第72話 報告 2

「仕事がなければ、最初の活躍の場として王都で開かれる武闘大会に招いたのだが」


 配下として誘えたらやろうと思っていたことをジェスターは口にする。

 そこでバルームの実力を自身の目で確かめようという考えだ。


「大会ですか。守りがメインなので、防御ばかりで時間切れで負けるところが簡単に想像できますね。耐久を競う大会であれば上位にいけそうですが」

「残念ながら強さを競うものだな」

「ちなみにいつあるんですか」

「春だな」

「それだと参加はできるかわかりません。春はカルフェド様の仕事が入っているので。娘さんを護衛してほしいという依頼でしたよね」


 確認するように聞くと予定は変わっていないようでカルフェドは頷いた。


「そうだな。ただし春の時期全てを使って護衛をしてもらうわけではない。たしか大会は春の半ばだったから間に合うかもしれない」

「移動時間もあると思うんですが、間に合うんですか?」

「川を上る船を使えば直行できるからな」

「間に合うなら行ってみるのもありですね」

「参加するのかね」

「俺ではなくミローを参加させてみようかと。一度王都見物に連れていくのもありだと思いますし」

「ミローというのはたしか駆け出しと聞いている。参加させてもすぐに敗退するのではないか?」


 ジェスターも同じ考えなのか頷く。国の中心で開かれる大会だ。規模は大きなもので、参加者も強い者が多い。駆け出しで参加する者はいるが、勝ち上がることはほとんどない。


「すぐに負けてもそれはそれでいい経験です。ただルール次第では何度か勝てるかもしれません。どちらかが気絶するまでやるならミローには不利。ですが有効打を当てるとか、何度か攻撃を当てるかというものなら優勝は無理でも、すぐに負けることはないはず」


 最初から上位シーカーに当たる可能性もあるため、当然すぐ負けることもある。


「ルールは決められた範囲から出たら負け。気絶したら負け。有効打を三度当てられたら負け。殺すような攻撃は禁止。ポーションといった錬金術の道具も禁止。こういった感じだな」


 魔術師も参加することがあり、ファイアビットのような複数攻撃するようなものはいくら当たっても一度として判定される。ファイアビットという攻撃を一度使ったという考え方なのだ。


「有効打は実際にダメージを与える必要がありますか? それとも有効とみなされる攻撃を当てれば大丈夫なのでしょうか」

「後者だよ」

「だったらなんとかなるかもしれませんね」


 カルフェドの依頼を終えて、間に合うのなら行ってみるのもありだなと思う。

 大会の正確な時期を聞いて、そのあとに前回優勝者についても聞く。


「騎士だね。王の護衛も打診されている騎士だ。今回も出場を表明しているよ。鉄の騎士と異名を持ち、バスタードソードを使う二十代後半の剣士だ。基本を突き詰めた正当な強さだね。スキルは戦闘的なものではない。ちなみに優勝者は十六人まで数が減ってから参加することになっている。だから彼が参加者を蹴散らすということはないね」

「こっちの国にかなり強い騎士がいると噂で聞いたことがありますけど、その人がそうなんでしょうね」


 遠い場所の話だと二年くらい前に聞き流したことをバルームは思い出した。


(たしか国家交流の場に同行し、騎士団の強い奴と手合わせしたんだったか。全勝したから噂になったとか聞いたな)


 話が雑談に移ってきたので、バルームはもう辞去することにした。

 屋敷から出て、王族から離れたことにほっとする。


 帰ってきてから二日間の時間が流れる。ミローはバルームたちの家に顔を見せずに家族と過ごし、休みの三日目に家にやってきた。


「おはよう」

「おはようございます」


 少しだけいつもより声にはりがなくどうしたのかとバルームたちは不思議に思う。


「この前の仕事に関して話がある。報酬も渡すぞ」


 座るように勧められ、ミローがソファに座るとすぐにヘランがお茶を出す。

 礼を言ってお茶を飲むミローの前にバルームは報酬を置く。


「きっちり四等分した。それがミローの分だ」


 テーブルに置かれた硬貨をバッグに入れる。これは税金のためにとっておこうと考えてから、免除されたんだったと思い出す。貯金することに決めてバルームを見る。


「じゃあ次に仕事に関した話だ」


 カルフェドたちから聞いたことを話していく。

 クルーガムが旅人について調べられなかったことにはミローも驚いた。


「今日神託の間でクルーガム様に見てもらいながら旅人に接触ですか。わかりました」

「それでなにかわかればいいんだけどな」


 バルームはミローがソファに立てかけた剣を見ながら言う。

 そうですねとミローも頷き、剣に触れた。


「お前自身は旅人に近づくことをどう思っている? 不安あるなら」

「大丈夫です。なにが起こるのか警戒はしていますけど、不安はありません。先生たちが近くにいますし、クルーガム様も見てくれますから」


 気負った様子なく答えるミローを見て、本音だとバルームは判断した。


「仕事に関した話はここまでだ。次は武闘大会について。春の半ばに王都でそれが開かれるそうだ。時間の余裕があるなら王都見学ついでにミローを参加させようかと思っている」

「先生は参加しないんですか」


 自分が参加するのなら、自分よりも強いバルームも参加しないのかと疑問を抱く。

 

