5

「それじゃ、堂島が先に注文してくれるかな」

「は?」


 俺と未白こころは、店内の出入り口付近で会話する。

 彼女はにこにこしながら、ダッフルコートの腰をポンポンと叩く。


「わたし、カフェで注文したことないんだ。いつも友達がやってくれるから」

「俺だって、注文したことないよ。ちょっと注文の仕方を調べてみるか」


 俺がスマホを操作しようとすると、彼女も画面を覗き込んでくる。


「「あ」」


 そこで、未白こころと俺の声が重なった。

 画面には、昨夜見ていた漫画の1ページが映っていた。ここで寝たんだっけ。

 一番興味を引くところで眠ることを繰り返すと、自分の気持ちを制御しやすくなる気がして。


 なぜか、未白こころはかーーーっと真っ赤になって、それでも無表情だけは崩さずに語りかけてくる。


「ど、堂島って子供だね。漫画見て、そういう気持ちになっちゃうんだ」

「は? お前はならないのかよ」


 思わず動揺して、は? とか言ってしまった。

 タブレットの反省ノートへの記述項目が増えた。

 やはり、こいつといると平静を保てなくなる。

 悟られないようにしないと。二人で無意味になるため。


「わたし、そういうの、調べたりもしないもん……。ハッキングされたら、どうするのさ……」


 未白こころは、スマホを出して、フリックする。


「な、なにしてんだよ」

「さっきの漫画のタイトル、調べようと思って」

「な、なぜ」

「ちょ、ちょっと、えろい気持ちになっちゃったから」

「そういうこと言わない方がいいぞ」

「ううん。思ったことは、素直に言うよ。誤魔化したって、バレるんだ。だから、エッチな気持ちになった時は、その、なったよ……? って堂島に言うから……」


 近くで飲食していたママさんたちが、「かわいいね?」「思い出すなー」と微笑ましそうに僕たちを見ている。

 ちがう!


「未白こころ。俺たちは特別な人間だ。他人から、すごい、憧れる、と思われていたい。そのためには感情を捨てろ。さすれば苦しみはなくなる」

「う、うん、だね。すーはー、いこう」


 キュッと突然、俺は手のひらを握られた。

 俺はジト目で未白こころを見る。


「どうして手を繋いだ⁉︎」

「へっ? 安心すると思って」

「お子様か」


 俺たちは「「はー」」とため息をついて、奥様方に温かく見守られながら、軽く注文の仕方を調べてレジに進む。

 なぜ、この子も同じタイミングで嘆息したのかは、よくわからなかった。


 そこで、ふいに後ろから声をかけられた。


――――――あとがき


「――お兄さま…………?」


(次回、ソロ行動のプロ、堂島の憧れの存在。サブヒロイン・妹の友達・黒松みやびがが出てきます――)

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