第46話 さよならは突然に

浜松で1泊したホテルを朝早くにチェックアウトした彩葉達は、一刻も早く茨城に戻るために新東名高速道路をZ(S30)とゼファーで飛ばしていた。

いつも旅先では騒いでいる愛琉は、暗い感じでZの助手席から外を眺めている。


昨日、スロットルワイヤーが切れてしまった愛琉のヨンフォアを蓮が山梨で世話になってる知り合いのバイク屋にレッカーしてもらい茨城の剛のバイク屋まで運んでもらったのだが、剛がヨンフォアのキーをONにしてエンジンをかけようとしても全くかからなくなってしまったのだ。

嫌な予感がした剛は、ヨンフォアの部品を取り外して故障した箇所をひたすら調べていくと最後にエンジンを分解して中を確認すると原因がわかった。

完全にエンジンが寿命を迎えていて、もう愛琉のヨンフォアはエンジンを載せ換えなければならない状態になっていた…

昨日の夜に電話で剛からヨンフォアの状態を聞かされた愛琉はホテルの部屋で急に落ち込んでしまい、まともに寝れなかった…


Zの助手席から新東名高速から見える静岡の景色を見ていた愛琉が急に話しかけてきた。


「あのヨンフォアはさ?アタシが小5の時に父さんに連れて行ってもらったサーキットで初めて乗って運転を覚えたバイクなんだよ…もうずっと昔から家にあったバイクで相当走ってきたバイクだからとうとう寿命を迎えちゃったのかなぁ…」


愛琉はいつもと違う落ち込んだ感じで言うと、彩葉は涙を流している愛琉に「バイクはその気になればまだ直せるよ…」としか言えなかった。

愛琉は自分を気遣ってくれている彩葉に「ありがとね」と言うと昨日は、まともに寝れなかったのかかなり眠そうにしていたので「茨城に着くまで寝てていいよ」と彩葉が言うと愛琉はZの助手席で眠ってしまった。


浜松を出発して3時間程で厚木のあたりまで戻ってきた彩葉達は海老名JCTから先で事故渋滞の情報が出ていたのでJCTを圏央道に逸れて渋滞を回避するとトイレ休憩で厚木PAに寄った。

彩葉が愛琉に「今、厚木PAだけどトイレは?」と聞くと大丈夫と返事したので彩葉とルナだけトイレ休憩を済ませると再び圏央道の本線に戻っていく。

厚木PAからはノンストップで走り続けて鶴ヶ島JCT、久喜白岡JCTを通過してつくばJCTで常磐道に乗り換えていわき方面に少し走ると彩葉は土浦北ICで高速を降りた、遠征から帰ってきて慣れ親しんだ茨城の道を走るといつも安心感を感じる。

彩葉はフルーツラインを抜けて浜松から5時間で剛のバイク屋に到着した。

彩葉達が到着すると剛や蓮が店内から出てきた。


「おう、おつかれさん!ヨンフォアは店の中だ」


蓮がそう言うとバイク屋に到着する少し前に目を覚ました愛琉が店内に誰よりも先に入っていくと、そこには形こそは綺麗に保っているがエンジンが寿命を迎えて不動車となってしまったヨンフォアが停まっていた。


「愛琉ちゃん、そのヨンフォアのエンジンはもうダメだ…完全に寿命を迎えて逝っちまっている…エンジンだけじゃなくてフレームも相当ガタがキテるし、相当長年乗ってきたバイクなんだろ?直せることは直せるがエンジンだけは載せ換えるしかないな」


剛がヨンフォアの状態について説明すると、少し沈黙が続いた後に愛琉が言った。


「アタシ!決めました!ヨンフォアはこのまま家のガレージで保管しようと思います!エンジン載せ換えて直したらなんだか違うバイクになっちゃうみたいで嫌だし、彩葉だって事故で大破したお父さんの形見のz400fxを大事にガレージで保管してるでしょ?アタシにとってもこのヨンフォアは初めてバイクの楽しさを教えてくれた思い入れのある相棒だもん!きっと限界ギリギリで走ってくれてたんだ…だからお疲れ様って気持ちで休ませてあげることにするよ」


愛琉が決断をすると、彩葉が言った。


「きっと愛琉のヨンフォアは、もうエンジンがブローしそうなのがわかっていて…わざとワイヤーを自ら切ったんじゃないかな?オーナーである愛琉を突然のブローの事故から守る為に…車やバイクって時にオーナーを自らの意思で守ろうとしてくれることがあるって聞いたことあるけど…愛琉は守ってもらえたんだね」


彩葉がそう言うと愛琉は堪えていた涙を流すとヨンフォアの車体に抱きつき声を出して泣き崩れた…

彩葉とは違った形で愛車を失ってしまった愛琉だが、これからどうするのか愛琉の中ではもう考えは固まっているようだった。

愛琉はしばらく泣いていたが、落ち着いてきたのか今後のことについて話し始めた。


「アタシ…あと少しで18歳になる、そしたら大型二輪免許を取って彩葉みたいにナナハンのバイクに乗ろうと思ってるんだ!次に乗るバイクはもう決めてるよ!いつまでも泣いてたらヨンフォアに怒られちゃいそうだもんね」


愛琉のその言葉を聞いて彩葉やルナ、ここにいる全員が安心した顔をしている。


「一緒にナナハンでツーリングする日を楽しみにしてるよ、親友」


彩葉はそう言って拳を出すと、愛琉は「大型乗りになって帰ってくるから待ってなさい!」と言って彩葉の拳に自分の拳を合わせた。


愛琉のバイクライフはまだまだこれからだ!

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