第155話




「ふむ、見た目は普通の重装鎧だな」


 陛下が壁際にて準備されておる『強化外骨格』を見て呟いている。

 壁際で用意されておるのは、バートとノエルの二着だけで、バートが赤、ノエルが青と色分けされておる。

 コレは、二人の体内マナの属性に合わせたもので、魔女様曰く、まだ試作機だから分かりやすい様にと染色したらしい。

 そして、それに合わせて装備も作られている。

 二人共、剣と盾だが、バートが使う剣には、『強化外骨格』からマナの供給を受けて、一回り大きい炎の剣を発生させ、ノエルの使う盾には広範囲を守る水の盾を生み出す機能がある。

 他にも、魔女様は使用者の発想力で色々と出来る様な事を言っておったが、まずは使いこなせる様になるのが先だろう。


「しかし、制作にあの魔女様が関わっているのですから、普通の鎧と言う事はありますまい」


 そんな事を言っておるのは、この国にて軍のトップでもあり、近衛騎士団団長である『グリアム=エル=サーダイン』公爵。

 前に、魔女様によって嫡男の命を救った事で恩義は感じているだろうが、国防も任されている以上、私情を挟む事はせぬだろう。

 その隣には、何も言っておらぬがマルクス殿も立っている。

 そうして、美樹殿達がバートと合流した事で、下の準備は整ったようだ。


「さて、それでは見せて貰おうかのう」


 訓練場の高い位置に陛下の為に椅子が用意され、それの左右をワシとマルクス殿が守る様に立っておる。

 此処は本来、全体を見て指示を出す為の場所だが、王族等が視察する際にも使われる為、守りは頑強になっている。

 サーダイン公爵は、訓練場にて指示を出す為、既に此処にはおらぬ。




 今回行われるのは、『強化外骨格』を着用した俺とノエルに対し、サーダイン公爵が指揮を執る騎士10人の模擬戦。

 ただ、俺とノエルが使うのは木剣だが、騎士達は通常の真剣だ。

 最初はサーダイン公爵側が渋ったが、養父ヴァーツの攻撃でも傷が付くだけだと説明した事で納得した。


「それじゃ、準備は良いか?」


「問題はないが、作戦は?」


 青い『強化外骨格』を着たノエルが、用意された盾の持ち手を握って確認しながら聞いて来たが、コレの性能を考えれば、作戦も何もないだろう。

 逆に、やり過ぎて再起不能にしないように注意する方が大事だ。

 そこら辺をノエルに説明し、どうするか決めるが、単純な所に落ち着く事になった。


「それでは、模擬戦始め!」


 養父の掛け声が響き、相手となる騎士達が盾を構えて広がって行く。

 此方は二人だから、相手は囲んで叩くつもりなんだろうが、こっちとしては纏まっていない方が好都合だ。

 ノエルと頷き合い、盾と木剣を構えて左右へと跳ぶ。


「んなっ!?」


 一瞬で騎士二人の目の前に着地すると、驚く騎士に向けて盾を突き出す。

 これは所謂、『シールドバッシュ』と呼ばれる技で、本来は相手に叩き付けて体勢を崩したり、隙を作る為の物だが、『強化外骨格』で強化された力で繰り出されればどうなるか。

 驚いたとはいえ、盾を構えて防御態勢を取ったのは、流石はサーダイン公爵様が鍛えている騎士だ。

 だが、鈍い殴打音を響かせ、後方にいた一人を巻き込んで吹っ飛んでいった。

 これが実戦であれば、二人はこの一撃で戦闘不能死亡となると判断され、このまま離脱する事になった。

 ちらっとノエルの方を見ると、木剣を巧みに使って騎士の手から剣を巻き上げ、優しく木剣で撫でる様にする事で同じ様に戦闘不能判定を与えているが、アレは、剣の扱いに慣れているノエルだから出来る事であって、俺には無理だ。

