第172話
王都での巨大ゴーレム戦を聞き、『強化外骨格』が実戦に耐えられるという事を再確認したのじゃが、バートとヴァーツ殿の『強化外骨格』が、外部からの影響で少々機能不全を引き起こしておる事を確認したのじゃ。
美樹殿が預かって来たのじゃが、バートの『強化外骨格』は想定以上の熱を受けた事で、『凍結』の魔法陣がオーバーフローし、外装の内側が変形してしもうた事で干渉してしまっておる。
ヴァーツ殿の方は、単純に強力な攻撃をぶっ放した反動を無理矢理抑え込んだ為に、フレームの一部が歪んでしまったというものじゃ。
ふむ、コレはもう作り直した方が良いかも知れんのう……
「魔女様、直りますか?」
ヴァーツ殿にそう聞かれるが、コレばかりは時間が掛るとしか言えんのう。
ヴァーツ殿の方は、歪んだ部分を調べて交換すればどうにかなるんじゃが、問題はバートの方じゃ。
メインフレームは大丈夫じゃから、外装を交換すれば良いんじゃが、その外装が熱に耐えられなかったと言う事は、同じ様な攻撃をすればまた使えなくなるという事になる。
その度に交換しておったら、あっという間に破産する事になるのう。
それを説明し、早急にする理由を聞いたのじゃが、王都で鹵獲したゴーレムをカチュア殿が調べており、その護衛として残ったメンバーの為に早急に戻りたいと言う事じゃった。
そう言われても、ヴァーツ殿の方だけで数日は掛かるのじゃ。
「事情が事情ですから、仕方ありませんな」
ヴァーツ殿はこのまま王都へとトンボ返りする事になり、美樹殿はこの場に残ってワシと一緒に『強化外骨格』を直す事になったのじゃ。
そして、浅子殿じゃがこのままヴァーツ殿と行動を共にして、移動の足として協力する事になっておる。
その見返りとして剣聖殿も含めた身の安全と、生活を保障する事になっており、その剣聖殿は現在兄上の元で猛特訓をしておる。
今の所、ランクアップはしておらんが、特訓を終えれば高確率でランクアップするじゃろう。
ワシとしては巨大ゴーレムも気になるんじゃが、美樹殿のアフターケアもせねばのう。
こっちに来てから魔獣と戦った事はあっても、ガチでの対人戦はした事は無いじゃろう。
今も、仕事に没頭しておるが、恐らく思い出したくないのじゃろう。
このままだと、美樹殿が潰れてしまうのじゃ。
「……美樹殿、少しは休んだらどうじゃ?」
「私は問題ありません! 次は此処の調整ですよね!」
美樹殿がそう言いながら『強化外骨格』の腕パーツを外し、作業机に置いて清掃をした後に歪んだパーツを交換していく。
じゃが、その眼の下には、若干の隈が見えるのじゃ。
こりゃあんまり寝ておらん様じゃの。
「美樹殿、その状態では良い仕事は出来んよ。 少し休憩するのじゃ」
強制的に休憩させ、ベヤヤが栽培しておるハーブの中から、リラックス効果のあるハーブを使ってお茶にする。
お茶請けはベヤヤが作っておるコワの実クッキーじゃ。
「……で、余り寝ておらん様じゃが、やはり、夢見は悪いようじゃの?」
ワシの言葉に、美樹殿が俯いておる。
まぁ無理もないじゃろう。
美樹殿の『強化外骨格』は、直接的に相手を倒す物では無く拘束する為の物じゃ。
その拘束した相手が、まさかの自爆をして大被害を出す様に仕向けられておったなら、最悪のケースを考えてしもうておるのじゃろう。
「コレばかりは、ヴァーツ殿も言っておるが、慣れるしか無いのう」
「……慣れたくありません……」
美樹殿の絞り出すような声に、内心は同意したいのじゃ。
しかし、どうにもならん事もある。
クリファレスにしろヴェルシュにしろ、バーンガイアに攻めて来るのであれば、撃退する必要があり、必ず誰かが死ぬのじゃ。
王都に攻めて来た巨大ゴーレム戦では、幸いにしてバーンガイア側に死者は出なかったが、それが続く事は無いじゃろう。
「美樹殿は冒険者ギルドに登録しておるのじゃろう? 盗賊退治とかはしておらんのか?」
確か、冒険者のランクアップには盗賊の討伐が必須だった筈じゃ。
剣聖殿もやって寝込んでおったらしいし、美樹殿はやっておらんのか?
