように答えると彼らはびっくりしてしまった。

 「日本では自分の家の前の道路を、その家の住人が掃いて掃除をするんだ。たとえ、道路が公共のもので自分のものでなくてもそうするんだ。そして、道路を掃除するときには、自分の家の前だけでなく、隣の家の前も掃除するんだよ」

 彼らは大きく眼を見開いて、電車の中なのに「ヒュー」と口笛を吹いて肩をすくめたのだ。

 やがて、僕が降りる駅になって、僕は彼らに別れを告げて電車を降りた。


 こういった、素晴らしい日本の風習はいつまでも残しておきたいな・・僕はそう思った。


〔天の声:おい、おい、なんか、NHK制作の正統派ドキュメンタリー番組のような終わり方やな。あんたの、でたらめキャラと全然あってないで。こんな終わり方をするんやったら、桜の花を掃除していた女性の爪の垢でも煎じて飲まんかい!〕


 がび~んんん・・・

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