第63話 モンスターコマンド
「なに、これ?」
「今までここにモンスターが湧いたことは無いんだけどな。クロ、これは『ワープゲート』を操作された事が原因なのか?」
「……ううん。むしろその線は消えた。家にコボルトが現れたのは単純にここで通常に沸いたコボルトがたまたまあそこを潜って来ただけだと思う。でも、なんでいきなりこんなに湧くようになったの?」
ワープゲートを潜った先に見えたのはコボルトの群れ。
通常のコボルトから進化した個体まで見事に揃っている。
この前まで戦っていた相手なのに、今見ると懐かしいメンツに感じるな。
「来るぞ! 一也ボケっとするな!」
「クロちゃんも! 戦闘の体勢をとって!」
予想外の光景に動きを止めて考察を始めようとすると、拓海と朱音が俺達に注意を投げかけてコボルトの群れに突っ込んでいった。
流石にアダマンタイトクラスの探索者。ダンジョンでの戦闘経験が俺達よりも数段あるからか、探索という事に対する姿勢にプロ意識を感じる。
「よし、俺も……ってもう終わるなこれ」
俺も急いで戦闘に加わろうとするが、拓海の水スキルと朱音の空間爆発でコボルト達を圧倒。
イレギュラーな存在でない通常湧きのコボルトなんて2人にとっては所詮雑魚という事なのだろう。
「凄い……。ん? 一也さんあれって……」
「ああ、あんなもの今まで無かったよな」
通常のコボルトが殆ど居なくなり、残ったのは『ウォーコボルト』が数匹。
視界が開け、前までは無かった筈の場所に登り階段が現れていた事に気付いた。
それに微かに聞こえる足音。誰かがあの階段から降りてくる。
「――こんなところにもダンジョンへの入り口があるなんて知らなかったぜ。ひひ、ここのモンスター達は俺がもらっちゃおうか、な?」
降りてきたのは正常化反対派の探索者と思われる男性。
男性は俺達を見ると少し驚いたような表情を見せるが、それはたった一瞬だけ。
次第に口角が上がり、不気味な笑い声を漏らし始める。
「いやいやいや、こりゃあ凄いメンツだ。これを殺したら俺、相当レベルアップ出来るんじゃないか?」
「……正常化反対派の探索者か? 白旗を上げて自ら拘束されてくれるなら、悪い様にはしないぞ」
「あ? こんなチャンスにそんな事するわけないだろ? それに俺はこの世界をひっくり返す、そこに夢を見ている。そんな脅し程度で止まるわけないんだよ。ギフトスキル:『モンスターコマンド』。集まれお前達!」
男性が何やらスキルを発動させると、ウォリアーコボルト達が男性の元に駆けだす。
「制限付きだが、俺はモンスターを操作可能なスキルを授かった。それでも俺の職業は『武器屋』。こいつらから今まで手に入れた経験値を対価として支払わせて、武器を売りつける。『ゲインウェポン』」
ウォリアーコボルト達の手に斧、剣、弓、槍、様々な武器が顕現される。
それも普通の武器じゃないのか、それぞれが様々な色のエフェクトを纏っている。
「ふぅ……。か、かなり魔力を使ったが、エンチャント武器を持ったウォーリアーコボルト達を相手に戦うのに4人じゃあ少な過ぎ――」
――パンッ!
「まずは一匹。なぁ、これでもまだ拘束されるつもりはないか?」
俺は勝ち誇った表情の探索者の話を遮るように弓を引き、一番手前の『ウォーコボルト』を爆散させた。
他の個体と距離があった所為で衝撃波の効果が現れなかったが、男性の顔を見ると大分牽制になったんじゃないか?
「なんだよ今の? そんなのズル過ぎんだろ――。ってやっば……」
『ウォーコボルト』達を置いて後ずさりを始めると、男性は胸元を抑えその場に蹲った。
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