第61話 行方
俺は挙動のおかしくなる朱音と何とも言えない表情の拓海を招き入れるとリビングのソファに腰かけさせた。
まずは誤解を解くところからだな。
「まず頑張ってたっていうのはゲームの話だ。な、クロ」
「うん。最近買ってもらったゲームを3人で遊んでて……。朱音さんはみなみちゃんが、佐藤みなみちゃんの事を知ってるんですか? それなら今どこで何をしてるとか、病気になっていないかとか教えて欲しいです!」
「えっと、クロちゃんちょっと落ち着いてもらってもいいかな?」
「一也……本当に何もしていないんだな?」
「ああ。分かってくれて何よりだ。それで2人の聞きたい事ってのはなんだ? ちなみに俺の聞きたい事っていうのはクロと全く同じ何だが」
クロの必死な顔のお陰で2人は冷静な顔を見せる様になる。
その上で今度は拓海がゆっくりと口を開く。
「佐藤みなみと2人が仲がいいという事を知った上でこの話をするのはなかなか酷な事かもしれないんだが……佐藤みなみ、あいつは今俺達『ファースト』が受けている依頼の拘束対象になっている。危険人物。まだ公にはなっていないが一応はテロリスト扱いになっている」
「みなみちゃんが、危険人物?」
拓海の言葉に信じられないと言った様子のクロ。
勿論俺もまだ信じられていない。
「ええ。佐藤みなみが犯した罪はダンジョン内での人間への暴行。具体的にはダンジョンの正常化を図る私達『ファースト』を阻止する為に29階層で攻撃をしてきたの」
「佐藤さんが29階層? でも俺が知ってる佐藤さんにはそこまでのレベルは無かったはずだぞ。それにそんなに早く29階層にしかも1人で向かうのは不可能――」
「奴はスキルでダンジョン内を移動出来るらしい。自分で『ワープゲート』を生み出す事でな」
拓海はクロをじっと見つめながら言い放つ。
その視線はなんで佐藤さんがお前と同じスキルを使えるんだと言いたげだ。
「クロちゃんと同じスキルを使える事が気になったっていうのは勿論だけど、佐藤みなみはダンジョンのモンスターを操るような仕草を見せてて……。ダンジョンのシステムっていうのは人間があんな風に簡単に干渉出来るものなの?」
「それは私には分かりません。でもスキルにはリスクを伴う代わりに強力な効果を発揮出来るものがあります。だからそういったスキルもありえなくはないと思います。『ワープゲート』を使えるっていう点も詳しくは分からないです」
「そう。クロちゃんにもそこははっきりとは「分からないのね」
「すみません。私も全てのスキル、職業を把握しているわけではないので」
「それが聞けただけでこっちとしては満足だ。『ワープゲート』、それに奴が呟いていた英雄という単語。最悪俺は一也とクロちゃんが奴と結託して今回の一件に絡んできたという可能性も持っていたからな」
拓海はふうっと息を吐くと、少し安心した表情を見せた。
多分拓海がここに来たのは、俺達が佐藤さんと共謀していた場合朱音が感情に身を任せて攻撃をし始めないか、そういう意味があったのだろう。
「みなみちゃんが、そんな事をしようとしてたなら、ちょっとでも相談してくれてたら私は止めてました。そんな事しなくてもあんなに楽しく遊んでたのに……」
「遊びね。あの子にとっては私達を襲ったのも遊び感覚だったのかもしれないわ。『ゲームのような世界を作りたい』そんな言葉を頻りに使ってたから」
「みなみちゃん……。それで今みなみちゃんはどこに?」
「残念ながら場所は特定出来ていないの。でも私達を襲うような人間なら何となく見当はついてるわ。2人ともこのニュースは知ってる?」
そう言いながら朱音はスマホの画面を俺達に向けた。
『正常化反対派再び暴走! 荒れる若者の街! 正常化を図るアダマンタイトクラス探索者を狙って、突如現れた遺跡で決起集会か?』
さっきまで何気なく見ていたネットニュースの見出し。
まさかこれが自分達に関係してくるなんて……。
世間は俺が思っている以上に遙かに狭いな。
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