第43話 指導会 1
宿でミローと一緒にイレアスとピララの勉強を見ていたバルームは、届け物だと宿の店員から手紙を渡される。
誰からだと首を捻ったバルームを見て、ミローが横から手紙の印を見る。
「その印はたしか領主様のものですね」
「領主ってことは、クルーガム様から話を聞いたってことか」
中身を確かめると、夕食後に会って超魔に関して話したいと書かれていた。
「予想通りの内容だな。後で行くか」
「私たちは行かなくて大丈夫なんでしょうか」
「来いと書かれていないから大丈夫だろうさ」
領主の名前やどういった人物なのかミローに聞きながら、イレアスたちの勉強を再開する。
日が暮れる前にミローは帰っていき、イレアスとピララと一緒に夕食をとったバルームは身支度を整えて、清潔に見える私服で宿を出る。
カルフェドの屋敷の場所は、以前町を歩き回ったときに確認しておいたので迷うことなく到着する。
門番に招待状を兼ねた手紙を見せて、案内役としてやってきたメイドと一緒に敷地内に入る。
応接室に通されて、少し待つだけでカルフェドはやってきた。護衛の兵と補佐も一緒だ。
バルームは立ち上がり、一礼する。
「君がバルームというシーカーで間違いないかね」
「はい。シーカーのバルーム、お呼びと聞き参上いたしました」
その返事に若干の硬さを感じたカルフェドは、それが緊張ではなく警戒だとわかり、貴族を嫌っていることが本当らしいと確信を得る。
「急に呼び出してすまないな。まずは座ってくれ」
ソファを勧められたバルームは、カルフェドが座るのを見てから座る。
「用件は手紙に書いてあったように超魔に関してだ」
カルフェドから放たれた言葉に兵や補佐は動揺を見せない。事前に説明されていたのだ。
「はい、承知しております。私の役割もです」
「確認するが、挑発スキルを使って超魔をひきつける。これで間違いないな?」
バルームはこくりと頷く。
クルーガムからできると聞いているカルフェドは疑うことはないが、兵と補佐からは若干の疑いの視線が向けられる。
「その挑発スキルがどういったものか詳しく説明を聞きたい。自らの持ち札を晒すことは嫌かもしれないが、こちらとしても少しでも安心できる情報がほしい。すまないが話してもらえないか」
「言いふらさないと約束してもらえるのなら」
「ああ、約束しよう。クルーガム様から推薦された人物に不義理な真似はしたくないしな」
あとが怖いとカルフェドが少しおどけるとバルームも少しだけ表情を緩めた。
「私のスキルは挑発。三段階目まで育てています。敵対する者や魔物の気をひくというのが初期に得たスキルです。上限は三体までです。そして二段階目は広範囲に挑発を行えて、私自身の頑丈さが上がるというものです。頑丈さが上がる時間は三十分ほどです。この挑発は格上には抵抗されることがあります」
ここまではいいかと一度切って確認すると、カルフェドは頷きを返す。
「最後に三段階目の挑発対象は一体のみ、しかし絶対に気を引けるというものです。ほかに挑発した者の攻撃を三度まで無効化します。この三段階目と二段階目のスキルを使って、超魔をひきつけることになります」
「ありがとう。クルーガム様が推薦した理由がわかるというものだ。その効果ならば超魔を群れから引き離すことが可能だな。説明になかったが、効果の及ぶ距離はどういった感じだろうか」
「五十メートルが限界でしょう」
「超魔が一体だけでいるなら十分な距離だが、群れに囲まれていると周辺の魔物が邪魔になるかもしれんな」
「いただけるのなら使い捨てていい馬がほしいです。いっきに近づいてスキルを使い、そのまま離脱して馬の体力が尽きるまで逃げ回り、疲れたところで馬を捨てて戦闘開始といったふうに動けますので」
それが無理なら、こそこそと近づき潜んで周囲の魔物が減ったときにスキルを使って走って逃げるつもりでいた。
「名馬は無理だが、一頭だけならなんとかなるだろう」
「ありがとうございます。馬には久々に乗るので、何度か騎乗練習を行いたいのですが」
「準備しておこう。今後の予定は練習以外になにかあるかね」
「明日からシーカー代屋主催の指導会に参加します」
「あれに参加するのか。しかし君はそこで得るものはないだろう」
「私ではなく、指導している子たちを参加させたいのです。あとはジャネリというシーカーを見てみたいと思っています」
「彼に興味あるのかね?」
「ここらで一番と聞いていますので、そういった存在がどのような性格なのか知っておきたいと思いまして」
「良き人間だよ、彼は。私も助けられている」
その言葉に偽りはなく、よく頼み事をしていた。しっかりとした実力があり、性格もまともで、頼りがいがあるのだ。
「彼の仲間はどういった感じなのでしょうか」
「問題となる人物はいないと思う。少々図に乗っている人物もいるようだが、ジャネリが窘めれば素直に従う。だれかを虐げたといった話は聞かぬな」
「それなら一緒に仕事をやりやすそうですね」
あとは実際に自分の目で見て、聞いたことが本当か確かめるだけだ。