「私はやってないんです……討伐依頼を受けはしたんですけど出会えなくて……」
あぁ、それは仕方無い。
盗賊にしても必ず出会える訳では無いし、盗賊側にしてもヤバそうな相手であれば逃げるしのう。
美樹殿の場合、実力者の護衛もおった筈じゃし、盗賊の斥候が先に見付けておれば確実に逃げたじゃろう。
コレばかりは運が悪いとしか言えぬ。
「まず、美樹殿は心構えをする必要があるのう」
「心構えですか?」
うむ、幸いにしてワシ等は戦えるが、当然じゃが全ての者が戦える訳では無い。
子供や老人、病人や障害を抱えておる者は戦えぬ。
ワシ等が敗れれば、そう言った力を持たぬ者が蹂躙されてしまう。
ワシ等は最終防衛なのじゃよ。
「別に人殺しに慣れろとは言わぬ。 じゃが、後ろにおる者達を守る為には倒すしかないのじゃよ」
そもそも、相手はワシ等を殺しに来ておるのじゃから、容赦してはならぬ。
当然、時と場合によるのじゃが、基本的にワシだって人殺し等したくはないのじゃ。
「まぁ無理にとは言わぬし、流石に異世界から来ておる美樹殿には、早々に受け入れられぬじゃろうから、長い目で考えておけば良いし、そう言う事にならぬように上の連中が頑張れば良いんじゃから」
コレはワシの純然たる考えじゃ。
難しいじゃろうが、為政者がそう言った事態にならぬ様に努力し、アレコレ走り回っておれば、そう言った事態はある程度回避出来るじゃろう。
そして、美樹殿の様に戦争も争いとも無縁の世界から来た異世界人に対して、いきなり人殺しを容認しろ、なんて言った所で受け入れられる物では無い。
まぁ
「取り敢えず、美樹殿は裏方に徹しておくのが良かろう。 それも『強化外骨格』を扱うより、医療関係やそう言った治療道具の開発をした方が、気も幾分か楽になるじゃろ」
「そう言う物なんでしょうか……?」
「心の何処かで折り合いを付けるまで、対人戦闘はせぬ方が良いじゃろうしのう」
無理に悪人退治をして、変に拗れてしまったら大変じゃし、本人がちゃんと納得出来る様にまでは、現状維持にした方が良いじゃろう。
確か、悪人であれば、子供であろうが殺してしまう、なんて行き過ぎた正義感による暴走の様な精神疾患が地球にはあった筈じゃ。
それに美樹殿には地球の知識と、地球人である為に『器』が大きく、強くなれる素養があるのじゃ。
もしも、美樹殿が正義感を拗らせて暴走を始めてしもうたら、はっきり言えば手が付けられなくなる可能性が高い。
流石のワシも、自ら教えた教え子を手に掛けたくはないしのう。
ヴァーツ殿やミアン殿には事後承諾になるが、美樹殿を医療関係の開発部に従事する様に指示を出し、ワシの元での勉学は多少削る事にしたのじゃ。
もしも、心が落ち着いて冷静になり、そう言った事にも向き合える様になったら、再び、ワシの元で研鑽に励んで欲しいのじゃ。
それまでは、美樹殿の『強化外骨格』はワシが預かり、一時的に封印する事にした。
勿論、対魔獣用じゃから、『スタンピード』が発生したら流石に使ってもらうつもりじゃけどの。
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