第十六話 別れたと思ったら

 エリー、ナーサの入院から一週間。

 自然界の進んだ医療技術で、二人とも全快した。

 「そうか~、もうブリデラントに帰っちゃうんだね。」

 ローマ国際空港のロビーにて。

 「そうね、残念だけど。」エリーの父親、ヘンリーの言った通り、エリーはプライベートジェットでブリデラント王国に帰ることになった。

 「ユース、今回のローマンド旅行で、あなたには二度も命を救われたわ。」

 「今回だったの!?」「そっちじゃないでしょ。」ユースの天然ボケにエリーのツッコミが走る。

 「だから、あなたにお礼がしたくて……」「お礼なら、入院してた時に言ってもらったよ。」「それだけじゃ私の気が収まらないの!」

 エリーはユースの手を取ると、顔を赤らめていった。

 「いつでもブリデラントに遊びに来てほしい。その時は国を挙げて歓迎するわ。」

 「えっ国賓として迎えるってこと? ダメだよ僕外交官とかじゃないし!」

 「いや、そうしないと王国の威信にかかわる。」そばにいたヘンリー王が言った。

 「ユース、本当にありがとう。お礼にうちの娘を嫁に」「「絶対にヤダ!!」」そこは揃う二人だった。

 「二人とも随分仲がいいんですね~?」急に空気を壊すような冷たい声。

 「な、ナーサ? なんでそんな怖い顔してるの?」

 「エリー殿下……でしたっけ?」ナーサは長椅子から立ち上がると、氷結戦士もびっくりの冷たい目線をエリーに向ける。

 「それで殿下、ユースと仲良くなりすぎじゃないですか?」

 「あら、何か問題でも?」

 「会ってからまだたった一週間ちょっとですよね?距離感近づきすぎじゃないですか!?」

 「何の問題もないでしょ。」

 「ユースが迷惑してるんですよ!」「別に迷惑なんてしてないわよね、ユース?」

 「いや僕は、頼もしい仲間が増えて嬉しく思ってるよ。」

 「あ~らナーサさん? ユースは迷惑になんか思ってなかったみたいね~?」

 「だっ……だとしても限度ってのがあるでしょ!? 聞きましたよ! 一緒の布団で寝たんですってね!?」

 「えっ……どこでそれを?」

 「すまん。私がしゃべった。」「お父様~~~~~~~!!!」

 エリーは顔を真っ赤にして父親をにらみつける。が、またナーサのほうを向きなおして、「いっいいじゃない!  貴女なんて三年もユースと一つ屋根の下で暮らしてたんでしょ!?」と叫んだ。

