第16節 捏造

クレア視点



 夜にボクはずっと、川の周りを歩いていた。

 あの家にいると息苦しい。だから、この川は好きだ。静かで。


 ふとした時に、お父さんとお母さんが死んだことを思い出しちゃう。

 村の大人達も部族に殺された。村が火で燃えていく光景がきれいにのこってる。


 昔のことを思い出して、歩いていたら、いつの間にか大きな倉庫の前にいた。

 確かクロノさんの倉庫だったはず(今は歌川が学校作っているって聞いた)。


 倉庫の中に入ると、月の明かりが中を照らしてくれた。クロノさんが昔使っていた服や本が山みたいに置いてある。まだ掃除が終わっていないのかも。


 壁を触りながら歩いていると、月の明かりじゃない光が見えた。


 松明を誰かが持っている。

 女の人みたい。綺麗なドレスを着て。倉庫を火を持ちながらキョロキョロと見ている。

 特に意味はないけど、女の人の後ろをついて行くことにした。


 火の動きが止まった。棚の間からジッと見ていると、「何かようですか?」、と後ろから男の人の声が聞こえた。


「なんで? そこにいるんじゃ」


 火とドレスを着た男の人を交互に見る。

──もう一人いるのかな。


「あれは、本を僕の火のトーテムで燃やしたんですよ。他の物に火が移ったら大変なので消しますね」


 ドレスを着た男の人は、手から水を出した!


「魔法を見るのは初めてですか?」

「…うん」

「魔法は色々あって楽しいですよ」


 ドレスを着た男の人は色々な魔法を見せてくれた。火だったり水だったり風だったり、色々な魔法が見れて楽しかった。


「そういえば、あなたの名前を聞いていませんでしたね。僕はデロルと言います」

 デロルさんは笑った。


「…僕はクレア」

「クレアくんですか。僕は王国から来てしばらくの間この村を警護けいごしますので、よろしくお願いします。立ったままだと、疲れますし座りましょうか」


 デロルさんは木の床に座った。ボクもそれに続いて床に座る。


「王国から来たの?」

「ええ、これでも軍人ですからね」


 デロルさんの格好は軍人というより貴族の女の人だ。月の明かりに照らされてキラキラとドレスしている。


「この格好は僕の趣味みたいなものと、これスカートの下にトーテム隠してあるので結構実用的ですよ」

 スカートの中から紙の札がたくさん見えた。


 そこからはデロルさんと色々な話をした。互いの好きな食べ物、嫌いな食べ物、最近あったことをいっぱい話した。久しぶりにいっぱい話した。


 デロルさんは歌川と似たような雰囲気で、話しやすい。


「この学校、倉庫はなんで学校にしようとしているか、知っていますか?」

 デロルさんは急に話を変えた。ボクがさっき歌川が、学校にしようとしていると言ったからかな。

「歌川に聞いたけど、わかんないって言われた」


 デロルさんは真剣な顔になった。

 何かマズいことでも言ったかな。


「クロノくん。その歌川ってお嬢さんについてもう少し詳しく聞かせてもらえませんか?」

「わかんない。けど、折り紙がキレイに折れる」

「そうですか、さらに聞きますがその歌川って女の子の特徴を教えてもらえませんか?」


「青っぽい髪、髪が長くて…目がたれ目で…スカートがキレイ…」

 ボクが知っている限りの歌川についてのことを、デロルさんに教えてあげた。

 すると、デロルさんは真剣な顔で話した。

「ありがとうございます。僕がこの国に来た理由は、歌川さんを探しているのです。他にも探している方はいますが」

「なんで探しているの?」


「それは…大変申し上げにくいのですが、歌川さんが部族だからです」


──歌川が部族?


「最近この村の近くで兵士が、部族におそわれました。襲われた兵士が言うには襲った人の特徴が歌川さんと一致しています」

「そんな、歌川がそんなことするはずない」

「悲しいと思われますが、これは事実です…」


「…つい最近ある村が襲われました。そのときに襲った者の中に歌川さんらしき人物がいたようです」

「…ある村ってなに?」

「それは申し上げにくいです…」

「言って」


「…キウェーヌ村です。クレアくんの生まれ育った村です…」

「噓だ…。歌川がそんなことするはずない」


 噓だと思いたい、だって歌川は良い奴だから。まだ少ししかあったことないから絶対にとは言えないけど。


「悲しいですが、恐らく本当です。私の真の目的は彼女らが、学校を作っているのを阻止するためです。なので、些細ささいなことでもいいので教えてください。

君の村で起きた悲劇を防ぐためです。彼女らはこの倉庫に仲間を集めて来る日にこの村を襲おうとしているのです」


 デロルさんはボクの手を取って、「僕とクレアくんでこの村を守りましょう」、と笑ってくれた。



「クレアくん…一旦家に帰って気持ちの整理をした方がいいですよ」


 しっかり歩けていないボクを見て、デロルさんは背中に乗せて家まで送ってくれた。


「もう大丈夫」

「ほんとですか?」

「うん、平気。もう家近いから歩いて帰れる」

「わかりました。夜道を1人で歩くのは大変だと思いますので良かったらこれを使ってください」


 デロルさんは紙をボクに渡してくれた。

 火のトーテムらしい。


「使い方は火を使いたいと念じれば使えます」

「わかった。ありがとう」

「クレアくん、気を確かにしてくださいね。何かあったら相談に乗りますので。それではお気をつけて帰ってくださいね」


 デロルさんと別れた後、いつも通り川の周りを歩いていると、歌川と一緒に作った折り紙の燃えた後が残っていた。


──もし、デロルさんが言っていることが本当だったら…。


「絶対に許さない、この倉庫を燃やしてみんなを守らないと」

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