底辺女子高のギャルJKどもにわからせたい
かがみゆう
第1話 底辺JKは今日もウチにいる
現在、絶賛浪人中――
一軒家に一人暮らし。
しかも生活費は親が全額出してくれている。
形の上では、最近亡くなった祖母の持ち物だった一軒家を管理して、その報酬として生活費をもらっている。
管理といっても、家は人が住まないと傷むので俺が住んで、一応掃除などもしている程度だ。
この程度の仕事量なら、高校生のお小遣いくらいの金額が妥当だろう。
一人暮らしの生活費を出してもらっているのは――甘えすぎだ。
さらに、祖母の家は古めかしい和風の平屋だが、意外に生活しやすい。
キッチン、風呂やトイレは数年前にリフォーム済みでこれらも快適。
家族の目もなく、小言をいわれることもない。
浪人生の環境としては最高なんじゃないだろうか。
一応、名門大学を目指している身。
勉強は元々嫌いではないので、サボる心配はない。
親も期待してくれているし、それに応えられる見込みもある。
とりあえず、甘えるだけ甘えておいて、今は勉強に集中しよう。
そう思っていた時期が俺にもあった――
「あ~、せーんぱぁい。おっはー♡」
「…………っ」
朝、俺が布団の上に座ってぼーっとしていると。
隣で寝ていた
ちゅっ、と頬にキスしてきた。
柔らかな唇が一瞬触れて、離れる。
「お、おまえ、いきなりなにしてんだ?」
「えー? 先輩、ほっぺちゅーくらいで今さら照れなくても。あたしと先輩の仲じゃん♡」
「どんな仲だよ」
ここは、祖母の家の居間。
普段は卓袱台を置き、そこに問題集やノートを並べて勉強している。
夜に勉強を終えたら卓袱台を部屋の隅にどけて、布団を敷く。
一応、祖母の家には和室が二つ、洋室が一つあって。
和室の一つを俺の寝室にしていたのだが、今はほぼ居間で生活している。
「つーか、もう朝8時じゃねぇか。うわ、マジか!」
「え、8時だとなんかマズいの?」
「おまえがマズいんだよ! 学校、遅刻すんだろ!」
俺は予備校に通っていない浪人生。
実のところ、時間に拘束されていないけっこうなご身分だ。
だが、隣で寝ていた星沢愛姫は高校二年生。
学校の授業開始は、8時45分から。
「うーん、8時かー」
その当の本人は、至って呑気そうだ。
ちなみに、愛姫は長い茶髪はボサボサ。
派手なピンクのキャミソールにブルーのショートパンツという格好。
ノーブラなので、軽く動いただけで豊かな二つのふくらみがたゆんと揺れる。
これから髪をとかして、制服を着なければならない。
女子は身支度に時間がかかるので、それだけで45分など過ぎてしまいそうだ。
「ま、いいや。二度寝しちゃおっかなー」
「お、おいっ」
愛姫は布団の上にあぐらをかいている俺のひざに、ぽてっと頭を乗せてきた。
「せんぱーい、慌てなくても。あたし、遅刻しないほうが珍しいんだし♡」
「それがダメなんだっつーの」
愛姫は明るい茶髪のロング、左耳だけにピアスをしていて。
今はメイクはしてないが、制服に着替えたら、どこからどう見てもギャルだ。
「いいじゃん、あたしは底辺高のお馬鹿ちゃんなんだから♡」
「お馬鹿ってなあ……自分で認めてどうすんだよ」
愛姫は、
偏差値は低く、入試は名前を書ければ合格する――なんて噂されるレベルだ。
生徒たちは勉強はまったくやる気がないと聞く。
実際、遅刻を気にする生徒のほうが珍しいだろう。
だが、見知らぬ生徒はともかく、愛姫にそんないい加減な学校生活を送らせていいのか……?
「せんぱーい、真面目すぎー。夜は全然不真面目なくせにぃ。ちゅ♡」
「だ、だから、思いついたようにキスすんな!」
「やーだ♡」
愛姫は身体を起こし、ちゅっちゅっと何度も頬にキスしてくる。
「だいたいさー、先輩だってキスしまくるじゃん?」
「うっ……」
「星沢の身体で、先輩がキスしてないトコなんてあんのー?♡」
「ううっ……」
「まったくさぁ♡ 朝になったら急に真面目ぶんだから♡」
「…………」
この生意気なギャルJKにまるで反論できないのが辛い……。
「あれー、二人ともまた朝からイチャイチャしてるの……?」
「うわっ」
居間のふすまが開いて、入ってきたのは――
赤毛のセミロングで、前髪が長く、右目がほとんど隠れている。
愛姫も細いが、ノノアはさらに細く――
その細い身体にバスタオルを巻いただけの格好だ。
身体が細い割に大きくふくらんだ胸が、半分近くも見えている。
「お、おい、ノノア、おまえなんて格好で……!」
「シャワー浴びてきたの。お兄さん、ゆうべは私の身体、だいぶお楽しみだったの……」
「ぶっ……!」
ノノアは動じる俺にかまわず、布団の上にぺたりと座った。
「はい、おはようのちゅー……♡」
「…………っ」
俺の前に座ったノノアは身を乗り出して、唇を重ねてくる。
ちゅ、ちゅっと何度もキスして、舌を伸ばして唇を舐め回して――
「ちょ、ちょっと、ノノ! あたしもまだほっぺにちゅーしかしてないのに!」
「え? 別にいいでしょ……お兄さんは、みんなのものなの……」
「誰のものでもねぇよ」
唇を解放され、俺はなんとかツッコミを入れる。
「先輩は、可愛い可愛い愛姫ちゃんに朝一番でちゅーしたいんだよ!」
「ノノアさんもなかなか可愛いの……」
「なにを張り合ってんだ……」
確かに、ノノアもとんでもなく可愛い。
クールな美貌に、ガラスのように華奢な身体つきで不思議な魅力がある。
って、そんなことはいいんだよ。
こいつら、二人揃って遅刻へのタイムリミットが近づいてることなんて一ミリも気にしてない。
マジで大丈夫なのか、こいつら?