 「「言い方!!!」」ユースとナーサが同時に反論した。

 そして病み上がりのキャッツ・ファイトはヘンリーの「ナーサ、もう行くぞ。ほかのお客様に迷惑だ。」という言葉で締めくくられた。

 「あ、待ってお父様~! ユースまたね~!」エリーがユースに手を振っているようだったが、十人くらいの護衛に囲まれてよく見えなかった。

 「ったく、あのムカつく王女め……ユース、レストランで昼食摂るわよ。奢りなさい!」

 「えぇ、なんで!?」



 空港のレストランで、二人は昼食を食べていた。

 ユースはカルボナーラ、ナーサはペペロンチーノ。

 ペペロンチーノをほおばりながらナーサが言った。

 「あのねユース、あのエリー・スチュアーテラートとかいう女は危険よ。あなたを誘惑してたぶらかすつもりなのよ!」

 ユースはちゃんと口に入れたものは飲み込んでから言葉を返した。

 「そんなわけないでしょ。仮にも一国の王女だぞ?」

 「ああゆうのが一番危険なの!!」

 「何をそんな必死になってるんだか……」

しかし、もっと必死になってレストランに駆け込んできた人がいた。

 「ユース殿!大変です!」「ん? あなたはエリーの護衛じゃないですか。飛行機に乗り遅れたんですか?」

 「国王陛下の乗った飛行機がハイジャックされました!!!」

 「ほー、何を言い出すかと思えばハイジャック事件ですか……それは本当ですか?」

 ユースの目の色が変わった。



 「あー疲れた、ねえダニエル紅茶入れて。」ブリデラント王室専用プライベートジェットにて。

 エリーはソファーに体をなげうっていた。

 ダニエルと呼ばれたその騎士は「かしこまりました。」と、ひと箱一万エウローは下らない高級紅茶を準備し始めた。

 「ねえお父様、今度は一人でローマンドに行っていい?」

 「ダメだ! 絶対にダメだ!! 今回も一人で外出したせいで命を狙われたんだろうが!!」

 「そうですよエリー殿下。」ダニエルが紅茶を持ってやって来た。

 「そうやって油断していると寝首をかかれますよ。」突然、刃が鋭く軌道を描いた。



 「飛行機に乗った護衛は偽物です!! エリー殿下が人質になってしまいました!」

 「なんだって!!? 犯人はギートか?」

 「いいえ! 自然戦士です!!」

 「尚更許せん! ちょっと始末してくる!」ユースはテーブルに二千エウローほどたたきつけると、コマンドレシーバーを接続バングルにセットして店を出た。

 後からナーサが追いかけてきた。「ユースやめなさい! ハイジャック犯と戦うなんて無茶よ!」

 「大丈夫、エリーと国王陛下を助けるだけだから。太陽変身!」空港に光が満ち、ユースは太陽戦士になった。

 「でも、どうやって飛んでいる飛行機に追いつくのよ!?」ナーサも変身しそうな勢いだった。

 「昨日コマンドレシーバーをいじってたら、こんな機能を見つけてね……」ユースのコマンドレシーバーには六角形のグラフが映っていた。

 「自然戦士の能力は六つのパラメーターで構成されているんだ。持久力、攻撃力、防御力、想像力、抵抗力、機動力ってね。そしてこの六つのパラメーターは、自由に100のポイントを振り分けられるんだ!」

 ユースはコマンドレシーバーに手をかざした。

 六角形の形が変わっていく。


 ・持久力5

 ・攻撃力5

 ・防御力5

 ・想像力5

 ・抵抗力5

 ・機動力75


 ユースはジェットパックを起動すると、空港から消えた。

 いや消えたのではない。一瞬にしてその場を去ったのだ。

 その証拠に、そのとき起きたソニックムーブで空港内は散らばった荷物や観葉植物で埋まっていた。

 さらに、周囲のガラスが消えてなくなっていた。ソニックムーブで割れた上に吹っ飛んだのだから当然だが。

 さて、ユースはどこに行ったのかというと、すでに国境を越えて飛んでいる飛行機に追いついていた。

 ユースは飛行機の尾翼に張り付くと、またコマンドレシーバーの画面に手をかざした。


 ・持久力5

 ・攻撃力75

 ・防御力5

 ・想像力5

 ・抵抗力5

 ・機動力5


 ユースは抜剣すると、剣を飛行機の尾翼に叩き込んだ。



 「いいかヘンリー・スチュアーテラート!! 娘の命が惜しければ、おとなしく王位を明け渡せ!」

 ブリデラント王室専用プライベートジェット「クイーン・ヴィクトリア」機内で、麻痺剣で無力化されたエリーは、護衛を装った自然戦士に人質に取られていた。

 いくら氷結王でも、娘の首に剣を置かれては攻撃できない。

 「おのれ、自然戦士でありながらこのような卑怯な手を使うとは……!!!」ヘンリーの顔は怒りで歪んでいた。

 突然、飛行機が大きく揺れた。

 「何事だ!?」そう言ったハイジャック犯の体は宙に浮いていた。

 そしてそのまま、機体後部に吹っ飛ばされていったのだ。

 吹っ飛んでいったのは一人だけではなかった。他のハイジャック犯も、ヘンリーも、エリーも吹っ飛ばされた。

 「何があったのよ!!」何があったかは明確だった。

 エリーの目の前には青空が広がっていた。飛行機の後部がユースの剣によってたたき切られてしまったためである。

 しかし、いきなりこんなことが起これば、誰だって何が起きたのか判断できないのは間違いなかった。

 すると次の瞬間、エリーの体が空中で何かにぶつかった。

 正確には通常形態になったユースが、エリーを空中で受け止めていたのだった。

 エリーは自分が今どうなっているか理解するのに数秒かかった。

 そして理解したとき、エリーはユースの胸の中にいたのだった。

 「ユース!! なんでこんなところに……」この時のエリーの感情はとても複雑だった。

 いきなりユースが表れて驚く気持ち、ユースが助けに来てくれてうれしい気持ち、ユースが自分を抱きしめていて心臓がオーバーヒートしそうな気持ち。

 しかし、空中で光が走ったことによってエリーはもう一度我に返った。

 氷結王ヘンリーが空中で変身した時の光だった。 

 「よかった、国王陛下は無事か。パイロットは……あ、パラシュートで脱出している。」

 エリーを抱きかかえながらユースはのんきにそんなことを言っていた。

 「しかし、これはまずいかもな……」見渡せば周りには飛行機をハイジャックした十人の自然戦士が二人を囲んでいた。

 「エリー、今変身できる?」「あっ……今コマンドレシーバー取られちゃってて……」さすがブリデラント王国の次期女王。こんな時にも顔を赤らめている余裕がある。

 「よく来たユース君。あとは私に任せなさい。」突然ヘンリーが二人の前に現れた。

 「お父様!」「無茶です陛下!相手は十人ですよ!?」

 「いや、心配はない。」ヘンリーは威厳に満ちた声でそう言った。

 そしてバックルから銃を取り出し、手の中でくるくると回転させたのちに構えた。

 「ブリデラント王室に仇成す者、私が直々に成敗してくれる!!」



第十七話 氷結王 に続く

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