 若干溜息が出るが、コレばかりは嘆いても仕方無い。

 今は取り敢えず、目の前に集中する事だ。

 そんな事を考えつつ、盾を構えて再び別の騎士目掛け、ステップを踏む様にして飛び掛かっていった。




 バートの『強化外骨格』が盾を構え、展開した騎士達に向かう。

 魔女様が作ったこの『強化外骨格』の性能を考えるなら、バートの言う通り木剣であっても、手加減をしなければ、逆に相手が危険な事になってしまう。

 対して、此方は相手の攻撃が当たった所で、ダメージらしいダメージを受ける事は無い。

 ここは師匠に教わった訓練を活かす時。

 騎士の一人に向かって木剣を構えて接近すると、相手も同じように剣を構えた。

 此方は木剣に対し、相手は真剣。

 真面に打ち合えば、此方が負けるのが本来は道理だが、私は知っている。

 真剣を使う私を相手に、師匠は木剣を使って余裕で勝っている。

 アレと同じ事だ。


「ハッ!」


 相手の騎士が剣を振り、その左右から別の騎士が回り込んでくる。

 素晴らしい連携だが、問題はない。

 正面の騎士の剣を木剣で受け止める、その瞬間に手首だけでなく腕全体を利用して剣先を絡め捕り、騎士の剣を弾き飛ばす。

 そして、沈み込む様に態勢を沈めて、騎士の横を一足で跳び越す瞬間に木剣を相手の腹部に当て、撫でる様に押し退ける。

 あのまま正面の騎士が進めば、横に回り込んだ騎士の攻撃で大怪我は免れないだろうと考えての事だが、相手にとっても、コレは予想外の事だった様だ。

 本来は正面の騎士が押し留めている間に、左右から回り込んだ騎士達が攻撃して致命傷を与えるつもりだったのだろう。

 着地した瞬間に木剣を引き戻し、左右へと回り込もうとしていた騎士達に襲い掛かる。

 相手の剣を盾で受けつつ、同じ様に木剣で巻き取って剣を弾き飛ばし、此方も撫でる様に切って戦闘不能判定を下していく。

 師匠と同じ様な事は出来ないが、攻撃にのみ集中すれば良いのであれば、私でも真似る事は出来る。




「凄まじいな」


 訓練場で行われている様子を見て、儂は思わず呟いてしまった。

 サーダイン公爵が鍛え上げた騎士達が、たった二人の、それも技量も劣る相手に手玉に取られている。

 隊長ヴァーツには悪いが、いくら戦っている二人に素質があったとしても、積み上げて来た技量と言うのは早々に縮める事は出来ない。

 だが、あの二人は『強化外骨格』なる魔道具の鎧を使う事で、技量の差をで、圧倒している。

 確かに、コレは儂に報告していなければ、謀反を起こそうとしていると言われても仕方無いだろう。

 しかも、隊長の話ではコレでと言うのだから始末が悪い。

 もしもアレの数を揃えて一部隊でも作れば、余裕で戦争にも勝ててしまうだろう。


「アレの魔法耐性はどの程度なのでしょうか?」


 マルクス殿が隊長に聞いておるが、隊長は『うーむ』と唸った後、物理的な防御力に関しては相当な物で、魔法的な防御に関してもかなりの高さがあると答えている。

 聞けば、エルフのカチュア殿が対魔法用の防御魔方陣を刻み、魔女様と美樹殿がそれを強化する様にしたので、相当に高い魔法でも耐えられるらしい。

 本当に対人で運用すれば相当な戦力になるのでは……

 だが、儂の考えに隊長が苦笑しながら答えてくれた。

 なんでも、アレ一着を作るのに面倒な素材が多く、現状では魔女様達3人でしか作れない為、数を揃える為には相当な時間が掛るらしく、隊長達の使っているのも、元々は試作した物を調整して流用し、組み上げた物だから揃えられただけらしい。

 少なくとも、魔女様達でもアレをゼロから一着作るのに、魔術的な問題で一ヶ月は掛かるという。

 他にも、防犯上の理由で、現状ではまだまだ増産するつもりは無いらしい。


 あの一着だけで、王城が消し飛び、王都が壊滅する程の自爆機能があると説明され、もしも増産が出来る様になったら、防犯対策をガッチガチに固めようと心に決めた。

 そうしておったら、訓練場では最後の騎士が降参した事で、決着が付いたようじゃ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る