第10話 底辺JKたちの委員長

 いくら受験生といっても、毎日家にひきこもっていられない。


 一人暮らしなので、食料や日用品の買い出しは必要だ。

 それ以外にも、最低限の気晴らしは必要だろう。


「つっても、先輩はあたしとノノの身体で気晴らししてんじゃん?」

「ぶっ!」


 飲んでいたコーヒーを漫画みたいに噴き出しそうになった。


「最近はノノに最初から最後まで全部ヤってもらって、そのあとで今度は先輩のほうからあたしを責めるパターン、できあがったよね」

「お、おまえ、外でそんな話を……!」


 ここは、巧家近所にあるカフェ、スターパークだ。

 今日は気分転換も兼ねて、スタパで勉強をしにきたんだが……。


「大丈夫、大丈夫。誰も人の会話なんか気にしないよ」

「……そうみたいだな」


 スタパにいる客の大半は、愛姫と同じ制服姿のギャルたちだ。

 というか、藍蓮女子の生徒たちだ。


 全員、おしゃべりに夢中でこっちなんか誰も見てない。


「今、午後一時過ぎなんだが……なんでこいつら、堂々と茶を飲んでるんだよ」

「お昼ご飯のあと、ティータイムって普通じゃない?」

「貴族さまじゃねぇんだよ」


 昼飯食ったあとは、普通に次の授業だろ。

 藍蓮の常識、絶対に普通の高校生と違う。


「愛姫は、俺と茶を飲んでていいのか?」

「いいの、いいの。星沢が苦手なJKから先輩をガードしてあげないと♡」

「ガードね……」


 カフェで勉強なんて、ガラにもないことをするんじゃなかった。

 スタパに入ろうとしたところで、ちょうど店に来ていた愛姫に見つかって。


 特に誘ってもいないのに、愛姫は俺と同じテーブルについている。


「つーか、先輩もJK苦手とか言ってたくせにねー」

「な、なんだよ」

「まさか、JKを眺めながらお勉強とか……ゆーがなご身分じゃん?」

「そんなわけないだろ!?」


 いや、藍蓮の生徒が多少いるかもとは思ったが。

 まさか、ギャルJKで埋め尽くされてるとは思わなかった。


「このスタパ、藍蓮女子でもってるようなもんだし?」

「いや、藍蓮の生徒以外お断りみたいになってるだけで、こいつらがいなきゃ普通の客で埋まってるだろ」


 カフェ側は席が埋まれば誰でもいいのかもしれないが……。


「でもまあ、全員やかましいけど、意外にお行儀は悪くないな」

「ちびっ子じゃないんだから。暴れ回ったりはしないよ、あたしたちも」


 実際、このくらいなら他の客も迷惑には感じないだろう。

 JK率80パーセント超えなんで、男は多少入りにくいが……。


「それとも、先輩ってば藍蓮のJKのパンチラ目当てで来ちゃった~?♡」

「そんなもん狙うか!」


 カフェでパンチラなんか――

 と思ったが、どいつもこいつもスカート短すぎだ。


 脚組んで座ってるヤツとか、角度によってはパンツ見えそう……。


「とか言いながら、JKの太ももガン見してる件について♡」

「うるさいな……いや、俺は勉強しにきたんだよ!」

「えぇ~、星沢はカフェでお勉強とか信じらんないね」

「おまえは場所を問わずに勉強なんかしないだろ」


 学校の教室でも勉強してないだろうな、このメスガキは。


「でも、そっか。先輩はいつでも、星沢とノノのパンツ見られるもんね♡」

「あのな……」

「ここで見る? 男のお客さんいないし、ちらっとなら♡」

「わっ、馬鹿っ」


 愛姫は俺が止めるのも待たずに、ちらっとスカートをめくってパンツを見せてきた。

 ピンクの可愛いパンツが、一瞬だけ見えてしまった……。


「へへー、そう言いつつばっちり見てんじゃん♡ お店出て、パンツの中まで……見ちゃう?」

「ふざけんなよ、愛姫……」


 パンツの中をカフェで見せなかったあたり、愛姫の行動にしてはまだマシ。

 そんな風に感じてしまうのが恐ろしい。


「毎日、ノノと並べて前から後ろからパンツ見てるもんねー♡ もちろん、中身もお尻も♡」

「ま、毎日ではないだろ。今日はノノアいないしな。そういや、あいつどうしたんだ?」


「ノノは今日は買い物だって。あいつ、買い物は基本ソロ派なんだよね」

「本当に優雅に生きてんな……」


 授業サボってショッピングかよ。


「昨日、怒られたから買い物でストレス発散するって」

