第7話
音楽室で何だかんだやっているうちに学校はすでに登校のピーク時間を迎えていた。着々と教室に入っていく生徒に混じりながら髪の乾ききっていない俺が今来たかのように2年6組に入る。
「おい戸波! やばいぞ!」
教室に入り席に着くや否や種巻が肩を強く掴んできた。
理由は分かる。俺は焦るなと気怠い感じで宥めた。
「知ってるよ。音楽室だろ? さっき見てきた」
「なんでそんな落ち着いてるんだよ。これから全校集会だぞ!」
「……え、まじ?」
緊急事態。最も警戒すべきことが予想よりも早くやってきた。もちろん何の準備もしていない。
「事件が2日連続で続いて先生たちが黙ってるはずないだろ。なんとしてでも犯人見つけるつもりだ」
「だって音楽室には顧問の先生しか来てなかったぞ。騒ぎにならないように配慮していたんじゃないのか」
「教師一人がその方針でも全員がそうじゃないってこと。あと、お前は知らないのかもしれないけど、やられたの音楽室だけじゃないんだよ」
「え?」
詳しく種巻に話を聞くと、俺が音楽室で久留井たちに話を聞いている間、調理室でも窓ガラスへの悪戯が見つかったらしい。
第一発見者はこの高校の事務員。調理室に朝から入り込む生徒はいないから気づきようはないため、犯人もそこを理由に狙ったかもしれないと考えた。だが、部活で使用している音楽室を狙った以上、そんな配慮はないのだろう。まさに寝耳に水だった。
全校集会が始まるであろう時間帯、俺は朝礼で顔を見せたのち、腹痛を訴えトイレに身を隠すことになった。俺本人が毒毛先生に言うとよからぬ追及を受けるかもしれないので事後報告という形で種巻に協力を要請している。
ここまで手を貸してもらえるとは本当に良き友人を持った。あとで何か奢ろう。
しかし、この逃げ道が使えるのは今回限りだ。何度も仮病を続ければ俺が犯人に疑われかねない。
俺はトイレのドアをゆっくり開け廊下の様子を確認する。流石に誰一人いない。全生徒、全職員が体育館に集合しているようだ。
体育館内の様子を確認しようと体育館に隣接している側の校舎の端に近づく。その瞬間に脳が爆発するくらいの痛みが一斉に押し寄せ後ろに仰反った。
「うっわぉう! サボってる罪悪感が一瞬で吹き飛んだぞ!」
急いでトイレへ戻り小ゲロを吐いてから調理室へと向かう。
音楽室は校舎別棟東側の三階。調理室は一階。最も離れた位置関係にあるため、音楽室にいた俺にまで情報が入ってこないのは仕方がないことだ。しかも、発見したのは生徒ではない。種巻の話を信じていないわけではないが俺にとっては今の段階では軽い噂だ。自分の目で確かめる必要がある。
だから俺はリスクがあろうともトイレから脱さなくてはならない。実際に見てみることでわかることもある。
事務員が補修作業をしている可能性があったため、息を殺して忍び込んだがもう既に終わった後らしく、中には誰もいなかった。
窓ガラスの一画のみ段ボール素材のボードが貼り付けられているが、それ以外には荒らされた様子はない。やはり何かしらの意図を感じる。
剥がしたらバレるだろうか……。
「ま、いいか」
2秒で結論が出た。
欲には忠実にいたい。やらない後悔なんてクソ喰らえ。
なるべく皺が付かないようにガムテープをゆっくりと剥がして段ボールを外した。
やはり犯人は同一人物と言えるだろう。手口が同じだ。音楽室と同じく、
【 3-4
おざけたくお】
と、学年クラスと名前が丁寧に刻まれていた。
次は三年生か。これで一年→二年→三年と順に全学年揃ったわけだが何か関係あるのだろうか?
三年だと先輩ということになる。残念ながら知っている人でもないので簡単に話を聞けそうにない。佐久良の顔の広さも学年の壁を超えては及ばない。
ここまできたら図書室の窓の様子も見ておくべきだろう。俺はスマホに窓の有様を収め、別棟西側三階へ位置する図書室へと向かった。
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