「今日のところはこれくらいか。正式に契約を交わすのは次の機会ということでよろしいか。それまでに書類を作っておく」
「その書類ができるのはいつくらいになりますか」
「互いに公正になるよう検討するから少し時間をかけたい。五日後くらいになるだろう。その後に君にも見せて、話し合いの場を設けて契約となる。その契約書は神器を使う予定だ」
「シーカーに神器を使った契約を行うのですか」
バルームは驚いたように聞き返す。
「クルーガム様から君が貴族に対して嫌悪感を持っていると聞いた。通常の契約書では不安があるだろうと考え、神器を用いることにした。それだけこちらも本気とわかってもらえると嬉しい」
「たしかに神器まで用いるのなら安心できます。もとより手を抜くつもりはありませんでしたが、契約内容がひどいものでないかぎり力の限りを尽くしましょう」
「感謝する。ああ、乗馬の練習は契約後になる」
まあそうなるなとバルームは頷いた。
一応武具の準備は必要かといったことをカルフェドは確認し、解散になった。
一回目の顔合わせは互いに問題なく終わり、今後もスムーズにいってほしいものだという感想になった。
翌朝、バルームはミローたちと一緒に町の外に出る。
指導会は町から少しだけ離れた土地を確保して行われる予定だったが、そこからさらに少し離れることになった。
使う予定の場所は襲撃に備えて馬防柵を設置するためのスペースで、その作業の邪魔になるからだった。
向かった先には若いシーカーたちが集まりだしていた。ミローとイレアスと同年代もいれば、十七歳くらいの若者もいる。ピララと同年代はおらず、少しだけ注目されている。
シーカー代屋で聞いた話によると、参加を決めた駆け出しの数は二十七人。駆け出しの約八割が参加した形だ。最長で一年弱シーカーを続けた者、最短で一ヶ月未満という感じだとバルームたちは聞いていた。
「バルームさん、おはようございます」
すでに来ていたゼットたちがバルームたちを見つけて近づいてくる。
「おはよう。ビッグポートリーのとき以来だな」
「はい。あそこで順調に狩りを行えるようになって冬に備えてお金を貯めています」
「あそこで順調なら、南のダンジョンでも魔物を選べばやっていけるだろう」
いずれ行くつもりだったゼットたちは南のダンジョンがどういったところなのか、戦いやすい魔物はどういったものなのか聞いていく。
実際に戦ったミローたちも感想を言っているうちに指導会の開始時刻がきた。
シーカー代屋からの代表者がカランコロンと小さな鐘を鳴らして注目を集める。
代表者のそばには指導役らしいシーカーたちの姿もある。
「おはよう。これから指導会を始める。私は指導会の進行役の一人パゼムだ。私の横に並ぶシーカーたちは今回指導役をしてくれる。わからないことがあればなんでも聞くといい」
そう言いながらパゼムは駆け出したちを見て、その中にバルームを見つけて首を傾げた。明らかに熟練のシーカーがあちらに並んでいるので疑問に思ったのだ。
ほかの進行役はバルームのことを知っていて、ミローたちを連れて来たのだろうと耳打ちする。なるほどとパゼムは頷き、隣に立つ二十歳ほどのシーカーを手で示す。
「彼はジャネリ。ここらでは一番のシーカーだ。少々強面ではあるが、親切な男だからわからないことがあれば積極的に聞くといい」
その紹介にジャネリは笑みを浮かべて軽く手を振った。
坊主頭で、身長はバルームよりも高い。百八十センチ半ばくらいはあるだろう。背には大剣があり、戦いなれた雰囲気をまとっている。
「紹介されたジャネリだ。パゼム殿が言ったようにわからないことがあればどんどん聞きに来てくれてかまわない。俺たちの知識が君たちの役に立つことを祈っているよ。そしてシーカーとして成長してくれることを望む」
簡単に自己紹介を終えて、ジャネリの仲間たちの紹介に続く。それが終わるとほかの指導役の紹介だ。
紹介が終わり、再びパゼムが話し出す。
「今日のスケジュールを発表する。戦闘技術を早く習いたいかもしれないが、今日は違う。野営や応急処置や買い物の仕方といったものの知識と技術の伝授を行う。必要な知識だから期待外れだと不真面目にやらないように。いつか必ず役に立つのだから。そうだろう、ジャネリ」
「ええ、シーカーをやっていればどちらも必要とする。特に応急処置はポーションが手元にない場合は必須な技術だ。応急処置をするかしないかで、怪我の治りの早さが違ってくるし、後遺症などにも影響が出てくる」
ジャネリの言葉に駆け出したちは本当に必要なものだと理解し、真面目な表情になった。
パゼムは頷いて口を開く。
「では最初は班分けからだ。五人前後で集まりを作ってくれ」
ミローたちもゼットたちももとから組んでいた形で班を作る。
ほかのものたちももとからの仲間で班を作っていき、余った者たちは進行役たちが声をかけて班にしていく。
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