第31話 全く似ていない姉妹

彩葉がバイトを初めて2週間ほど経った。

8月になって夏休みもここからが本番と言った感じになってきて、彩葉の方もだいぶバイトの方に慣れてきた。

作業服として着ているツナギもいい感じに作業で汚れてサマになってきた感じがする。

男の人ではガサツになりがちな店内の掃除や事務所の整理なども彩葉がやるようになってかなり綺麗になり、バイクの磨きも小柄な彩葉は手も小さく指も細いのでバイクの隙間の部分やホイールのスポーク部分も楽に磨くことができる。

剛は「俺が磨くよりよっぽどピカピカだ」と言って、バイク磨きは今後は彩葉が専門になりそうだ。

昨日は原付バイクを近所の家まで2台ほど届けた際に初めて50ccスクーターを運転したが、近場を運転するなら便利だと彩葉は思った。


今日はGT380の磨き作業をすることになっていて、お客さんが直接引き取りに来るらしい。

「サンパチかっこいいなぁ」と呟きながら、タンク、メッキパーツ、マフラー、ホイールと丁寧に磨いていると大人びた気の強そうな美人な女性に話しかけられた。


「アナタ、ここに新しく入ったバイトの人?丁寧に磨いてくれてありがたいよ」


ライダースジャケットにスキニーパンツでブーツ姿の黒髪ロングヘアを巻いている女性は彩葉の仕事の丁寧さに感心しながら礼を言ってきた。


「このサンパチのオーナーさんですか?渋いですね、あともう少しで作業終わりますよ」


彩葉がそう言うと女性は店内の事務所の方に行くと、店長の剛と顔見知りなのか話している。

彩葉はスポークホイールを磨き終えると全て磨き終えたのか黒髪ロングの女性を呼びにいく。

「終わりました!」と伝えると、女性にバイクのキーを渡して再びバイクの元へ歩いていると「アンタ?如月彩葉?」と突然フルネームで呼ばれた。


「どうして私の名前を?あなたは一体?…」


女性は少し笑った表情を浮かべると自己紹介をしてきて、名前を聞いていろんな意味で驚いた。


「この間さ?橘 友紀子っていうガタイの良い女と会わなかった?アタシはその人の妹でアンタと同じ高1の橘 都姫って言うんだ、姉貴からアンタのことは聞いてるよ」


彩葉は友紀子に妹がいることは、蓮から聞いていて知っていたが友紀子に似ているということなので、てっきりあの姿を想像していたが予想と全く違っていて戸惑ってしまった。

姉の友紀子と違い、身長は163cmで線は細いが筋肉が詰まっているアスリート体型で二重のツリ目な感じでクールビューティーのような雰囲気で美人すぎるくらいだ…

蓮は友紀子にそっくりだからすぐわかるとか言っていたが、どこがそっくりだと言うんだ…

ほんとに同じDNAが流れているのか疑うレベルだぞ?


「あなたが妹だったんだ…私はお姉さんにそっくりと聞いていたから全然似ていなくて驚いたよ」


彩葉がそう言うと都姫は、よく言われるよと言った感じで家族構成について簡単に説明してくれた。


「アタシの母親は再婚して離婚してて、姉貴は前のダンナとの間に生まれた子供でアタシは再婚相手との子供で異父姉妹なんだよ、まぁ面白いことにアタシら姉妹は母親に似ないで父親に似たから見た目が全然似てないんだけどさ」


その理屈なら確かに似てないのも頷けるが、姉妹でここまで顔や体格が似てないってのも面白い。

都姫の母親の最初の結婚相手の男は相当ガタイの良い男だったのだろうか…

それなら再婚相手の男は都姫を見る限り、なかなかの美男だったのは容易に想像できる。

ただ、蓮から聞いていた通り都姫は姉同様ヤンキーのような雰囲気だ。


「姉貴からアンタの喧嘩の強さを聞いて会ってみたかったからこうして会えて嬉しいよ、欲を言えばアンタがヤンキーだったらタイマンを申し込んでたところだよ、アタシはヤンキーで喧嘩で成り上がろうとしてるやつとしかやらねぇ主義だからさ」


姉同様、そういうところは硬派なヤンキーと言った感じで闇雲に因縁をつけるような人ではなさそうで彩葉も嫌いな姉妹ではない。

都姫はこれから用事があるらしく、早速GT380のエンジンを始動した。

10分ほど暖機をした都姫は、「またな、彩葉」と言うとヘルメットを被り革製のグローブをするとGT380に乗って帰って行った。


彩葉は都姫の姿が見えなくなると、店内に戻って掃除を始めた。

そういえば昨日はルナから免許が取得できたとLINEが送られてきて、既にバイクで公道に出て練習してるみたいだ。

早速、明日は彩葉、愛琉、ルナの3人で日光までツーリングすることになっている。

彩葉は楽しみで仕方ないのか、バイト中に鼻歌を歌ったり時々ニヤけてたりして剛に「何か良いことでもあったんか?」と指摘されて慌てる素振りを見せていた。

今日を乗り越えれば楽しみが待っている…頑張ろう!


そしてついに翌日。

彩葉達3人は、笠間の道の駅に7:00に各々集合して待ちあわせすることになっていた。

彩葉が到着すると既に2人は昨日眠れなかった小学生男子のようなテンションの上がりっぷりで「遅いぞー、彩葉!」と遅刻もしていないのに愛琉に言われた。


「別に遅刻してないじゃん!まぁいいや。それじゃ早速行きますか!」


彩葉がそう言うと2人もヨンフォアとゼファーのエンジンを始動した。


さぁ、日光ツーリングの始まりだ!







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