第162話 皆に嫌われてるぞお前。大人気だな。
バカ親父との会談は、相変わらず、壁と話しているみたいにほぼほぼ徒労だったので、ライリーやらカタリナ(『祝福』し直せば違う人格)やらと会話するとおもうと先が思いやられる。
とは言え、俺が俺の幸福を手に入れるためには少しは彼らと仲直りしないといけない――恨んでばかりでも、無視してばかりでもダメで、相手を許す心が必要――きっと母さんが言ったのはそういうことなんだろう。
許せるとは思えないけど。
あのあと、ルビーと合流して(『危うく森を更地にするところでした』)ボルドリーにある領主の城まで戻ってきた。
ルビーは、
「これで正真正銘一人前です」
とか言っていたので「もう一人で森を越えられるみたいです」と伯爵に伝えようとすると首を絞められた。
本当に俺と戦う気らしい。
「まあ、早く森の道を舗装する魔法を習得してよ。俺の首が取れる前に!」
「練習します!」
ふんふんと鼻息荒くルビーが言う隣で、ローザが少し聞きにくそうに、
「それで、どうだった?」
とグレンを通して尋ねた。
「窓をぶっ壊してきた」
「非行少年かな?」
ローザは軽くあきれ顔をしている。
俺は咳払いをして、
「アイツは相変わらずだったよ。話をする前に俺とアルベドのこと縛るあたり。口より先に手が出るタイプだな」
「そう。それで命からがら窓を壊して逃げてきたってわけね」
「いや、入り口からも出られたけど、むしゃくしゃしたから窓を壊して出た」
「窓が可哀想」
「あとで謝罪文でも送ろう。窓に」
バカ親父への煽りにしかならないけど。
「それじゃあ、やっぱりレズリー伯爵は少しおかしかったのね」
「おかしいのはいつものことだ」
「そうじゃなくてライリーのこと。現実を受け止められてないんでしょ?」
「……いや、ライリーは生きてる。棺桶をさ、ここから送ったけど、向こうについた時には内側から蓋を突き破ってたんだよね。他にも色々確証があるから間違いない」
「そう……」
とローザは驚いて黙ってしまったので、俺は詳しく説明しながら、頭の中を整理する。
母さんとの話と思いついたことを総合すると「ライリーを見つけて力を合わせればサードを止められる」ということらしいけれど、ここにはいくつか問題点がある。
一つ目、そもそもライリーの居場所がわからない――バカ親父が探しまくって全然見つからないのに、俺が改めて探して見つかるとも思えない。
二つ目、ライリーを見つけられたところで、力を合わせるとか出来そうにない――これに関しては見つけるより難しそうだ。
三つ目、見つけ出して力を合わせたとして、俺とライリーでサードを止められるのか。ライリーの力は微々たるものだろうし、かといって人を食わせて巨大化させるなんて本末転倒だ。俺だってそんなに力があるわけじゃない。
マヌエラとキカには死ぬほど下手くそと言われ続けているし。
「じゃあ、どうするの?」
俺の説明を聞き終えたローザが尋ねる。
「一つ目の見つけ出す方法については秘策がないわけじゃない――あんまりやりたくない方法だけど」
――ニコラ。ライリーを探して。あなたとカタリナなら見つけられる。
母さん――ルベドはそう言っていて、はじめはどういう意味なのか解らなかったけれど、今なら解る。
俺はソファを一つ陣取って寄っかかっているアルベドの方を見た。
「アルベドが色々教えてくれたんだ。サーバントのことについて」
「ウチが教えました、敬え」
「それによると……」
俺は無視してローザに言う。
「契約者の死はサーバントの死で『祝福』し直すと別の人格で生き返るってのはよく聞く話でしょ」
「うん。それは私も知ってる」
「じゃあ逆にサーバントが死んだら――つまり、サーバントだけが破壊されて契約者が生き残っている場合に『祝福』し直すとどうなるか」
「同じじゃないの?」
「アルベドによると少し違うらしい。『祝福』されたサーバントは新しい人格にはなるけど、契約自体はわずかに残ってる。本当に微々たるものだから新しく別の人と契約し直すと消えるみたいだけどね」
「それは……知らなかった」
普通のサーバントは複数の契約者を持つことができず、また自分から契約を破棄できないからこの微々たる契約というのはかなり特殊な状況なんだろう。
それに、大抵の場合、破壊されたサーバントは『祝福』直後に別の契約者と一緒になってしまう。その微々たる契約の存在自体が知られていないのも納得だった。
俺は続けて、
「で、その微々たる契約でも、契約者であることには変わりない。……グレン、サーバントって契約者の位置がある程度解るんだろ?」
「うん」
グレンはこっくりと頷くと、すぐにローザがその口を動かして、
「え? じゃあ、つまり……」
「そう。そこでカタリナだよ。だからやりたくないんだ。カタリナを『祝福』し直して誰とも契約しない状況で案内してもらえば、ライリーを見つけられる」
「それは……」
と、ルビーと同席していたナディアが顔をしかめながら言った。皆一様に難しい顔をしている。
皆に嫌われてるぞお前。
大人気だな。
ナディアは少し唸ってから、
「あの、もし『祝福』し直したとして、カタリナは協力してくれるのでしょうか? ニコラに対してその、何かを協力してやるってイメージが湧かないのですけど」
「……わからん」
そこはマジで解らない。
ただ、
「アイツ、魔力量が多くて魔法が使えるってことにものすごく固執してなかったか? 自分が優秀だから契約者も優秀な奴じゃないとダメみたいな」
「そうですね。カタリナは優秀じゃないですけど」
「言うようになったね」
俺は苦笑する。
ルビーとの生活で言いたいことが言えるようになったらしい。
「だから、多分、今の俺なら少しは話を聞いてくれるんじゃないかと思ってる」
「まあ……そうかもしれませんけど、でも、『祝福』し直したあとって記憶も少し残ってるんじゃありません? 変に恨んでそうで怖いんですけど」
「ああ……それもあり得る」
アイツのこと最後見捨てたしなあ。
こんなことならコルネリアにもう少し話を聞いておくんだった。俺の周りで、『祝福』し直されたサーバントってアリソンのコルネリアとジェイソンのユリアくらいしか知らない――ユリアの所在はいまを以て解らないし。
まあ、ぐだぐだ言っても始まらない。
どんだけ拒否しようが、アイツには案内してもらおう――サードを止める以前に、ライリー自身がおかしなことをするのを止めなきゃいけない。アイツを野放しにしたのは俺にも少しは責任がある。
俺はマジックバッグを取り出して、白い剣を引っ張り出した。
ライリー/ゾーイに引きちぎられたカタリナの身体は、ボルドリーに戻ってくる途中ですでに修復してもらっていて、飾りの類いは所々外れているけれど、剣としては形になっている。
「もし話が通じなかったら川に沈めよう」
「『祝福』する前から何言ってるんです?」
ナディアは呆れたように言う。
俺はふっと溜息をついて、
「アルベド。『祝福』してくれ」
「りょーかい」
俺がテーブルに置いたカタリナの身体をアルベドが『祝福』して、
そのサーバントは目を覚ました。
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