第35話 知ってましたか?

「知ってましたか?」

「知ってるよ。朝の6時。朝練もないにオレのお布団に潜り込んできて、体育座りしてお布団の中を『すうすう』させたのは、実はマイちゃんじゃなくしおりだってことぐらい」


「そんなことは聞いてません」


「じゃあ、これ見よがしに足の裏擦りつけて『構ってちゃん』アピ―ルしてるのをオレは知ってる」


「残念。それも違う。違うけど『構ってちゃん』アピ―ルとわかってて、何で構ってくれない? 端的に答えよ」


しおりは知らないだろ。対角線上の先にジト目で睨むマイちゃんの視線を」


「知ってますよ。だってココに来るの舞美ちゃんの許可貰ってますから」

「なんだ、許可出してるクセして睨んでるのか。納得いかないな。寒いだろ、マイちゃんも部屋入れよ」

「ぶう……」


 舞美は自分で許可を出しときながら拗ねる、ブラコンの鏡のような存在だ『入れ』とは言ったが、ふたりしてお布団の中で体育座りは狭い。


 しかもふたり共寒いのか足裏を擦りつける。その為ふたりから背を向けるしかない。ふたりの方に寝返りをうった日には『擦って貰っては困る』場所を擦られかねない。しかもそこは栞の足に近い。


「知ってましたか? って何のことですか? 栞ちゃんがスト―カ―だってのは周知の事実ですし」


「お言葉ですがと言うほどではないです。でも何か認められてる感じはうれしいです」


「栞。そこよろこんでいいとこなんだなぁ…お前。ちっちゃな幸せ見つける達人だなぁ…お前といると何か幸せになれる気がする」

「お兄ぃ、それなんかわかる。栞ちゃん素朴で何か安心の安定感」


「あっ、天啓が……斎藤君が振り向いてくれなくても、舞美ちゃんと百合の道が……いや、むしろ斎藤兄妹といい感じで三角関係とか…」


「マイちゃん、この人全然素朴じゃないよ、この恍惚感。割とマジなヤツじゃね?」

「お兄ぃ、どうしょ…栞ちゃん――お兄ぃに凌辱りょうじょくされたフィ―ドバック……私にする気!? どうしょ…お兄ぃ…そんなに嫌じゃないかも」


「はぁ! マイちゃんが百合の道へ!?」


「斎藤君。心配しないでください。ほら考えてみて? おふたりはガチの兄妹じゃないですか。モラル的にちょっと…ですが、あら不思議。私を介して、ふたりの関係はですね…」

「ヤバい…それは、相当ヤバい」

「どうしょ、栞ちゃん…めっちゃエッチだ…」


「ふふっ、あとひと押しですね。例えばですね、私が斎藤君とキスするとします。その後、私と舞美ちゃんがキスしたら?」

「あっ、どうしょ! お兄ぃ! 何か生々しい間接キスだ……さすがスト―カ―さんだ。発想が陰湿でネチネチしてる分、ほどえっちい! でも、栞ちゃん……何かメリットあります?」


「何いってんですか、じゃないですか! これって言い換えれば『』なわけじゃないですか、我ながら天才? それはさて置き、私――三崎栞、とりあえず脱ぎます!」


「あっ、じゃあ、オレも」

「わ、私も……脱ごうかな…」


 □□□□

「まぁ、はさて置き」

「そうね、なんか盛り上がったけど」

「そうですね、朝っぱらから全開でした」

「で、栞。なに?『知ってましたか』だったな」


「そうです。ただ『知ってましたか』を聞くだけでこれだけの脱線。しかも3人で、いかがわしい感じがクセになりそう」

「それはわかるが、せっかく元に戻ったんだ『知ってましたか』をまず、片付けよう。エッチな話はそれからだ」

「お兄ぃが何か頼もしく見える。きっと、たくましく見えちゃいけないんだろうけど」


「知ってましたかというか、気付いてましたか――です。つまりは斎藤君とシルヴェ―ヌさんが校門で退学を知らされたとき……私近くにいましたよ。更に言うならその時の会話聞いてましたよ?」


 オレは記憶を呼び起こしていた。通学時間帯。怪我をしてたので朝練に参加しない日のことだった。バス停でシルさんに再会し、お礼を言われながら登校した校門で起きた事件。


 しかし、その時の周りにはそれ程生徒はいなかったはず。ましてや中学が同じ栞の姿があったなら、覚えていてもおかしくない。


 ハッキリとは言い切れないが、栞の姿はなかった。そんな結論の答えを持つかのように、栞は手の内を晒した。


! スト―カ―必須アイテム『!』説明しよう!『ドコでもマイク!』は少し離れた場所の会話も鮮明に聞き取れる、とっても便利なアイテム。その距離は約20メートルと案外広範囲。使い方は簡単。スマホのイヤホンジャックに差し込むだけ! 専用の録音アプリを使えば勝手に保存してくれる優れもの! しかもお安い! 見つけた瞬間ポチリました。このマイクのお陰で、わたしのスト―カ―ライフはめっちゃ充実してます」


 久しぶりのスト―カ―方面のアクセルベタ踏みに、慣れたつもりが中々パワフルだ。つまり栞が何が言いたいかというと――


「成宮監督と担任の林田先生の会話を録音しているってことか」


「その通り、と言いたいとこですが…その程度で私が斎藤兄妹にご贔屓されると思われます?」


「栞ちゃん。その時の肉声…意外に使えると思う。出来ることの幅広がるし」


「ふっふっふ…私はその時の私を褒めてあげたい! 私ふたりのその後の二人だけの会話、抑えてます。因みに中々のです。覚悟いります」


 ふざけた口調だった栞は布団の中で正座しなおした。そして舞美を見た。舞美は最初から『ふたり組』を信用するな、期待するなと言っていたことを思い出す。




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