第47話 繭
黒い穴が出現しそこに目掛けて飛んでいく矢。
俺は無事にスキルが発動されている事を確認すると、次々に矢を撃ち込む。
「一也、いくら動揺してるからってそれは……。お前は体の傷が大分癒えてるんだろ? だったら先にクロちゃん自身に声を掛けてあげてやるのがいいんじゃないか? 俺の時は微かだが周りの音は聞こえていたからな」
「それでクロを救ってやれるならするが、そうじゃないならまだ可能性のある方に賭けるのが普通だろ」
「俺からすれば今撃ってる矢でこの状況をひっくり返す方が無理に感じるが――。ってこれ……」
「距離があるからかラグがあるみたいだな。でも届きさえすれば……」
弓を引いて少し時間が空くと、映像には俺が放った矢が映し出された。
やはり、転移弓は強化された事で別の階層にまで届く様になっていたらしい。
ただその勢いは自分の居る階層で放った時よりもしょぼく見える。
まだ検証出来てはいないが、今自分の居る階層と対象の階層があまりに離れすぎていると攻撃の質が落ち、最後には攻撃が反映されない場合があるのだろう。
今いる階層でこの攻撃の反映レベルであれば、5階層以上離れた場合、一応スキルは発動はされた判定になるかもしれないが、攻撃の反映はゼロ。悪戯に魔力を失うといった事態になるかもしれない。
「ぎぎゃあああああああああああああっ!!!」
「おいおいおい、本当に当たっちまったよ……」
20階層に現れた矢はダークネスキャタピラーの下半身を捉えた。
しかし矢の威力が下がっているのか、それとも相手がダメージ軽減スキルを使っているのか分からないが、1発で仕留められはしない。
「ぎ、ぎぎぎぃ……」
ダークネスキャタピラーは攻撃の出どころがどこなのか分からず辺りを見回して1度イビルワームの背後に隠れるが、そんなもの無意味。
俺の矢はダークネスキャタピラーを目指して、どこまでも追いかける。
複数の脚、背中、下顎、触角、各部位にヒットした俺の矢は悉くそれを爆散させ、遂にダークネスキャタピラーは動きを止めた。
それを心配するようにイビルワームがダークネスキャタピラーに寄り添う姿はモンスター同士と言えど、交配をした仲であり絆が生まれているのだろうと勝手に想起させる。
「だからって手を止める気はないが――」
「ぎぎぃぃいいっ!!」
次の瞬間、矢に襲われながらもダークネスキャタピラーは、大きな鳴き声を漏らしてイビルワームを食い始めた。
そして満たされた腹はあっという間に膨れ、そんな自分の身体に糸を巻き始める。
これは繭、という事は……。
「今進化する為にイビルワームを食って自分のレベルを上げたんだろう。パラサイトワームを生産出来る環境を無くしてまで進化をするメリット……。進化を阻止しないと大変な事になりかねないぞ」
拓海に急かされるように俺は弓を引くが、如何せんいつもより威力が低い俺の矢はダークネスキャタピラーの繭をなかなか突破出来ない。
直に本体に矢を当てられればいいのだが、繭自体がダークネスキャタピラーという判定になってしまっている様で、体内に寄生するパラサイトワームの様に上手くはいかない。
「――きゅああああぁぁあぁああっ!」
「もう出てきたか」
身体にドロッとした体液を纏わせ、明らかに進化不十分と思わせる姿でダークネスワームは繭の中から飛び出した。
俺は進化したダークネスキャタピラーをターゲットにする為、設定画面からそのモンスターの名前を確認。
「『厄憶蝶(やくおくちょう)』か、スキルがそのまま反映された名前だな」
「一也、手を止めるな! こいつ何かするつもりだぞ!」
焦りの色を見せる拓海に声を掛けられ再び弓を引く準備を整えると、厄憶蝶はその羽を広げ白い鱗粉をまき散らすと、今度はそれを階段の上部に流れ込ませる様に羽を使って風を起こした。
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