さすが異世界!
「どう? 子猫は」
「大丈夫です。もう心配ありません」
「そう。良かった」
回復魔法を得意とする人はこの屋敷に居ないのだが、幸いなことに回復薬があったので子猫に飲ませた。
人間の薬だから効くかはわからなかったが、子猫は飲んだ瞬間。傷口が塞がり、虫の息から一定の呼吸に戻っていた。
さすが異世界!
と、思わず拍手しそうになってしまった。
この世界での猫は絶滅寸前の動物になっている。それは、昔に平民や農民が猫を食料としていたから。
今は猫の数が減ってしまって見かけなくなってしまった。
ごく一部の人達には、絶滅したんじゃないかって噂も
ある。
私はゲームで子猫に会うのはわかっていたから、絶滅はしていなくて数匹ぐらいはどこかに身を潜めて暮らしているんじゃないかって考えている。
それにしても、ゲームの中の私よ.....。
弱いモノいじめしてなにが楽しかったの。
こんなボロボロな子猫を見て嘲笑うだなんて.....。
ゲームの中の私に変わって、たくさん愛情を注いであげるからね。
嫌だと言ってもやめてあげないんだから!
「ソフィア様、王太子殿下がお見えになりました」
「え!? わ、わかった」
子猫が一命を取り留めたことに安堵したのも束の間、王太子殿下がお見えになってしまった。
子猫のことで殿下が来るのを忘れていたということは、私の胸の内にだけそっと閉まっとこう。
ーーーーーーーーーーー
子猫をアイリスに任せ、私とオリヴァーさんの二人でエントランスに向かうと殿下を見かけると軽くお辞儀をした。
本来なら、エントランスで待たせるのは失礼になるので、サロンに案内しなくてはいけないのだが、案内しなくていい。ここで(エントランス)待ってる。と、殿下が言ったみたいで、強引に案内する訳には行かないから殿下の相手をした侍女が急いで呼びに来た。
なるべく早歩きでエントランスに来たので、ちょっと足が疲れた。
ランニングシューズとは違って動きづらいパンプスは、未だに慣れない。
「お待ちしてました。王太子殿下」
「.....うん。早速で悪いんだけど、お願いしてもいいかな」
「はい。構いませ.....っ!?」
私は驚いて軽めに悲鳴を上げそうになった。
突然、足になにかの温もりを感じたから。
ゴロゴロと喉を鳴らす声。
えっ。これってまさか.....。
もしやと思い、恐る恐る下を見る。
予感的中。
子猫が喉を鳴らしながら甘えるようにスリスリしていた。
この子猫は私を殺す気だ。
可愛すぎる!!
「ソフィア嬢。その.....?」
「え、ええっと。拾いました?」
殿下は子猫を見るなり、どうしていいのか分からないといった表情をしている。
拾ったのは事実。けど、子猫だとわかったらどうなるんだろう。日本では絶滅の危機にある動物を絶滅しないように保護している。
でもこの世界はどうだろう。
絶滅しそうな動物を保護をする。なんて、聞いたことないし。
絶滅してようがしなかろうが、自分には関係ないと言われてしまえばそれで終わりだし.....。
「子猫だね。可愛い」
「は、はい! 可愛い.....ですよね」
殿下はニコッと優しく微笑んだ。
その笑顔が怖い.....。
私は子猫を抱きあげると子猫は小さく鳴いた。
「ソフィア様!?」
息を切らしながら走ってきたのはアイリス。
私の前まで来るとアイリスは、深々とお辞儀をした。
「申し訳ございません! 目を離した隙に居なくなってしまって」
「う、うん。大丈夫.....だけど」
ちらりと殿下を見ると、殿下は笑顔のまま。それが却って怖い。
猫は農民や平民の食料としてるけど、貴族はどうだろう。
珍しいから食べたいなんて言われたら.....。
そもそも乙女ゲームでそんなことあっていいのだろうか.....。
「.....珍しいね。子猫なんて」
「はい。そう.....ですね」
ああ.....。もう、殿下とまともに目を合わせられない。
これじゃあ私が悪いことしてるみたいじゃない。
「.....。そうか、この子猫が」
殿下はボソッと呟いたが、その言葉が上手く聞き取れなくて首を傾げた。
「あの、なにか.....?」
「いや、なんでもないよ。オリヴァー」
「はい!」
「問題はなかった?」
「はい。ありません」
殿下は、オリヴァーさんに微笑んだ。
殿下がなにを言いたいのか感じ取ったオリヴァーさんは、私が抱きかかえている子猫を抱きかかえて深々とお辞儀をした後、アイリスも一緒に連れて行ってしまった。
子猫のことを注意深く聞いてくるのだと思ってたけど、特になにも追及されなくて良かった。
「ソフィア嬢。はじめようか」
「はい!」
さっきのでわかった。
この世界では猫は珍しいけど、ただそれだけ。
なんだか.....少し切ない。
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