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「この学校に、七不思議とかあるのかな?」


 二人で校門の前にいる。白いダッフルコートに、短いウサミミのついたモコモコの帽子を被った未白こころは、かわいさの結晶体のようにキラキラしていた。

 周りにいる人たちが「おお!」「すごい!」とまるで、雪祭りで雪像を見た時のように驚く。今は祭りの夜でもなければ、雪も降っていないんだけど。


「四月一日。まだこの銀沢じゃ寒いよね。わたし、寒いのも、暑いのもダメ。明日あたり、いきなり二十℃くらいになるらしいけど。堂島はラッキーだよ。わたしの最後の冬コーデを見られたんだから」

「ちなみに明後日はまた10℃を下回る予定だぞ。その時にまた君のこの姿は拝めるのでは」

「ありゃりゃ、そうかもね」


 あはは、とちっとも楽しくなさそうに未白こころは笑う。楽しくなさそうではあるが、不満があるようにも見えない。無感情、無表情である。


「未白こころは、あれだ。家族と一緒だ」

「はいぃ?」


 いきなり俺が告げると、未白こころはじんわりとほっぺを赤くして、やがて耳まで真っ赤になってしまった。


「あのねー、堂島。異性に対して、お前は家族みたいだ、なんて言うと、言われた方は言ってきた子との夫婦生活を想像してしまうんだよ?」

「いや、しないだろ」

「するよー。だから、わたしは赤くなったんだよ。はあ、わたしはまだまだ、無感情、無関心で質疑応答できない。これではすぐにボロが出てしまうよ」

「ボロとは?」

「わたしが自分の性格を、恥ずかしがっていること……。変人なのは仕方ない。でも、わたしはこの性格がすごく恥ずかしいんだ」

「同情するよ。不思議ちゃんは治らないからな」

「中学生の頃、修学旅行で、わたしはたぶんぬいぐるみだった」

「ぬいぐるみ?」

「甘味処でね? わたしがアップルパイを頼んだら、『みんなでこれ、食べるのいいねー』ってグループのメンバーは喜んでくれた。でも、わたしは、みんなで分け合って食べるつもりはなかったの。その旨を伝えたら大笑いされてね? みんなはそれぞれ好きなものを食べ始めた。わたしがアップルパイを丸齧りするところを、もうかわいいかわいいって。修学旅行、二年生の冬に行ったのに、それから卒業式まで何回もお食事に誘われてね? 参っちゃうよ。ピザや大きないちごミルクをパクパクごくごくすると、彼女たち、すごく癒された顔を見せるんだ。わたしはなんだかうれしくて……、ずっと恥ずかしかった」

「嬉しかったのか。いい友達を持ったんだな」

「うん。でも、高校生になっても誘ってくれるかはわからない。みんな別々の高校に行ったし。わたしの中では特別な思い出なんだ」

「バカにされていたわけじゃないよね」

「そんなうそ言わないで!」


 俺がその言葉を発した瞬間、未白こころは突然大きな声を出した。

 それからハッとした表情になって、徐々に真顔に戻っていく。


「あ、ごめん。大声を出して……」

「友達思いなんだな」

「お、思ってなんかない。わたしには、何の気持ちもないんだ。……好きになりたくない。嫌われるのが、恐い……。だから、わたしは……」

「ああ、自分を責めないでいいから。俺の方も悪かった」


 未白こころは涙目になる。自分のことを無意味と言っていた癖に、彼女の中にはまだ温かい感情が残っていて、消えてくれないようだ。

 優しいから、傷付く。

 だから、無感情になりたい。

 無意味になりたい。

 金髪金眼、どこ出身なのかもよくわからん謎めいた美少女。

 ス――と無表情に戻っていく。

 この子は多分、不器用なんだと思った。

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