第90話 ピンチ【改稿済】

 霧の中から様子をうかがう。木々を爆発魔法で倒したセブンスはたちどまってあたりをみまわしている。先ほどよりもシスター服の白が減っている気がする。彼女は俺がつけた右肩の傷を手で押さえている。


 はすでにできている。二つの策で戦う。


「やるぞ、ヒルデ」


 ヒルデが背中でうなずくのを感じる。


 俺は水の斬撃を飛ばした。ただの斬撃じゃない。ヒルデに魔法で隠してもらった魔法だった。


 魔法を魔法で隠す。これが俺が考えた方法だ。ヒルデは体から離れたものでも隠せるといった。例えば銅像を一度隠してしまえば離れた後でも、あたかもそこにないかのように隠せる。それを魔法に使った。


 水の斬撃が隠された状態でセブンスに向かって飛んでいく。


 が、彼女はそれに気づいた。見かけを隠すことはできても音まで隠すことはできない。セブンスは盾をつくり反射するが、その先から俺たちはすでに移動している。


 セブンスの左脇にあったかげから飛び出すと、今度は光属性の斬撃を放った。セブンスはぎょっとして盾を張り直すが、不完全だ。盾を崩し、左肩を斬撃が襲う。セブンスがよろめく。


 やったか、とおもったがだめだ。彼女は両腕をぶらりと下げて血を滴らせ俺をにらんだ。


「許しません……。許しません!!」


 セブンスは手も上げず目の前に魔力の本を浮かび上がらせた。


「最終章! しゆうえん!」


 おびただしい量のページが空に舞う。それはパタパタと折られて虫の形になる。


「すべてを食いつくしてあげます」


 一度天高く昇った真っ黒な紙の魔力――虫の大群はそのまま俺とヒルデの方へ落ちてくる。ヒルデが使える光魔法は後だ。


「頑張ってくれ、ヒルデ!」


 俺は彼女に魔力を流して変換してもらい、受け取ったそれで盾を作る。俺たちを囲うような半円球の盾。いびつで弱い部分も多い。空から降ってきた真っ黒な魔力の大群がその盾に降り注ぐ。


 光の盾にぶつかった瞬間、その虫たちはパラパラと消えていくが、物量が多すぎる。弱い部分がガジガジとくいあらされる。


 まずい!

 まずい、まずい!


 内側に普通の盾を張り補強する。普通の魔力ではすぐに食い荒らされてしまう。ヒルデはすでに限界で俺の背で寝息を立てている。俺がなんとかしないと。ありったけの魔力を注いで盾を維持する。


 まだか。まだ終わらないのか。


 降り注ぐ虫たちは盾に張り付いてガジガジとかみ続けていたが、しばらくすると消えていった。どれだけ長い間盾を維持していたんだろう。俺はヒルデを背負って立ち上がろうとしたが、ふらりと後ろに数歩よろめく。ライリーに魔力を注いだときと同じような感覚だ。魔力切れが近い。


 セブンスは驚いたような顔をして俺たちをみている。


「あれを防ぎきりましたか。流石さすが、ものすごい魔力量ですね」


 彼女は両肩から血を流しながら俺たちに近づいてきた。すでにアデプトは切れかかっているのか、両肩だけではなく腰のあたりまで白い魔力はがれてシスター服は黒くなっている。対して目はもとの真っ黒に戻っていた。セブンスは自分の姿を確認してため息をついた。


「いけませんね。やはりアデプトは長時間使えません」


 ぶらりと下げた血にぬれた両手を何度か握ってそう言った。


「アデプトが終わる前にあなたを殺してあげます」

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