4月26日(火)12:35

 昨日は四月一日くんに突然フィルフィエールとか呼ばれて少々面食らったが、今日もナチュラルにフィフィーと呼ばれたので、この呼び方はこれで定着してしまったのだと悟った。なので、何ともいえない気持ちで昼休みに思わずその話題を出した。すると五十嵐くんが話題に乗っかってくれる。




「あー、四月一日の謎のあだ名センスな。八木沼さんがフィルフィエールってことは俺も知ってたわ。よく聞かされてるし」

「マジか」

「ちなみに実は俺や八木沼さん以外にも、そういう風に四月一日から謎な呼び方されてる奴が何人かいる。どういう基準で選んでるかは知らんけど」

「基準とは何だ。そういう名前だからそう呼んでいるだけだが」

「そういう名前じゃねーよ。お前の思考どうなってんだよ」




 五十嵐くんが四月一日くんを箸でびしっと指す。行儀が悪いなんて野暮な指摘はしない。だって私も同じ気持ちだから。ごく普通の純日本人が、そういう名前なわけがない。




「……四月一日くんが話しかけたい相手にそういうあだ名をつけてるとか?」




 私にずっと話しかけたかったという事実を踏まえると、それが一番妥当なところだと思った。しかし、五十嵐くんはどうもピンとこないようで難しい顔をして唸りだす。




「うーん。それもあるかもしれないが、それだけとも限らないような……」

「というと?」

「あくまで俺が知っている範囲のことだが、少なくとも謎のあだ名で呼んでる奴のうち一人とは仲が悪い」

「まあ、不快に思われても仕方がないよね」

「というか、四月一日の方が一方的に怯えている」

「あれ、なんか思ったのと違った」




 変な呼び方をして相手に嫌がられたってことかと思ったら、四月一日くんの方が怯えてるってどういうこと。嫌がられて怒らせてしまって怯えている……ってことじゃないよね。それなら一方的になんて言い方はしないだろうし。つまり、相手が何かしたわけでもないのに、四月一日くんは勝手にその人のことを怖がっている、と。この体格が良くてちょっとやそっとじゃ誰にも負けなそうな四月一日くんが怖がるなんて、一体どんな人なんだ。逆に気になるぞ。




「それから一人、なんかすげー信奉してる奴もいる」

「しんぽう……?」




 今度はあんまり使ったことがないような言葉が出てきたな。何なの。あがめてるってことなの? まさか同級生を? いや、同級生とは限らないのか。年上の人かもしれない。年下ってことはさすがにないよね。……ないよね?




「それから」

「ごめん、もういいや」






 隣の席の四月一日くんはどうやら他にも変な名前で呼んでいる相手がいるらしい。

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