第39話 しあわせのための覚悟


「ジョニイへの、責任を負わせてください」


 小春はマスターの研究室で、深々と頭を下げた。向かい側に立つ、瀬戸とエース、そしてマスターに向かって。


「覚悟ができました。といっても、その……生半可なものじゃないんです。ジョニイとこれからも生きていきたいんです。彼と出会うまで、私は、その……精神的にひ弱で、甘えて、誰かのせいにして、そういう自分が嫌いで、死んだように生きてたんです。でも、ジョニイに出会って、ちゃんと生きられるようになったんです。彼が動かなくなって、やっと自分のことが分かって。無駄で遠回りばっかりする、意味のない人生を送っていると思っていたけど、そうじゃなかったと、彼が教えてくれました。この人を、失いたくないんです。もちろん、未来のことは分かりません。でも今、私は、どんな責任を負っても、この人と一緒に生きていきたいんです。彼に、恩返しがしたいんです」


 伝わってほしい、と一生懸命に話せば話すほど、想いだけが前のめりに進む。つっかえながら、それでも必死に、とぎれとぎれに言葉にした。

 言い終わるころにはもう、涙目になっていた。



「小春さん、ありがとう」


 しばらく会っていなかった瀬戸は、少し痩せていて目の下にクマを作っていた。だけど、いままで見た中で一番優しく微笑んで、ほっとしたように言った。本当に、ジョニイの親みたいだった。


「21男坊は幸せだね」


 エースも目に涙をためて、横たわるジョニイに言った。


 マスターはもうほとんど泣きながら、小春を優しく抱きしめた。




「では、修理が終わり次第、お渡しします」


 瀬戸がそう言い、小春はもう一度深く頭を下げた。


「よろしくお願いします」


 エースが軽くステップしながら小春に近づき、耳元でささやいた。


「欲深くもなるから、セックスしたいとか言い出すと思うよ」


「えあっ!?」


 小春が目を見開いて声を上げると、エースは幸せそうにはにかんだ。


「頑張って!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る