第51話 二階堂愛琉の気合いの卒検
暦が6月になった頃。
愛琉は大型二輪教習の卒検日を迎えていた。
大型二輪の教習内容は、普通二輪の時の内容が少しレベルアップした感じで既に中型バイクに乗ってる人のステップアップ的な内容になっている。
GWの時の浜松ツーリングで愛車のヨンフォアが不動車となってしまい、それを機に大型にステップアップを決意した。
最初は一発試験で挑むつもりでいたが、自分の性格的に厳しいと判断して教習所に入校した。
入校後の初教習では、最初からいきなり指摘されたのはバイクに跨ってからスタンドを解除するやり方だ。
教習所ではスタンドを解除してからバイクに跨るやり方を教えている、確かに跨ってから解除するやり方が転倒するリスクも少なく確実なのだが、スタンドを解除した状態で重い車体を自分で支えた状態からでもバランスを崩すことなくバイクを扱えることを重要としているんだとか?
次に指摘された点は、既に普通二輪免許を所持して公道を走っている者なら大型二輪教習の際に言われた経験があるのではないだろうか?
クラッチやブレーキの操作をするときの握り方が慣れてくると2本指で操作してしまうことだ。
教習所ではしっかり4本指で操作するようにと言われている。
そして愛琉がもっと指摘されたのはバイクの運転だった。
別に派手に転びまくった 訳でもないんだが、単純にバイクの運転が雑すぎるらしい…
教官に細かい指摘や注意をされながらも無事に卒検の日を迎えることができた。
ちなみに今日の大型二輪の卒検を受ける者は愛琉を含めてたったの2人で、一緒に卒検を受ける人は大型二輪に入校して終盤の教習からずっと一緒の時間に受けてきた大学生の男性で大型二輪教習は1人の教官に対して教習生が最大3人程と少数でやる為、仲が良くなるケースが多いらしい。
「愛琉ちゃん、いよいよ卒検が始まるね…僕は緊張で気持ちが押し潰されそうだよ…」
一緒に卒検を受ける大学生の野口君が、緊張しすぎておかしくなりそうだったのか愛琉に話しかけてきた。
「いやぁ、アタシはそこまで緊張してないですね!むしろこれで合格すれば晴れてどんなバイクでも乗ってOKと思うとワクワクしますね!」
愛琉は気合い十分な感じで野口君に言うと「愛琉ちゃんはメンタル強いなぁ…」と苦笑いしていた。
卒検を受ける順番は年齢順となっているので、まずは大学生の野口君からスタートすることになっている。
1台だけスタート地点に置かれた試験車のxjr1300の前で2人は待っていると、試験官が1人やってきた。
「おはようございます!それでは早速、大型二輪の卒業検定を始めていきたいと思います!注意事項はこのボードに書かれた通りです。今回のコースはこちらになりますが、お二人はもう既に予習の方はしてきてますよね?加速や減速のポイントや合図を出すタイミングなどは普通二輪免許を持っているお二人ならわかっているでしょう。危険行為や課題ポイントでの脱輪や脱落などのミスは即不合格になりますので注意してください!…ここまでで何か質問は?」
試験官の言うことに対して特に不明な点がなかった2人は「大丈夫です」と答えると、野口君の名前が呼ばれて早速スタートした。
緊張してるとはいえ、既に中型バイクで公道を走ってる人が試験を受けているので特に危なげもなくスラローム、一本橋、波状路とクリアしていき大きな減点もされることなくスタート地点へ無事戻ってきて野口君の卒検は無事終わった。
次にいよいよ愛琉の番が来た…
愛琉の名前が呼ばれたので返事をしながら試験車のxjr1300に近づくと周囲の確認をしてスタンドを解除してからバイクに跨ると、ミラーなどを調整してエンジンを始動すると左右を確認しながら愛琉は1速のままコースに出るとギアを2速に上げてコースを進んでいった。
愛琉も野口君同様に今までヨンフォアで培ってきた運転技術があるので、それを活かしてスラロームや一本橋をクリアしていく。
スラローム、一本橋、波状路では少しバランスを崩しそうになったが、そこは気合いで持ち直して見せた。
流石に普通二輪免許所持者と言ったところだろう。