「俺はあまり向いていないと考えている。ミローも優勝とか狙わなくていい。そもそもカルフェド様からの仕事が長引いて時間が合わなければ王都行きも中止だしな」

「ああ、そういえば春に護衛をするんでしたっけ。積極的に参加希望というわけでもありませんし、中止になっても気にしません」

「そうか」

「それより王都がどんなところなのかが気になります。パパは何度も行って話だけ聞いているんですよ。先生は行ったことありますか」

「こっちの王都はないな。隣国の王都なら何度か」


 ブレッドたちと組んでいるときは、オリングス国の王都に依頼ついでで行ったことはある。しかし今いるパーラテア国の王都に来る用事はなかった。


「父親はどんな場所だと言っていた?」

「当たり前ですけど大きなところらしいです。人も多くてその分トラブルも多い。あまり家族を連れて行きたくはない場所だって言っていました」

「なにかしらのトラブルに巻き込まれたことがありそうだ」


 かもしれないとミローは頷いた。


「王都まで行くとしたら馬車ですか?」

「イレアスが嫌がるかもしれないが船だ。それが一番早いしな」


 船と聞いてイレアスの表情が少し歪む。

 そうそう沈むことはないとフォローを入れて、バルームはミローの様子について尋ねる。


「今日は少し元気がないように思えるが、なにかあったのか」

「あー、わかりますか。といっても特にこれといったことがあったわけじゃないんですよ。朝起きたらなんでか、少し体が重くて」


 風邪をひくような生活をしたわけではなく、生理でもない。休みの間はむしろ鍛錬も控え気味にしていた。


「季節の変わり目で体調を崩すというには、まだ春はこないしな。明日明後日その状態が続くなら病院に行ってきた方がいい」

「そうします」


 連絡すべきことはして、雑談をしながらお茶を飲み、飲み終わるとバルームたちは神殿に向かうため家を出る。

 バルームたちが神託の間に入ると、クルーガムは挨拶してそしてミローが呪われていることを告げる。


「え? 今なんて?」


 予想外のことを言われたとミローは驚きを露わにして聞き返す

 

「弱い呪いがお前にかけられている」

「呪われるようなことはしてないんですけど」

「呪いということはスキルですよね? シーカーが犯人ということでしょうか」


 バルームが聞く。


「この弱さはスキルじゃないかもしれないぞ。呪いのスキルを素質として持つ一般人が、ミローのことを強く思ったことで呪いとなっている可能性もある」

「そんなことがあるんですね」

「たまにあることだ。火の魔術を素質に持つ者が暑さに強かったり、読心のスキル持ちが相手の感情を察するのが上手かったりすることがある。おそらく昨日会った誰かだろう。心当たりはないか」

「昨日は家族以外だと友達に会いましたね」


 友達に呪われたのかとミローはショックを受ける。

 ミローの背中をぽんぽんと叩きながらバルームは、その友人たちとなにを話したのか聞く。


「ええと、おつかいを頼まれて年越しのときに会った子ケーテとまた会いました。年末年始から再会するまでなにをしていたのかといったことを話していたら、別の友達も来たんです。ほかの子たちも休憩時間だったのか集まって、そして休憩が終わった子から離れていきました。最後に残ったのはツーグという男の子ですね。彼からチルフェの日に二人で遊ばないかと誘われて、予定が空いているかわからないから断ったんです。それでシーカーは大変じゃないのか、やめてもいいんじゃないかって聞かれました。それに対しては大変なこともあるけど先生たちが一緒だから楽しいって返したところで、ツーグの休憩も終わって帰っていきました」

「その話の流れだとツーグが原因だ」


 クルーガムの断定に、ミローはきょとんとする。


「ツーグがですか?」

「ミローの人間関係について少しは知っている。ツーグがお前に恋愛感情を抱いていることもな。チルフェの日という祭りに誘って断られた、それをミローは軽く受け止めているが、ツーグとしてはデートのつもりで誘ったんだ」

「そうだったんですね」


 ミローは少しばかり驚く

 以前ケーテが言っていたミローに気のある男がツーグだ。そのことにミローはまったく気づいていなかった。

 少しでも気づいていれば、二人きりで遊びたいという誘いをデートの誘いだと気づけただろう。しかしミローは友人としか思っていなかったので、額面通りに受け取った。


「でもそれで呪うまでしますか?」

「ツーグ本人としては呪っている自覚はないだろう。しかしミローがシーカーでいるから断られた。今後誘っても断られるかもしれない。そう思ってやめて欲しいと強く望んだことが呪いの切っ掛けになったのだろうさ」

「どうすれば呪うのをやめてくれるんでしょうか」

「ツーグをきっぱりとふることだ。振り向くことはないと理解すればお前に思いを向けるのは止めるはずだ」

「逆恨みとかしてきませんかね」

「思いを引きずることはあるかもしれない。逆恨みもあるかもしれない。それでもふってやらなければツーグはいつまでもお前を思い続けるぞ。それに応えるつもりはないのだろう?」

「はい」


 そこにはしっかりと頷く。惚れられているとわかっても、心が揺れることはなかった。

 シーカーとしてしっかり育っていきたいので、気にかけるつもりがない。それに加えて憧れや好意はバルームに向いていて、ツーグが入る余地はないのだ。


「だったらしっかりふってくることだ。そしてここに来るように伝えておいてくれ。今後別の誰かを好きになったとき同じことが起こるとツーグも相手も生きづらいだろう。呪いの才を封じる」


 鍛えているミローだから軽度の体調不良ですんでいるが、一般人が呪いを受けるとより重い症状が出るのは確実だ。スキルを獲得するつもりがないのなら、そのようなものは封じた方がツーグのためだ。


「わかりました」

「では本題に入ろう。まずは旅人をここに連れてくるように神官に伝えてくれ」


 了承したバルームたちは一度神託の間を出て、神官にクルーガムからの用件を伝える。

 すぐにその神官はミラートのところへと許可をもらいに走っていった。

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