54 俺は! 絶対に! お前らのことを好きにならない!!
……結婚式で、そんなこと言うドラマあったなぁ。
忘れてた、ここはただの少女漫画の世界じゃない──『一昔前の』少女漫画の世界なんだった。
結婚式に花嫁を奪う──お約束もいいところだ。
正装した鬼塚が、扉を開け放っていた。
突然の鬼塚の登場に、みんなが動揺している。鬼塚ファンクラブの女子だけは、推しの登場に喜んでいたが。
そして、このカオス状況を作り出した当の本人は、
「やっぱり、俺、お前のこと諦めらんねぇ!」
と、運動会の宣誓式並の声を張り上げた。
……いつ失恋したんだ、こいつは。
俺と伊集院が本当に結婚するとでも思ってんのか?
鬼塚はスゥ、と息を目一杯、肺に吸い込んで、叫んだ。
「俺は、お前のことが好きだ、早乙女!」
────あぁ。
遂にされてしまった、告白を。
俺が散々回避しようとしていたものが、現実に。
目眩を起こしそうな俺の肩を、伊集院がそっと引き寄せた。
「何を今更。告白なんてしたって、無駄だよ。早乙女は渡さない」
…………は!?
お前、さっき行ってこいって言ったじゃねぇか!
伊集院の顔を見ると、いたずらっ子のような笑みを浮かべていた──あ、こいつさては、この状況を楽しんでやがるな!?
さっきまでの殊勝な態度はどこいったんだよ!
混乱を隠せない俺に構わず、伊集院は、俺の首の裏側に手を当てて引き寄せた。
ちゅっ。
──おでこに、キスされた。
思わず、キスされた箇所を手で覆う。観覧席からは悲鳴にも似た歓声が上がった。
「……なっ!? てめぇ!!」
鬼塚がズカズカと大股で近づいてくる。
「ちょっとお待ちください!!」
綾小路がそれを止めた──ようやく、まともな人間からのストップが入った。綾小路がせっかく企画したのに、ぶち壊しちゃったもんな。
カメラマンさんもスタッフさんも、みんな慌てているのが視界の端に映っていた。
観覧席に座っていた綾小路が席を立ち、ツカツカと歩み寄ってくる。
きっと怒ってるんだ。そうだ、勝手なことばかりして──
「あ、綾小路、ごめ……」
「わたくしだって、早乙女さんが好きです!!」
お前も参戦すんのかよ。
そう言って、綾小路は俺の頬にキスをした──美少女からのキスは、存外嬉しいものである。
「え〜!? じゃあ僕もやる〜! ちょっと待ったぁ〜!」
亜矢瀬がブーイングをしながら、トテトテと寄ってくる──そして、綾小路がキスした反対側に唇を落とした。
「……お前らなぁ!!」
その様子を、怒りのあまりか、震えながら見ていた鬼塚が遂に、俺をぐい、と引っ張り出した。
すんなりと鬼塚の腕の中に収まる俺。
ゴツゴツした大きな手が頬に当てられ、乱暴に鬼塚のほうへ顔を向かされる。
「んむっ!?」
唇と唇が重なった。
男に、唇を奪われてしまった。
ファーストキスが綾小路に奪われていただけ、まだマシだったと言える。
「おっまえ、何して……!?」
口を押さえるが、みんなはもう俺のキスなどどうでもいいようだ。
「さぁ、早乙女、誰を選ぶんだ?」
伊集院が俺に問いかける。
「僕だよね? 乙女ちゃん?」
「わたくしですわ! 早乙女さん!」
「俺にしなよ、早乙女」
「……俺だろ、早乙女」
四人に一斉にアプローチされる。
……選べって?
この中から一人、恋人になる人を選べって?
……そんなこと、できるわけない!
「いいか! よく聞け!」
俺は四人に人差し指を突きつけた。
「俺は! 絶対に! お前らのことを好きにならない!!」
少女漫画のヒロインに転生した男子高校生は恋愛フラグをへし折りたい よこすかなみ @45suka73
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