急制動や坂道発進は、普通二輪の時と変わらないのであっさりとクリアしてみせた。
愛琉も無事にスタート地点に戻ってくるとしっかりとバイクを停車させて、手順通りにバイクから降りると試験が終了した。
2人は大きなミスをすることなく試験を終えられた安堵感で試験官が結果を発表しに来るまでの間、待合室の椅子に座って軽い放心状態になっていた。
「愛琉ちゃんお疲れ様!いやぁ…無事終わったねぇ…たぶん…合格だよね?2人共…」
野口君が少し気が抜けた声で話しかけてきたので愛琉も返事をした。
「お疲れ様でした!まぁ…デカいミスはお互いしてないし大丈夫だと思いますよ」
2人で話していると試験官がやってきて合否を発表した。
「お疲れ様でした!野口さんは少しスラロームのタイムが遅かったかな?でも他は合図や目視も良くやってましたよ!二階堂さんは…スラロームや一本橋で少しバランスを崩しそうになってたけどなかなか良いタイムだったね!ただねぇ…合図と目視が少しおろそかだったかなぁ…まぁ出来てはいましたがね……では、結果を発表します……2人共合格です!卒業証明書を作成するまでに少しお時間がかかるので受付の近くの椅子に座ってお待ち下さい」
試験官はそう言うと奥の別室へ歩いて行った。
「愛琉ちゃん!やったね!これで僕らも大型に乗れるよ!」
野口君は急に元気になりながら言うと「いや、まだ免許書き換えしてないからダメですよ」と愛琉はあえて冷静なツッコみを入れて見せた。
2人は書類が出来るまでの間、大型バイクは何に乗るのか?大型バイクで最初にどこへ行きたい?などをいろいろ話していると受付担当の女性事務員が2人の卒業証明書や書類を持ってきた。
2人は大型二輪免許の交付するまでの流れを聞くと、今日の午後の部の免許追加取得の書き換えに間に合うことを知った。
2人はお世話になった教習所を後にすると、愛琉は早速これから免許センターに免許の書き換えに行くことにした。
「アタシは、これから免許センターに免許の書き換えに行こうと思うんですが…良かったら野口さんもどうです?」
愛琉が野口君を誘ってみると「僕も行こうと思ってたからちょうどいいね」と野口君も既に行く気満々らしい…
愛琉は不動車になってしまったヨンフォアに代わって、家に置いてあったCB400SF=スーフォアを乗ってきていた。
既に車の免許も持っている野口君はバイクではなくプリウスで来ていた。
「それじゃ!車とバイクで一緒に走るのもなんか不思議ですが…早速免許センターに行きましょう」
愛琉がそう言うと野口君は「りょーかい!」と返事をしながら、バイクの愛琉を先頭で2人は免許センターに向かった。
時間に余裕を持って免許センターに着いた2人は免許追加書き換えの手続きを済ませて、写真撮影などを終えると新しい免許証が出来上がるのを待っていた。
しばらくすると免許センターの事務員が免許追加書き換え組の新しい免許証を持ってやってくると、順番に名前を呼んで手渡していく。
愛琉と野口君の名前が呼ばれて2人は新しい免許証を受け取ると、足早に免許センターの外へ出た。
「やっと新しい免許証が貰えたね!ほんとにお疲れ様!それじゃ僕は帰るね!今度はお互い大型バイクで会おう!」
野口君はそう言うと手を振りながら自分の車の方へ歩いていった。
愛琉も野口君に手を振りながらバイク専用駐車場へ歩いていく。
愛琉はスーフォアの前に立つと先ほど財布に入れた新しい免許証を再び取り出した。
普自二の項目の左隣に大自二の文字が刻まれているのを見て、愛琉はニコッと笑ってスマホのカメラで免許証を撮影するとすぐに親友の彩葉にLINEで送った。
数分くらいすると彩葉から返信が来て「おめでとう」と表したスタンプが送られてきた。
「スタンプ返信かよ!」
愛琉はそう呟きながら思わず笑ってしまった。
愛琉はヘルメットとグローブを身につけるとスーフォアのエンジンを始動して帰路についた。
二階堂愛琉…これで君も大型ライダーだ!
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