第83話 デモンルイン【色欲】

「欲望を貪る内なる獣を全解放する……『狂化』」


 時空弓に取り囲まれたデモンサキュバスは身体を発光させ、俺の視界を奪おうとする。


「眩しい……が」


 何をしようとしているのかは分からないが、俺の攻撃は止まらない。


 大量の矢が放たれる音が響き渡ると俺は自分の勝ちを確信。

 視界が狭まった状態で倒れ込んでいるクロの元へと足を運ぶ。


「――クロ、大丈夫か」

「う、う……。一也さん?」

「なんとか無事みたいだな。ここの統括モンスターは倒した。1度安全な場所に移動して回復を――」

「ぐあが……」

「一也さん後ろっ!」


 おぞましい鳴き声と焦るクロの声に反応して振り返る。

 するとそこにはサキュバスだった頃の面影など一切なくなりより化物らしくなったそれが1匹。


 四翼四腕の真っ黒な巨体はその拳全てを振り上げて、俺を殴り潰そうとしている。


「――くっ!」


 突然の事に思う様に足が動かない俺はクロに抱き付かれるようにして身体を押し飛ばされた。


 そのお陰で拳はギリギリの場所に振り下ろされ俺達は難を逃れた。


「……ありがとうクロ、助かった」


 俺は拳が振り下ろされた地面を見てからクロに感謝を告げた。

 というのもその攻撃時に鳴った地響き、そして割れた地面をから察するに、こいつの攻撃力は40階層に居たトロルとは比にならない高く、あんなのをもらってしまえば致命傷は避けられない。


 もしあのまま立ち尽くしていたら……そう考えると感謝の言葉は詰まる様子もなく、すっと出てくれたのだ。


「ぐ、あああああああああ!!」


 攻撃を外した事に苛立ちを感じたのか、天を仰ぎ咆哮する元サキュバス。

 それは獣そのもの。もう人の言葉を使う事も出来ないのだろうな。


「うぐあ……」

「また来る……。私が盾になるから一也さんは距離をとって!」

「魔力矢、10。クロが盾になる前に俺がこいつを倒せれば……」


 時空弓を解除。

 ターゲット選択は『デモンルイン【色欲】』……形態が変わったのは一応進化という扱いなのか、名前まで変わっている。

 俺はクロの言葉を一度無視してそんなモンスターをターゲット設定すると、魔力弓だけを用いて矢を放った。


 時空弓による攻撃は進化する事で起きたHP回復によってダメージが相殺された可能性が濃厚。

 であれば今放った矢は有効で――


「すぅ……」


 向かってくる矢に対してデモンルイン【色欲】は避ける素振りをまるで見せないどころか、口を大きく開けてゆっくりと息を吸う。

 

 焦りを解消する為の行動……という風には見えないな。


「――う゛ま゛っ!」

「……矢が、縮んだ?」


 デモンルイン【色欲】が吸い込みを強くすればするほど俺の放った矢は縮み、着弾する頃には本来の10分の1程度の大きさに。


 会心の一撃は発動しているものの、矢には相手を倒すどころか部位を破壊する力もなくなっていた。


 チクりと刺さった魔力矢は呆気なく消え、デモンルイン【色欲】は嬉しそうに近寄る。


 この31階層から40階層の探索中ずっと気に掛かっていた火力不足。

 それがまさかここでも問題になるとは。


「が、あがああああっ!!」

「魔力弓再具現化、消費魔力250っ!」


 唐突に吠えたデモンルイン【色欲】の口からピンク色の煙が立ち上ぼり、俺は以前嗅いだ事のある匂いに気付いた。


 あれがこの部屋に充満したらまずい。

 咄嗟に脳が危険を察して俺は今まで以上に魔力を費やして魔力弓を具現化。

 これで仕留められなければ――


「一也さん……」


 デモンルイン【色欲】の近くにいたクロが催淫効果を受けた所為なのか、俺の元までいつの間にか駆け出し、弓を引く前の俺の手を握ってくれた。

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