第50話 楽しいことは人から人へ受け継がれる

GWが明けて2週間程経った水曜日の15時過ぎ。

彩葉はいつものようにバイトに励んでいた。


今日はお客さんのSR400の磨き作業中でメッキパーツの多いクラシカルなバイクなので細かい錆などを業務用の溶剤を使って綺麗に落としながら磨き上げていく。

今は剛がつくば市の方までトラックでバイクの輸送に行っているので店には彩葉が1人だ、バイトを始めて1年以上が経つのですっかり店番も頼まれるようになった。

バイクを磨いていると女性のお客さんが入ってきた。


「す、すみません…バイクを見たいんですけど…」


彩葉は作業の手を止めて「あ、こんにちは〜」と立ち上がってお客さんの方を向くと高校の制服を着た女子高生だった。

髪はボブくらいで身長は彩葉より少しだけ高くてほっそりした子だ。


「何かお探しのバイクがあるんですか?」


彩葉がそう言うと女子高生がスマホに保存されているバイクの画像を見せながら言った。


「私、小さい頃からお父さんの影響でバイクに乗ってみたいと思ってて…でも、車種なんてわからないし…カッコいいなと思ったバイクがこれなんですけど…」


女子高生がそう言うと彩葉はスマホの画像を見ながら「これはイナズマという車種ですね」と女子高生に言うと変わった名前だなぁという顔をしている。


「このバイクは、こちらのお店に置いてあるんですか?」


女子高生が聞いてきたので彩葉は申し訳なさそうに言った。


「申し訳ございません…ついこの間まで1台だけ状態の良いイナズマがあったのですが…売れてしまいまして…ですが!車体を取り寄せることは可能です」


彩葉がそう言うと女子高生は残念そうにしていたが、せっかくお店に来たので他のバイクも見たくなったのか彩葉に「店内にあるバイクを見ていいですか?」と聞いてきたので彩葉が「もちろんです!」と言うと女子高生は嬉しそうにバイクを見始めた。


目をキラキラさせながら見ている女子高生を見て、彩葉は自分が免許を取ってバイクに乗り始めた頃を思い出して少しニヤけてしまう。


「お客さんは、運転免許は持ってるんですか?」


彩葉が女子高生に聞くと、少し恥ずかしそうにしながら女子高生は言った。


「実は、ついこの間16歳になったばかりで免許を持っていなくて…これから教習所に行こうと思ってます!…ちなみに、お姉さんもめちゃくちゃお若いですよね?ひょっとして私と歳同じくらいですか?」


女子高生が年齢を聞いてきたので彩葉は笑いながら言った。


「ふふっ、実は私も高校生で今年で高3で18歳になりました」


彩葉がそう言うと女子高生はてっきり同い年かと思っていたのか驚いている。

女子高生は「お若くて可愛らしいので同い年かと思いました」と言うと彩葉は「毎回中学生くらいに見られます」と笑っている。


女子高生が外に停められている彩葉のFXを見て急にテンションを上げて彩葉に聞いてきた。


「このバイク!最近、この辺でよく見かけるんですよ!小柄でシルエット的に女性が乗っていて…こんな大きなバイクを乗りこなしてる姿を見て密かに憧れてるんです」


女子高生がそう言うと彩葉はちょっと照れくさそうに「それ…私のバイクです」と言うと、女子高生は突然「えーーー!!」と大きな声を出して驚いている。


「これ!お姉さんのバイクだったんですか!えぇ…めちゃくちゃカッコいいですね!750って書いてあるってことは…いわゆるナナハンってやつですね!私より身長が少し低い感じですよね?それで大型バイクに乗ってるなんてほんと憧れます!」


女子高生はテンションを上がりまくりで言うと、彩葉は「跨ってみていいですよ」と言うと女子高生は彩葉のFXに跨ってみたが小柄な女性にはz750fxは足つきが悪い。


「うわ…足が全然つかない…よく乗れますね!片足のつま先がつくのがやっとですよ…ほんとお姉さん凄いです!私も頑張って乗りこなせるようになりたいです」


女子高生は足つきの悪さに戸惑っているが、冷静になって考えてみると女子高生より身長が低い彩葉がFXをあんこ抜きなどをせずに乗り回しているのだからそれだけで凄いことなのだ。


女子高生はFXから降りると、改めて彩葉に自分が欲しいバイクを取り寄せて欲しいと頼んできた。


「今日、お姉さんと話してイナズマを買うことを決めました!頑張って教習通うのでお取り寄せをお願いしたいです!大型も憧れるけど…まだ免許取れないし中型すらまだ不安なので」


女子高生がそう言うと彩葉は「後で店長に伝えておきます」と言って彼女の連絡先を聞いて、程度の良い車体が入ったら連絡すると伝えると女子高生は帰っていった。


彩葉はなんだか不思議な気持ちだった、生活の為に乗り始めたバイクで友人が出来て今ではバイク基準の生活になっている。

そして新たにバイクに乗ってみたいという歳下の高校生にバイクの楽しさを教えた。


なんでもそうだが趣味の楽しさは人から人へ、そしてまたその人が違う人に伝えていく。


彩葉はバイクに乗って良かったと心から思った。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る