女嫌いと、一年教室

「あれ、旬どこ行くんだ? 昼飯か……早いな? まだ学食に列並んでるんじゃないか?」

「ああ、ちょっとな……」

「……?」

 翌日の昼休み。おれはセキカンに声をかけて教室を出た。

 いつもなら、教室で数十分暇をつぶしてから学食に向かうのだが、今日の目的地は少し違う。

 おれが向かう先は一年の教室だ。

 いや、べつに石原に会いたいというわけじゃないぞ。勘違いしないでくれ。

 だけど、昨日夢で思い出したことについて、いろいろ確かめたいことがあるから。

 そうだ、石原から話を聞きたいだけなんだ。事実確認をしたい。それだけだ。

 一年教室が近づくにつれ、当然一年生が目に見えて増える。中には一年の女どもがおれを見て二年の男の人だとか、陸上部がどうとか噂しているのも聞こえてくる。

 あまり居心地がよくないので、石原を誘いだしたらさっさと退散しよう。

 おれはそわそわと周りを見回しながら、一年一組の教室を覗いた。石原が何組か知らないので、来た道から一番近い教室で声をかけた。

「あの石原さん……いる?」

 入り口に一番近いところに座っていた男子にたずねる。

「は……?」

「いや、『は?』じゃなくて……石原灯梨さんってこのクラスかな?」

 ひょっとして違うクラスだったかな。

「に、二年のヒト……方ですか!?」

 がたたと机を揺らしておれに向き直って驚く下級生の男子。昼休みにくつろいでたところ悪いな。

「し、芝ちゃんになんか用ですか……!」

「しばちゃん……? いやおれが聞きたいのは石原灯梨についてで……」

「えと、ごめんなさい。芝ちゃんは石原さんのあだ名なんですけど」

「あだ名」

 あいつ、そんなあだ名つけられてたのか。

 しかし『芝』と『石原灯梨』。漢字がなにひとつ合ってないじゃないか。

「ああ、その石原さん……いる?」

 おれがあらためてたずねると教室がざわつく。

 女どもが早速おれのほうを横目で見ながら噂する。

「え、芝ちゃん上級生になんかしたの……?」

「芝ちゃん……あんな怖そうな人とケンカしたの? 大丈夫かな……?」

「芝ちゃんならやりかねないぞー……まあ芝ちゃん空手やってるから大丈夫だと思うけど」

 なにそれ。

 同級生にどういう評価されてんだ、あいつ。

 下級生の石原への変わった寸評と容赦ないおれの外見への評価を聞き流しつつ、入り口近くの男子の話を聞く。

「し、芝ちゃん、なんかしたんすか? せ、先輩に……?」

「いや、なんもされてねーから! そうじゃなくて、おれはあいつと話がしたくて……」

 違う違う、これじゃおれがあいつと、年下の女と話がしたい軟派野郎みたいじゃないか。

「いや! じ、事実確認がしたくて、来たの!」

「は、はあ……今日は来てませんよ。芝ちゃんは欠席です」

「なんでッ!? 理由はっ?」

 え、昨日はとくに体調悪そうには見えなかったけど。

 今日になって急に熱が出たとか、そんなことだろうか。

「だって……え? 先輩知らないんですか……」

「なにがだ」

 一年男子はおれを上目づかいで見ながら、驚いたようにたずねてくる。

 そして予想もしてない一言におれは頭をがつんと殴られたような衝撃を感じた。

「あの……芝ちゃんの家は今日――」

「………………は?」

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