第58話 07月16日【2】
「こんな所で一体……もしかして事務長、私のことを?」
「いや、その…」
驚く
確かに
彼女の言葉だけ聞けば、『私をストーカーのように思い警戒している』とも解釈できる。
かといって「違う」とも言えない。
正しい答えが見つからず、戸惑い口籠もっていると、不意に
瞬間、彼女の表情は氷の如く冷める。
「これは失礼致しました。事務長も食事にいらっしゃっていたのですね。お楽しみの所を私のような者が邪魔をして申し訳ございません。お相手はどちらの女性でしょうか」
「え……いや、違――」
なにか良からぬ誤解を受けている。私は思わず立ち上がると、その直後。
「やあ、これは事務長さん」
男は私の眼前に立つと、ペコリと丁寧に会釈する。
「いつも彼女がお世話になっています。
「え……つ、付き合っ…?」
顔に貼り付けた微苦笑が、つい引き攣ってしまう。
「ち、違います事務長! 私は交際などしておりません! 食事に来たのも今日が初めてです!」
「ええ、初めてです。お恥ずかしながら立場上、日曜日も立て込んでいますので。しかし私は、
瞬間、私も
愛想の中に自慢を織り交ぜ、「ハハハ」と照れ笑いを浮かべる男を。
「なっ……何を仰っているのですか!」
驚く
「私は
歯の浮かような台詞を臆面もなく吐きながら、男は私を見やる。
「そ、そうなんですね…」
その真っ直ぐな視線に、私の方が顔を逸らしてしまった。
「待ってください事務長! それは違――」
「違うのですか?」
またも
男に見つめられた
「
聞いている方が恥じらいを覚えるほど、男は流暢に
やはり彼女も、この男のことを…。
……いや、当然といえば当然か。
彼はルックスが良く理性的で言葉も上手い。保険証の番号から察するに大企業勤めのようだ。
真に
そんな私の心中を察したかのように、男はニヤリとキザに笑って
「さあ、
「えっ……いえ、私はそんな…」
「ああ、なるほど。
「それはダメだ!」
私は思わず声を張った。
気付いた時には、その言葉が放たれていた。
男はゆっくりと振り返り、高い上背から私を睨め付ける。どこか、怒りと
「何故貴方が否定するのですか? ただの雇用主である貴方に、私や彼女の自由意志を決定する権利など無いと思いますが?」
理路整然とした口調。高価なスーツを纏って向けられる視線。それが私の心を容赦なく
けれど私は
「確かに
「ああぁ――――っ!!」
突然と背後から響く大きな声に、私の二の句が遮られた。
振り返った私は、その声の主を目にして息を呑んだ。
なぜなら視線の先に、先日の医師団パーティーに来ていた詐欺師まがいの女が居たのだから。
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