第163話




 遠くに見えるバーンガイアの兵士達。

 その背後には、いくつもの攻城兵器が並び、騎馬や重装鎧を着込んだ兵士も見える。

 やはり、あそこで殲滅出来なかった為に、情報を持ち帰られて対処された様だ。

 最も、それにしても別段問題はないだろう。


『隊長、本当にやるんですか?』


 我がゴーレムを降り、別の兵士が乗り込む。

 マナが足りなくなったゴーレムは、此処より少し離れた所で待機状態となっている。

 その為、それに乗っていた兵士に我のゴーレムを任せ、我自身はこのまま敵陣へと向かう事にした。

 どの道、このままではこんな物に頼っているは戦えぬのだから、こうするしかあるまい。


「我はこの身一つで戦ってきたのだ。 今更、そんな物ゴーレムに乗る理由は無い」


 そう言いつつ、敵陣を睨む。

 確かに数は脅威だが、そんな物で我の力を止められると思えば大間違いだ。

 我を止めたいなら、『龍殺し』を連れて来る事だ。

 そう思いながら、我の左の牙を撫でる。

 その左の牙は半ばから折れ、銀のカバーを付けている。

 コレは嘗て我がバーンガイアへと侵攻した際、『龍殺し』と戦った時に奴の拳で砕かれた為だ。

 それまでは、我が牙でも敵を薙ぎ散らす事も出来たが、まさか生の拳で砕かれるとは思いもしなかった。

 砕けた牙の破片も残っていたから、治そうと思えば治せたのだが、我への戒めとして、その時のままにしている。


「では、後は好きにしろ。 我は……」


 愛用しているタワーシールドと、特別に作らせた肉厚の剣を引き抜いて構える。


「これより、敵陣にて暴れようぞ!」


 そして、我は敵陣へとタワーシールドを構えて走った。




「『城壁崩し』を確認! やはり、単騎で攻めてきました!」


「後方より4体のゴーレムの接近を確認! 1体は確認出来ず!」


 兵士が双眼鏡を使って逐一報告して来る。

 それを聞きながら考える。

 恐らく、此処にいない1体は、先の戦いで何かしらの問題が出た可能性があるか、別動隊として動いておる可能性がある。

 最も、別動隊として行動しておったとしても、あの巨体じゃから隠し様が無いのじゃが。

 しかし、気を付けておかねば足元を掬われかねん。


「確認出来ておらぬゴーレムは気にはなるが、作戦通り、敵ゴーレムを無力化する!」


 グリアム殿がそう言って、兵達をゴーレムへ進ませていく。

 それでは、儂等も行くぞ!




 カチュアさんの『強化外骨格』が、私の『強化外骨格』の隣に立つ。

 私の『強化外骨格』は、他のメンバーの『強化外骨格』とはちょっと仕様が違っている。

 深呼吸し、心を落ち着けた後、腰の所にある鎌の様なパーツを外すと、鎌を左右の手に持った状態でその場に両膝を付いて、思い切り鎌を振り下ろす!

 コレで、私の『強化外骨格』はガッチリと

 そして、背中にある巨大な筒状のパーツを中心に、背中にあるパーツがガチャガチャと音を立てて組み上がっていく。

 暫くすると、私の頭部モニターに『準備完了』と言う文字が表示された。

 この時、私も覚悟を決めた。


『カチュアさん! 固定と組み立て完了です!』


『分かりました~』


 私の掛け声で、カチュアさんがその組み上がったの左側から出ているグリップを握った。

 丁度、私の『強化外骨格』の左隣に、カチュアさんの『強化外骨格』が片膝を付いている状態になっている。

 そう、私の『強化外骨格』は一人で運用する物では無く、誰かと協力する事を目的として作られている。

 背中に巨大な砲台を背負い、強力な砲弾を撃ち出す事が出来る固定砲台。

 本当は、一人でも運用出来る様にする予定だったんだけど、時間が無くてこういう形に落ち着いているんだけど、あの子魔女ちゃんの事だから私達が戻る頃には改良してそうな気がする。