「怒られたって、教師とか親にか?」

「ノノは親とか教師に怒られても完全スルーだよ」

「みなさん、ノノアには手を焼いていそうだな……」


 あのクールで物事に動じない顔をされたら、怒る気力もなくなりそうだ。

 俺は、あのクールな顔がそそるというか興奮するというか……。


「委員長に怒られたんだよ」

「へえ」


 唯一、俺と風呂に入りそうにない委員長か。

 ある意味、凄く興味があるな……。


「なにをやらかしたんだ、ノノアは」

「休み時間に先輩とヤってるときの写真を眺めてたら、委員長に見つかっちゃって」

「マジでなにしてんだよ、ノノアは!?」

「あの子、常にエロいこと考えてるから。エロ写真を眺めるの、大好きなんだよね♡」

「マジかよ……」


 たまに俺に“すごいこと”をしながら写真を撮ってるのは気づいてたが。

 まさか、教室で見返してるとは想像もしなかった……。


 そりゃ、委員長じゃなくても怒られるだろ。


「ノノアは一番委員長に怒られてるかも」

「二番目は愛姫だったりしないだろうな?」


「学校戻ったら怒られるかも。今日、出さなきゃいけない宿題あるんだよねー。簡単だけど、出せばポイントになるから出せって」

「待て、愛姫。おまえ、それ出してないのか?」

「うん、英語だけど、さーっぱりわかんないもん♡」

「出しとけよ、それは!」


 要するに、お馬鹿やサボリ魔への救済措置だろう。

 それは提出しないとまずいに決まってる。


「しょうがない……それ、俺が教えてやるからすぐにやって出しに行けよ」

「あ、プリント持ってないや。学校に置きっぱなしだね♡」

「近いんだから、こういうときに行き来しろよ!」


 俺の家と学校は気軽に往復するくせに。

 カフェからも藍蓮は歩いて数分の距離だ。


「その必要はありません。持ってきましたから」


「へ……?」

「あれっ? い、委員長?」


 気がつくと、すぐそばに女の子が一人立っていた。


 黒髪ロングに、整ったすっきりした顔立ち。

 すらりとした長身に――

 地味なベージュのカーディガンに、膝丈のスカート。


 一見、ギャルだらけの藍蓮女子とは一線を画しているが、間違いなく藍蓮の制服だ。


「星沢さん、プリント早くやってください。わざわざ持ってきたんですから」

「い、委員長も授業サボリ……?」

「自習になったので、担任の許可をもらって出てきたんです。ここにいるって聞いたので」

「星沢の居場所バレバレー♡」


 わざわざ、愛姫に課題をやらせるために学校を出てきたらしい。

 ずいぶん親切な子みたいだ。


「というか、そちらの方は……あっ……!」

「ん?」


「あ、先輩。委員長――じゃなくて、月乃つきのりんちゃん。Eカップだよ♡」

「そんな紹介がありますか! ど、どうしてわたしのカップ数を知ってるんですか!」

「テキトーに言ったけど、当たってたんだ。やるね、星沢ちゃん♡」

「こ、この人は……!」


 委員長――月乃凛とやら、愛姫にも手を焼いてるようだな。


「そ、そんなことはいいんです。それより、あなた……旭さんにちょっかいかけてる男の人、ですよね?」


 凛は顔を真っ赤にして、俺を睨んでくる。

 そうか、彼女はノノアが撮った俺との写真を見てるんだったか……。


 これ、ヤバくねぇ?


「ほ、星沢さんにも手を出してたんですね……お、お話があります。お時間、ありますか?」

「だったら、先輩ん家に行こっか。こっからすぐだよ♡」

「あっ、愛姫、おまえ!」


 いらんことを言ってくれる!

 愛姫とノノアが、毎日俺の家に入り浸ってることがバレたら……!


 通報されたら、痴漢事件どころの騒ぎじゃない。

 あっちは冤罪だったが、愛姫たちを入り浸らせてるのは事実だし。


「い、家ですか……? い、いいですよ。あなたのお家に伺いましょう」

「…………」


 しかも、この子もあっさり来るとか言ってるし。

 真面目そうに見えるのに、警戒心薄いんじゃないか……?



小あとがき

 ここから、旧『メスガキ』とは完全別ルートの新作になります。

 ちょっと更新が飛び飛びになりそうですが、お待ちいただければ……!

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