第4話 「ハーブオーク」
オークを見つけたのは案外すぐの事だった。と言うのもシエラが指差す方に行ってみたら居たという簡単なもので。どうやら縁を読んでいるのだろうとは思うが本人はなんとも言えない顔をしていた。
それの理由は直ぐにわかった。たくさんの花や果物を大きな腕に抱えた豚の様な醜い姿の魔物は鼻歌を歌っているのか不思議な鳴き声を上げながら歩いていた。傍に捕まったであろう女性は見当たらない。ただ予想外に手に持っている物からただのオークではなくハーブオークだということが分かった。
慎重に気配を消してその背中を追いかける。
注意深く周りを見回すものの案外足取りが早いので見失ってしまわないように細心の注意をはらった。
ハーブオークは主に果物を好んで食べる。囚われた異種族のメスや女性はただ子を産む為に必要であって食事にはならない。完全に草食。ハーブオークと名前がついた理由は体の色が薄緑で、ハーブの多い土地でよく見られるという所からつけられたらしい。
主な住処は森や山。二足歩行をしていて力が強い。温厚で、あまり人を襲うことが無い上、ハーブオークの住処は植物が良く育つ。だからあまり討伐対象にならないのだが村長はハーブオークなんてレアな魔物を知らなかったのだろう。
「洞穴に入りましたね」
ヴァンが一応剣に手をやりつつ呟く。洞穴の脇にそれぞれ別れて中をのぞき込むと沢山の花に埋もれた女性が見えた。
ハーブオークの求愛行動かな。
実際に目にするのは初めてだけど、ハーブオークは連れて来たメスや女性に
相手が人でなければ仕方ないかと番になる生き物も居るようだが、今回の相手は年頃の人間の女性だ。しかも婚約者の居る。
「殺りますか?」
「ハーブオークだからなぁ…狩る必要はなさそうだよ」
「ハーブオーク…初めて見たわね…これなら無事かしら」
「うん、妻問の最中だからまだ平気だと思う。本人は花の中で埋もれてて嫌そうだけどね」
どうしようかな。
温厚な種類だとしても妻問の邪魔をすると怒ってしまう可能性がある。ハーブオークは人間にとって良い魔物に分類されるし、その数はとても少ないと聞いている。あまり傷つけたく無いんだけど…。
「シエラっ」
クロエと共に洞穴の左側から覗いていたシエラがトコトコと中に入って行ってしまう。クロエが慌てて呼び止めるがそれを聞くことはなく、逆にその声にハーブオークが反応してしまった。
「シエラ!」
全員で駆け出しシエラに手を伸ばす。だけど手が触れる前にシエラが口を開いた。
「ねぇ、嫌な事、ダメ、なんだよ?」
「がう〜?」
「お姉さん、旦那さん、居るよ」
「!?」
え、会話してないかこれ。
びくりと硬直してしまう私とクロエとヴァン。シエラは変わらず真っ直ぐにハーブオークを見上げている。
とりあえずシエラが好き勝手しないように抱き上げてみると、シエラのバイオレットの瞳が淡く光を帯びているのがわかった。煌めく瞳には何が映っているのか。
シエラは柔らかく微笑んだままだ。
クロエとヴァンに視線を送り、女性の方へとりあえず向かってもらう。
クロエが様子を伺いながらヴァンと共に壁沿いに女性の埋まっている花の山に向かっている間も何やらシエラとハーブオークは話している。
「ぅがっうがぁ」
「私、も嫌。旅、するの」
「ぐぅ…」
「多分、人、ダメ。他、お嫁さん、探して」
「がぅぅ」
「ん〜…聞いて、みるね」
何が何だか分からず見守っていればシエラが私の方に向き直る。
「シエル、お嫁さん、用意…できる?」
「えっと、なんでもいいのかな?雌なら」
「うん」
「ヤギとかでも?」
シエラがまたハーブオークに向き合うと「ヤギ、良い?」と聞いた。ハーブオークは少し考えて渋々の様子で頷いた。良いんだ…。
「とりあえず解決なのかな…」
「シエル、村長の娘さんは無事よ。少し疲れてるみたいだけど」
「ありがとうございます…生きた心地がしませんでした…」
顔色が悪いままに女性は頭を下げる。ハーブオークはそんな女性に名残惜しそうな視線を向けた。女性は慌ててクロエの背中に隠れている。クロエの方が身長が低いから隠れきれていないけれど。
「えっと村長の娘さん、彼はハーブオークと言って希少な人に対して友好的な魔物なんだ」
「ハーブオーク…?」
「とりあえず村に戻ろう。村長もとても心配していたから」
シエラにハーブオークにここの洞穴で待っていて欲しいと伝えてもらい帰路に着く。予想外の展開すぎて困惑するけど、思ったよりも早く解決出来て良かった。
オークの素材は手に入らないから報酬だけになってしまうが、仕方ないだろう。
珍しい物も見れたしね。
帰り道は特に何かが起こることは無かった。これが終わったらすぐに次の熊型魔獣の討伐に行こう。流石にあっちはこの様な展開にはならないだろう。完全に討伐って書いてあったし。
にしてもシエラは本当に何者なんだろうか。別に種族が何であろうと気にはしないけど、仲間なことには変わりないし、大切な妹分だからね。
でも魔物と会話出来る種族なんて居たかなぁ。
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