第11話 皇太子『リドール』

 ドアの前でうなずく峻一朗。静かにナージはそれに反応する。

 少しの沈黙のうちに、峻一朗は右足でドアを蹴り上げる。鍵は解錠されていた。ドアが外れんばかりの勢いで開かれる。

 ドレスが舞い、ナージが身を翻して部屋に転がり込む。瞬時に体制を立て直し銃を構える。

 部屋の中には――一人の少年がソファに身を預けていた。二人の姿をあわてるでもなく、優雅に眺めながら。

 無言で銃口をナージは突きつける。峻一朗は少年の顔を見つめると、そっとその銃口を右手で抑えた。

「なんの冗談でしょうか。王女陛下」

 くすっと少年は笑みを浮かべる。ナージが不思議そうな顔をする。

「よくお気づきですこと。そう――僕は王女リーディエ。より、正しくは皇太子リドールだ」

 最初の声は高く、後半は明らかに男性のものだった。

「王城で性を偽るのはわからんでもありません。色々秘密もおありでしょうから。しかし、わざわざそのような方が身分を明かしてこそ泥のマネをされるのは合点がいきませんな」

 峻一朗が不機嫌そうにそう訴える。無理もない。自分のコンパートメントの中にセドラーク王国の皇太子がいたとなれば、厄介なことこの上ない状況であるのだから。

「まあ、性を偽っていたのはお互い様のようじゃないですか。そちらの従者の方も、セドラーク王国では男装していたみたいだし」

 ナージの方をじっと見ながら王女リーディエあらため、皇太子リドールはそうつぶやく。

「ちょっと気になることもあって、お手伝いさせていただこうかなと。幸い『男の』僕はあまり知られていないようだし」

 ナージがあからさまに嫌そうな顔をする。

「それにしてもどのように皇太子殿下は忍び込まれたのですか。このコンパートメントには厳重に鍵をかけておいたはずですが」

「『セドラークのオルガン』はね」

 右手の手のひらの上になにやら金属の箱を載せて皇太子リドールは、それを掲げる。

「いろいろなものを作ることができるんだよ。例えばどんな鍵でも数分で合鍵を作ってしまう機械とか」

 げっそりした顔を峻一朗は浮かべる。

「ベルリンまで僕と一緒に行ってもらうよ。そしてそこで真実を自分の目で確かめたい。『セドラークのオルガン』の子どもたちがなんのために使われたのか。一体、何の目的のために――」

 皇太子リドールは両手を組みながら、そうつぶやく。それはまるで自分の決意を宣言するような口調で――

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