第85話 悪戯
『レベルが310に上がりました。ステータスポイントを14ポイント取得しました。サポーターとの親密度が上がりました。サポーターのスキル:リジェネが強化されました』
レベルアップのアナウンスが流れ、変換吸収の矢によって回収される膨大な魔力が身体の中に滞留し始める。
勝ったという高揚感とそれが交じり合い、テンションを強制的に上げてくれるが、それに浸るのはあと。
今はデモンルイン【色欲】が弾け飛んだのと同時に倒れたクロの容態を確認しないと。
「クロ、大丈夫か? やったぞ、倒したぞ」
俺は痛む体で何とかクロのの元に向かおうと、地面に転げ落ちるとみっともなくゆっくりゆっくり地面を這う。
回復弓で回復したいところだが、弓を掴もうとするだけで激痛が走る所為でそれも出来ない。
本当はこうして移動しようとするのもしんどいが、きっと俺よりもクロの方が……。
そう思うと、その場に留まっている事は出来なかった。
「――クロ?」
「一也さん……。へへ、ちょっと疲れちゃった」
「そっか。お疲れ様、ありがとうな」
あれだけの攻撃を受けて辛いはずなのに、心配させない為かわざと笑顔を見せるクロ。
その表情に俺は情けなさと申し訳なさと……愛おしさを感じる。
もうデモンルイン【色欲】が放っていたあの煙は霧散していて、体液による匂いもいつの間にか消えているっていうのに。
「――『リジェネ』。強化されたみたいだから、直ぐに効果は出ると思う」
芋虫の様にのそのそと移動する俺の元にクロが俺よりもちょっとだけ速いスピードで近づてくると、頭をこつんとぶつけて『リジェネ』を発動してくれた。
今までの『リジェネ』と比べて確かに効果は上がっていて、指先から痺れが抜けていく。
とはいえ、自由に動き回るにはまだ時間が掛かりそうだが。
「クロ、今回はごめんな。お前におんぶに抱っこで……。俺1人じゃ絶対に勝てなかっ――」
「折角勝ったんだから今は反省しなくてもいいよ。そもそも私はサポーターなんだから、人間、一也さんの役に立つのは当たり前でしょ」
「そうかもしれないが……。帰ったら何でも驕ってやる。パフェでもケーキでも好きなものを好きなだけ」
「うーん……。それも嬉しいけど……」
クロは俺の言葉を聞く俺の横にすっと移動した。
そして痺れが抜けた右手をクロは両手で掴むと俺の顔を悪戯な表情で覗き込んできた。
「『クロをとられたくない』ってあれ、もう1回言ってもらってもいい?」
「なっ!?」
予想外の発言に俺は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
熱い身体が余計に熱くなる。
「そ、それは……」
「へへ、動揺する一也さん、ちょっと可愛い。クロ『の』一也さんはこんな表情もするんだなぁ」
「クロ、お前まだ匂いにあてられたままなんじゃ?」
「……そうかもね。ううん。きっとそう。だから一也さんも匂いにあてられてるんだから、ちょっとくらい恥ずかしい事言っても大丈夫だよ」
「はぁ。親密度が上がったからってずる賢さまで取り戻してるんじゃないだろうな?」
「賢い分には戦闘でも有利だからいいんじゃない?」
「……俺の負けだよ。いいか、こんな恥ずかしい事1回しか言わないからな。クロを、と、とられ、たくない……」
「えー小さくて聞こえなかったんだけどぉ。もう1回言ってよ」
「1回だけだって言っただろ?」
「ケチ。でも嬉しい」
クロは俺の横にぴったりとくっついて嬉しそうにほほ笑んだ。
こいつ、絶対今の聞こえてただろ。
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