『それじゃ、いっきますよ~』


 カチュアさんがそう言って、グリップに付いているスイッチを押すと、ボンッとちょっと大きめの炸裂音が響いて、巨大な砲身から勢い良く砲弾が発射された。

 グリップを引くと、ガチャンと音が響いて砲弾が装填されているシリンダーが回転し、次弾を装填する。

 ボンッボンッボンッと、どんどん砲弾が発射されていく。

 この砲弾は、強力な圧縮空気で撃ち出している物で、速度はそこまで早くはないし、砲弾のサイズも大きめのペットボトルくらい。

 それがゴーレムの膝辺りに直撃した瞬間、ボスンッと音を上げて炸裂し、水色のゲル状の物体が張り付いた。


『なんだぁ!?』


 そのゲルが、どんどんゴーレムの足に当たりまくる。

 見た目、砲弾は小さいけど、中に入っているこのゲルは特別製だよ!


『再装填してください~!』


『了解! リロード開始!』


 カチュアさんがシリンダーの砲弾を撃ち切ったので、私の掛け声で背中に付いていた小さい腕が、背中の砲を前方に動かし、撃ち切ったシリンダーを排除し、新たなシリンダーを収納箱から取り出して接続する。

 このリロードシステムは、私が考案した物だ。

 背中に付ける関係で、普通の方法じゃシリンダーの交換が出来ないし、カチュアさんが交換するには時間が掛る。

 そこで、シリンダー交換は指示を出す事で、完全に機体に任せてしまう事にしたのだ!

 ガチャリと砲身が後ろに動き、新たなシリンダーを固定する。


『リロード終了!』


 私の声を聞いて、カチュアさんが砲を撃ちまくる。

 それはどんどんゴーレムの足や腰に当たっていくが、傍目には殆ど効果が無い様に見えるだろう。

 そう、今の所

 撃ってはリロード、撃ってはリロードを繰り返し、ゴーレムの下半身部分が水色のゲル塗れになっていく。

 そろそろかな?


『一体何がしてぇんだ!』


 ゴーレムは足音を響かせて此方へと向かってくるが、その動きが徐々に遅くなっていく。

 やがて、ギギギギ、と異音を発してその場で前に倒れて、凄まじい土煙を上げた。


『なっ、どうして動かない!?』


 土埃の中で、ゴーレムが腕を動かして置き上がろうとしているが、下半身が全く動いていない。

 そして、水色だったゲルの色が、今では白色に変わっている事に気が付いたようだ。

 そう、あのゴーレムに撃ち込んでいた砲弾は、『強化外骨格』を盗まれたり、相手が使用して来た時の為に開発した『マナ硬化接着剤砲弾』と言う特殊な砲弾なのだ。

 スライムゲルを主材料にして、外部のマナを吸って徐々に硬化し、白色になると『強化外骨格』でも動けなくなる程の硬度になる様に調合された特殊な接着剤。

 ただ表面に張り付いて硬化しただけなら、ゴーレムのパワーで砕けるかもしれないが、関節や接合部の隙間から中に入り込み、その内部からガッチガチに固めてしまえば、いくらパワーがあろうとも意味が無い。

 勿論、弱点もある。

 かなり燃え易い為、完全に硬化する前であれば、火花程度でも引火して燃えてしまう。

 なので、耐火の魔法を使った上で焼き払ってしまえば、あっさりと拘束を破る事が出来てしまう。

 完全に硬化してしまったら燃えないんだけどね。

 後は単純に、保存性が悪い。

 周囲のマナを吸収して硬化する関係で、放置してしまうと使えなくなってしまう。

 なので、時間停止機能が付いている収納箱を使って保管するしかない為、運用が難しい。


 最早動けないと悟ったゴーレムが、その腕を動かして持っていたメイスを投げようとする前に、カチュアさんがその腕や首と言った場所にも砲弾を撃ち込みまくって、完全にゴーレムを固定してしまった。

 ああなってしまっては、あのゴーレムは何も出来なくなってしまっただろう。

 コレで、私達の相手は無力化出来た訳なんだけど、他の人達はどうなってるんだろう?

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