第33話 キーマン

「鈴木と河野の二人に話ができた。そして両名ともかなり悩んだ末に協力してくれることになった」


 放課後。

 桐生達は習慣のように生徒会室に挨拶に行くと、嬉しそうに妃がそう言った。


「そうですか。で、何を協力してもらうんですか?」

「ああ、今まで安藤が働いた悪事について、彼らが記録している限りの全ての情報をもらうことになった。ラインや通話記録、あとは彼らが知っている安藤の秘密も聞けた。これが大きい」

「秘密?」

「安藤は入学してすぐ、一人の生徒をリンチして大けがを負わせたそうだ。未だに後遺症が残り入院しているその生徒は、しかし安藤の父から金銭を渡されて口止めをされたそうだ。むろん学校側もな」

「なんて話だよ……で、その被害者は」

「学校からはすでに除籍している。が、住所はわかった。行ってみるか?」

「しかないでしょう。なんならその生徒次第では親子もろとも倒せるかもしれない」

「しかしそんな重要参考人に何も手を打ってないとは思えん。安藤のみならまだしも、父親はあの安藤財閥のトップだ。もみ消しの為にどこまでやっているか」

「まあ、クラスメイトでも事情知ってる連中はみんな口止めしてるでしょうね。ま、直接本人に会いにいくのが一番です」

「しかし、調べたところによるとその生徒はうちの学校の誰かと関わることを拒否しての退学だったそうだが」

「そこまで馬鹿正直に行きませんよ。大丈夫です、手は考えてますので」

「そうか、なら期待する。彼のいる病院の住所はここだ」

「……井谷総合病院」

「ああ、この辺りで一番大きな病院だ。まあ、安藤の息がかかった場所と思ってくれて間違いない」

「わかりました。早速放課後行ってみます」

「ああ、頼む」

 

 妃はゆっくりうなずく。

 それを見て桐生もまた。


 静かにうなずいてから礼をして、生徒会室を後にした。


「ねえ桐生君、どこ行くの?」


 校舎を出る時、隣で加佐見が聞く。


「さっきの話、聞いてただろ。会いに行くんだよ、安藤の被害者に」

「被害者に? 知ってるの? その人のこと」

「加佐見さんはまだそのころにこっちにいなかったから知らないかもだけど、うちのクラスで急に学校に来なくなったやつが一人いた。確か藤堂っていう男子だ。そういやいないなってくらいにしか思ってなかったが、先生すらそのことに触れようともしなかったことにずっと違和感を覚えてたんだ」

「ふーん、ちゃんと周りのこと見てるんだね桐生君も」

「たまたま違和感が引っかかっただけだ。で、この辺りで病院といえば六石病院ろっこくびょういんくらいしか、入院できるような施設がある場所はない。そこに行けばわかる」

「六石……うん、じゃあ行ってみよー」

「先にバイト行っててもいいんだぞ」

「ううん、桐生君と一緒がいいの」

「……あ、そ」


 そのまま、二人が向かったのは六石病院。

 駅のそばにある大きな建物は遠くからでもその看板がよく見える。


 この病院も、安藤の会社が出資しているという話はこの辺りでは有名だ。

 病院だけでなく、この町にあるほとんどの施設は安藤財閥になんらかの出資をもらって成り立っているものばかり。


 だからこんな支配的な街が生まれるのだと。

 大きな病院を前に、桐生はそんなことを思いながら首を振る。


「ほんと、金持ちってなんでもありだな。でも、そんなやつらのエゴで親父が詐欺師呼ばわりされてきたってのは釈然としない。行くぞ」

「うん」


 中に入ると、薄暗い廊下がまっすぐのびていて、受付には診療待ちの老人が数人と、中年くらいの看護師の女性が二人。


 白衣を着た一人がこっちにやってくる。


「あの、今日は何か?」

「あ、ああ。見舞いです」

「そうですか。では、患者さんのお名前を教えていただけますか?」

「……藤堂」


 桐生がそう話した瞬間、看護師の顔が曇る。


「藤堂……すみません、うちにそんな患者さんはいませんが」

「そんなはずはないと思うんだけど」

「いえ、いません。おかえりください」


 態度を急変させた看護師を見て、桐生は間違いなくここに藤堂がいると確信する。

 そうとわかれば簡単には引き下がれまいと、同じく顔を曇らせて看護師をにらんでいると、その後ろから声がした。


「あら、加佐見さん? お久しぶりねえ」


 もう一人の看護師の女性が、加佐見の方へ寄ってくる。


「あ、島内さん! どうも、その節はお世話になりました」

「いえ、いいのよ。それよりお父さん、残念だったわね。で、今日はどうしたの?」

「今日は同級生の藤堂君のお見舞いに来たんです。多分この病院にいるはずなんですけど」

「そうなのね。ええ、ちょっと待ってね」


 あとから来た看護師が、最初に対応していた看護師と何やら話を始める。


 すると、さっきまで怪訝そうに桐生を見ていた中年女性が表情を元に戻し、頭を下げてから受付へと戻っていく。


「ごめんなさいね、彼女はまだここに来たのが最近だから」

「いえ、構いませんが」

「藤堂さんは四階に入院されているわ。そこのエレベーターを使っていけば近いわよ」

「……ありがとうございます」


 一転して丁寧な対応に戸惑いながら、桐生達は奥のエレベーターへ。

 

 そして四階のボタンを押したところで桐生は加佐見に聞く。


「加佐見さん、さっきの人は?」

「うん、島内さんっていうの。お父さんがここに入院してた時、色々お世話になって」

「ふーん。でも、なんで通してくれたんだろうな。最初のやつは藤堂なんかいないってしらを切ってたのに」

「島内さんは安藤君の息がかかってないからじゃないかな。それに、ここの婦長さんもしてるし、説得してくれたんだと思うよ」

「なるほど」


 そんな説明にも少し違和感を残しながら四階へ。


 また薄暗い廊下が続くその場所を歩いて進むと、奥の部屋の前に『藤堂』と書かれているのを見つけた。


「ここか」

「うん、行ってみよっか」


 二人で、部屋に入る。


 奥のベッドには、ベッドで体を起こして窓の外を見つめる男子の姿があった。

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