社会に出てやっていけるのか?
「あのな、愛姫、ノノア。遅刻を許してもらえるのは学生のうちだけだぞ」
「だから、今のうちに自由を楽しんでるんじゃーん♡」
「
愛姫とノノアが、左右からちゅ、ちゅっと同時にキスしてきて。
さらに二人が舌を伸ばして俺の唇をぺろぺろ舐めてくる。
「ま、あたしたちは人生舐めてるから! 先輩の唇もぺろぺろするけど!」
「お兄さんも、JK二人の唇、ペロるの?」
「ペロるってなんだよ……」
いや、言わんとしていることはわかるが。
そりゃ、可愛い唇をペロりたいに決まって――って、だからそうじゃない!
人生舐めてるこいつらに、やっぱ一言いっておかないと――
「あっ、星沢さん、旭さん、まだそんな格好で! 今日も遅刻する気ですか!」
突然、よく通る声が響いた。
我が家の居間は廊下へのふすまの他、台所へとそのまま繋がっている。
一応、ダイニングキッチンになっていてダイニングテーブルもあるが、そちらで食事をすることはほぼない。
だいたい料理は居間に運んできて、ここの卓袱台で食べる。
「お、おお、
「いましたよ、もっと早く気づいてください」
愛姫やノノアと同じ、藍蓮女子に通う女子高生だ。
黒髪ロングに大きな瞳、ノーメイクだが整った顔つき。
一見ギャルっぽくない――が、本人は“清楚系ギャル”を自称している。
「ご飯の用意、もうすぐできます。星沢さんたちは、さっさと食べてくださいね」
「うー、また委員長に怒られたー」
「いいんちょ、朝からうっさいの……」
「誰がうるさいですか! 二人ともまず着替えて――」
「とか言ってるけどー、委員長こそ、先輩のシャツ着てんじゃーん」
「ホント、彼シャツとか自分こそ着替えろって話なの……」
「…………っ、いいじゃないですか! 先生のシャツをエプロン代わりに使ってるだけです!」
「…………」
そう、この黒髪ロングの美少女ギャルが着ているのは俺のワイシャツだ。
俺はこれでも175センチほどあって、凛は160センチくらいだろう。
袖も裾も長すぎて、だぶだぶだ。
しかも前ボタンをほとんど開けていて、Eカップの胸がほぼあらわになっている。
もちろん、裾の下は真っ白な太ももが丸見えだ。
「本当になにしてるんだよ、凛まで……」
「あ……ご、ごめんなさい、先生……勝手に借りてしまって……」
凛はゆっくり俺のそばまで来て座ると、ちゅっと唇を合わせてきた。
彼女は同級生二人には強気だが、俺の前では妙にしおらしい。
「こ、これでお詫びになりますか? ち、遅刻は困りますけど、少しくらいならキスかそれとも――」
「い、いや、お詫びなんかいらない」
黒髪美少女のキスと俺のヨレヨレのシャツじゃ、釣り合いが取れない。
「というか、ドサクサに紛れて委員長までちゅーしてるし! せんぱぁい、一番の問題児にまだキスしてないよ! もっとお仕置きしないと!」
「自分で言うなよ」
「きゃっ……せんぱいっ♡」
「やんっ……お兄さん♡」
「あ……先生……♡」
俺はノノアと凛を両手で抱き寄せつつ、愛姫にキスする。
朝っぱらから三人の女子高生が、我が家の居間にいる。
この家には、俺が引っ越してきて持ち込んだ布団、客用の布団と合わせて三組の布団がある。
その三組の布団を居間に敷いて寝ているが、俺と女子高生三人だとけっこうギリギリだ。
このままいくと、足りなくなるかもしれない――
俺は、愛姫にキスしながらちらりと居間のガラス戸を見る。
その向こうには、大きな灰色の建物――
愛姫たちが通う藍蓮女子高校が建っている。
藍蓮女子は、我が家から徒歩十秒の距離にあるのだ。
愛姫たちは適当に学校を抜け出しては俺の家に来て。
たまに泊まっては、俺の家から登校することもある。
一人暮らしを始めた浪人生が、なぜギャル女子高のJKたちに囲まれることになったのか――
そのきっかけは、今から一ヶ月ほど前――
四月上旬に遡る。
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