第57話 急襲
「で、今日も来たのか」
「はい、お邪魔しても良いですか?」
「あっ! みなみちゃん上がって上がって! 今日は素材集まりきる迄絶対返さないんだから! 一也さんもハイパーランクまでもう少しだから頑張ろうね!」
秋葉原でゲームを買ってあげた日から3日。
拓海達は『ノスタルジア』の木の対象に予想以上の苦戦を見せており、一方の俺達はゲーム漬けの日々を送っていた。
あの日、本当はもう少しいろんな所でクロを遊ばせる予定だったが、佐藤のゲームトークとフィギュア散策に付き合い1日が潰れた。
その中でクロと佐藤さんはこれでもかと言うくらいの仲まで発展。
毎日俺の家に通い、遅い時間に帰る。
佐藤は大学生らしいが今年はもう留年確定で、諦めてここに通ってるのだとか。
頑張っている拓海や朱音とは裏腹にこんな堕落した生活を送ってると罪悪感が凄い。
「――疲労回復用にリジェネも使って……これで準備万端!」
「それは使い道が違う気がするが……あれ? なんかアプデ来てないか?」
意気揚々とゲームを開始しようとするクロ達に合わせて俺もあの日一緒に買ったゲーム機を起動した。
だが、プレイしようとしたオンラインモードはアップデートが必要だったようで、大容量のダウンロードが開始。
特段通信環境に優れてるわけじゃないから結構時間が掛かりそうだ。
「ありゃりゃ、そういえば今日からイベント始まるんだっけ。しばらくは待ちだね」
「はぁ……」
「クロちゃん、そんなに落ち込まないでって! 今日は長いんだから。そうだ! この間におやつでも買いに行かない? そういえばクロちゃんの好きなコンビニで新作パフェ出てたっけ」
「みなみちゃん、一也さん、戦の前の補給は重要。直ぐに買いに行こ」
佐藤さんを家に迎え入れるといい、自分からコンビニに誘うところといい、こっちの世界に順調に染まってきたなぁクロ。
◇
「――んーっ! 美味しい!」
「そりゃあ良かった良かった。それにしてもコンビニ行くくらいでも付いてくるなんて過保護ですねえ、飯村さんは」
「ネットに顔を晒されてるからな。変な人間が寄って来てもおかしくない」
コンビニを出るとクロは早速一口。
嬉しそうなクロの様子を見ていると佐藤さんが茶化してきた。
俺の方が年上だが、この人は躊躇いなくこういう事を言ってくる。
「でもこっちでスキルが使える人も増えてますもんね。いやぁ物騒物騒」
「……そうだが、それにしては嬉しそうじゃないか?」
「え?そんな風に見えますか?」
「ちょっとだけな」
「飯村さん……。人をからかうのが下手過ぎません? まぁ、ちょっとドキドキしてるのは否めませんけどね」
「ドキドキ?」
「これから地上でスキルが使えたり、モンスターが現れたり、ファンタジーな世界ってちょっと胸高鳴りますから。まぁ、実際私は弱弱なのでそんな風になったら大変ですけど――」
「2人共避けて!」
「『グラスプロック』」
クロが唐突に声を上げると、俺達の足元がぐらぐらと揺れ始めた。
これは地震じゃない。遠くに見える男性が不自然に両手を地面に着けている事からしてこれはスキルで間違いない。
「こんな所で堂々と……。でもなんで俺達が――」
「きゃああああああっ!」
俺は咄嗟にその場を離れる事が出来たが、佐藤さんは揺れに対応出来ずその足元が変化して生まれた、手の形をした岩に捕まった。
『魔力弓、魔力消費10。魔力矢、魔力消費5』
俺は急いで弓を準備すると、岩に弓を向けそれを引いた。
岩は大きな音を立てて崩れ、落ちてきた佐藤さんはクロがキャッチ。
ほっと一息つくと、その隙を狙っていたのか、男性はその右拳で殴り掛かってきた。
弓は最悪の場合人を殺す。
ここはもう殴るしかないが……
「この身のこなしは探索者。やれるのか、弓のない俺で?いや、やるしかない」
喧嘩に自信が無い中、俺はその腹めがけて無理矢理突っ込んだ。
「ぐっ!」
自分よりも先に男性の拳が頬にヒット。
痛い、痛いが……。
今の俺なら、20階層まで正常化した俺なら……いける。
「『レベルギフト』」
「喰らえっ!」
俺の拳は男性の鳩尾を捉えた。
吐き出される唾、低い叫び声、骨が折れる音。
そして、男性の倒れる音が辺りに広がった。
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