06:二人の事情と一人の決意

 夜会を終えて家に戻れば、母や義兄から厳しい追及が待っていた。

 二人とも言っているのは同じ内容。

「ねえ、リッヒ。貴方行く前は深く関わらないって言ってなかったかしら?」


 仰るとおりだ。

 ちょっとした興味に惹かれて誘いに応じた僕は軽率で、気づけば二人で話すようになり、夜会で唯一彼女と踊った令息になっていた。

 あぁ仕舞ったなぁ。


 ただクラウディアは、話してみれば余所行きの仮面を被っているだけの令嬢だった。

 本当の彼女は年の差を感じないほど可愛らしい笑顔で笑うのだ。


 あの笑顔はもう一度見てみたい。



 そう思った瞬間、僕は「ところで義兄上」と前置き、

「公爵家であれば、フェスカ侯爵の政敵とは無縁ですよね?」

 と、聞いてしまった。









 夜会を終えれば、わたしは自分が失敗した事を痛感していた。

 このまま何も言わなければ、わたしが気に入った令息は間違いなく、ギュンツベルク子爵のディートリヒと言う事で話が進んでしまうだろう。


 二人の年の差は六歳。

 性別が逆ならさぞお似合いの二人だったのに、残念だ。


 残念?



 昨夜の夜会で、わたしの心の中にはあの人はもう居ないことが分かった。

 変わりに、灰色の世界に入った唯一の色は涼しげな水色の二つの瞳……



 言わなければ、彼に迷惑が。

 それに年齢が。


 言えば……?



 後悔する?

 わたしの中の涼しげな水色の瞳はニコリと笑っている。







 公爵家の夜会を終えた後、社交界では公爵令嬢の相手がついに決まったらしいと言う噂が流れていた。

 その令息の名は、ギュンツベルク子爵のディートリヒだと言う。



「許さない! 絶対に許さないわ!」

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