第3話 王太子が用意した断罪の動かぬ証人が我が辺境伯の兵士だったので少し焦りました

さて、続きは何が出てくるんだろう。


ひょっとして、アマーリエの言ったことだけを鵜呑みにしたとかいうお粗末な事ではないよね。次はどう出るんだろう。取り巻き令嬢、いや使い捨て令嬢に証言させるんだろうか。それはマリアンかローズがクラリッサか・・・・。そうか、ベルンハルトの側近らなのか。


私はワクワクしてベルンハルトらを見た。


「このように、可愛そうなアマーリエは、散々エルヴィーラに虐められていたのだ。辛かったな、アマーリエ」

二人はお互いを見つめ合っていた。


えっ、これで終わり? 虐められたと言っている本人の言うことだけで断罪するって、こいつ、そこまで馬鹿だったの?


出来損ないの私ですら、こういう時は証拠に多くの者の証言や物証を集めて、なおかつ、敵対者の意見も聞いた上で、断罪するものだと言うことが判るのに、何なの、このいい加減さ。これで私を断罪できると本当に思っているのだろうか?

一応私、王命でベルンハルトの婚約者になっているのだけれど。王妃教育も、訳の判んない女官長に礼儀作法がいい加減だと散々注意受けているけれど・・・・、そもそも武の名門の我がハインツェル辺境伯家の者に、礼儀作法を求めるのは間違っていると思うのだけど。言っておくけれど、私普通の令嬢並みに、音を立てずにスープとか飲むことは出来るし、ナイフとフォークで音を立てずに食べることも出来るのに。「何ですか、その優雅でないナイフの動きは」って、頭を上げ下げするのも10度ほどおかしいとか、どうでも良いよね。私はそう思うのだが、女官長は違うらしい。うーん、歴史の先生とかにそう言ったら、「まあ、エルヴィーラ様は妬まれておりますな」と笑われてしまった。冗談じゃないんだけど、私この位置に立ちたいわけではないんですけど・・・・。そらあ、図書館の禁書とか見放題なのは嬉しいけれど、アレの横にはあんまり立ちたくないんだけど。


はあああ、


こんなの陛下の「馬鹿者!」の一喝で終わりなのでは。


確かに我が父と陛下は、そのそれぞれの先代が悪友のように付き合っていた時と比べると、仲はそこまで良くないが、こんな理由で私と婚約破棄が出来ないことはおわかりになられるだろう。


折角ワクワクしたのに、何、このいい加減さ。小説のほうが余程プロットも証拠も現実を反映してしっかりしている。もっと勉強しろよ、ボケ王太子、王子教育もろくろく進んでいないのではないのか。


こんなんだったら、余程脳筋のお兄様のほうがましだ。


優秀な文官を見出し、やらせておけば良いのだから。

脳筋は最前線で戦わせておけば良いのだ。

まあ、戦で負けることはないし、お目付け役さえチャンとつけておけば暴走することはないだろう。


こんな事を私が考えてるなんて、お兄様に知られたら何言われるかわからないので黙っているが、女を落とすことしか脳がないのが、国王で良いのか。今は太平の世ではないぞ。出来損ないの私でも判るのに。


でも、周りの貴族の子弟共を見ても、王太子を諌めるでもなく、感心したように見ている。と言うか私が貶められるのを期待してみているのだ。


私は盛大なため息をついた。何、いつまでも三文芝居をしているのだ。

やはり、ここは出来損ないでも私がそろそろ反論した方が良いのだろうか。

私は仕方なく、声を出した。


「あのう、殿下。おっしゃっていらっしゃることが全然判らないのですが」

私は恐る恐るという体で声を出した。少しは私も猫かぶらないと・・・・


「なんだと、貴様、いくら出来損ないとは言え、今のは普通判るだろう、なあ、コリント」

「はい。殿下。今のは子供でも判ることです」

王太子の側近のコリント・メスナー侯爵家令息が馬鹿にしたように答えた。こいつは王子の悪友で、アマーリエとも幼馴染だとか。


「あれだけ事細かに説明してやったのに。判らないのか」

ベルンハルトは私を馬鹿にしたように言った。

「まあ、まあ、ベルンハルト様とコリント様。エルヴィーラ様は少しおつむの回転が人より遅いのかもしれませんわ。そこはお許しになって」

「そうか、アマーリエがそう言うのならばもう一度説明してやろうか」

王太子は仕方無しに喜び勇んでもう一度話しだそうとした。



「いえ、殿下、そうではなくて、私が虐められていたのが、どうしてアマーリエ様が虐められていたになるのかなと思いまして」

私はもう一度やられたら堪らないので、慌てて言った。


「はんっ、何だと、貴様、この期に及んで、言い訳をするのか」

「そうです。私、はっきりとアマーリエ様がエルヴィーラ様に階段から突き落とさるのを見ました」

やっとアマーリエの使い捨て令嬢のバルバラ・ミレッカー伯爵家令嬢が言ってきた。

「そうです。私も見ました」

「私もです」

アマーリエの取り巻き共が言い出す。やっと今頃かよ。でも、自分の味方ばっかり言わせてどうするのだ。こういうのは普通、中立派と思しき者も入れておくものなのに。本当に杜撰だ。


うーん、こういう時に薄幸の少女は反論するものなのだろか。そうか、言われるまま立ち尽くし、正義のヒーローが出てくるのを待つのか。


でも、周りを見渡すに正義のヒーローになりそうな奴はいない。


えっ、ちょっと待てよ、あの端にいるのはゲフマンの大使ではないのか?

そうだ。あの笑っているのはゲフマンの大使ライプニッツだ。私は不吉な予感がした。



「ふん、出来損ないの貴様の事だ。これだけでは信じられないだろう。ここには更に完璧な証人を用意してやったぞ」

皇太子がニヤリと笑って言った。


どこの誰を連れてきたのだろう。私は期待して見た。

しかし、出てきたのは男だった。それも我が辺境伯軍の制服を着ているのだ。誰だろう?この顔、どこかで見た顔だ。

私は思い出そうとした。


「この勇敢な者は貴様ら辺境伯の手の者に殺されても良いと、勇気を出して私に告白してくれたのだ。」

王太子は男を褒めあげた。


「その方、エルヴィーラに指示されたことを申してみよ」

「はい、私はエルヴィーラ様から、アマーリエ様をごろつきどもを雇って襲わせろと指示を受けました。さすがにそれはどうしたものかと、迷っているところを、殿下の優しいお心に触れることが出来、告白させて貰った次第です」

私は少しやばいと思った。当然私はそのような事は指示してもいないが、こいつらはこいつらなりに私を嵌めるために一応少しは考えているらしい。それも敵国ゲフマンと組んで。


少しやばくなってきたかも。遅まきながら私は退路はあるだろうかと周りを探り出した。


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どうするエル?

次話は今夕更新予定です。評価等頂けたら幸いです。

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