第109話 テスト前の休日

 期末考査まで残り1日を切った。オレ達のチームは、図書館に集まり今日も勉強会だ。今日は、チームメイト全員が揃った。


「はぁ~」


 1時間経過した頃、オレの隣で江川が大きなため息をついた。


「大丈夫か?」


「昨日も勉強、今日も勉強……もう頭がパンクしそうだ」


 こりゃ相当勉強させられたんだな。

 昨日の勉強会は、オレは、来なかったが江川は、行ったらしい。好きな近藤からの誘いとなれば断りにくいのだろう。江川がもう勉強がイヤだという気持ちはよくわかる。昔のオレならわからないことだろうけど……。


 『フォースプロミス』では、永遠に終わらない勉強をやり続けていた。やりたくないなんてわがままは、通用しなかった。だが、今はそれが出来る。やりたくないならやらなくていい……。本当に自由だ。 


「大山君、手が止まってるわよ」


「えっ……?」


「えっ?じゃないのよ。せっかくの勉強時間を無駄にするつもりなの?」


 勉強を放棄しているのに気付いた近藤は、オレに声をかけてきた。近藤の前ではサボりは、禁止か。シャーペンを手に取りオレは、勉強を再開した。


───────────


 勉強会開始から1時間後、隣の江川は、爆睡していた。それを見ていた近藤は、はぁ~と深いため息。

 こりゃ休憩が必要だな。


「近藤、北原、少し自販機に飲み物買いにいかないか?」


 オレは、目の前にいる2人に声をかけた。


「うん、いいよ」


 北原は、すぐに賛成し、席を立った。だが、それに対して近藤は、席を立たなかった。


「彩沙ちゃんも行こうよ。ずっと座ってるのもあれだし……」


「なぜ? 大山君と二人で行けばいいじゃない」


「け、けど……」


 近藤と仲良くしたい北原は、拒否する近藤を頑張って誘うが失敗する。北原と近藤は、仲良く出来ないのだろうか。2人が仲良くしてくれればチームの団結力は、ぐんと強まるはず。


「無理に誘うのも逆効果だしオレ達だけで行くか」


「そ、そうだね……」


 北原は、少し残念そうに言った。


────────────


「そう言えばなんで北原は、近藤を嫌いなのに仲良くしようと頑張るんだ?」


 オレは、自販機で飲み物を買う北原にふと思った疑問を口にする。


「ん~何でだと思う?」


 これは試されてるのか? 北原の表情から一切笑顔が感じられない、というか怖い。


「考えてもさっぱりわからないな。答えを教えてくれ」


 特に何も思い付かずオレは、答えを聞く。


「正解はね、仲良くした後、切り捨てて彩沙ちゃんの悲しい顔が見たいから」


 そんな笑顔で言うもんじゃないだろ。あと、顔の表情と言葉が一致していない。


「あ~うそうそ。さっき言ったの嘘だから。信じないで」


 北原は、両手をブンブンと振り否定する。

 冗談? 北原が言うと全然冗談に聞こえないんだが……。


「じゃあ本当の理由はなんだ?」


「彩沙ちゃんとは普通に仲良くしたいだけだよ。嫌いだけど仲良くしたいの。矛盾してるってのはわかってる……」


 これ以上聞くな……北原は、そういう風にオレに言う。


「そうか……。さて、飲み物買ったし戻るか」


「うん、戻ろっか」


 北原は、いつもの明るい笑顔で頷いた。


───────────


「ただいまぁ~あれ? 一華ちゃん?」


 図書館へ戻ると近藤の隣に濱野が座っていた。


「こんにちは、美波ちゃん、大山君」


 濱野は、手を振ってきたのでオレは、一応手を挙げておく。


「私、今日は一人だから一緒に勉強してもいいかな?」


「もちろんだよ」


 濱野のお願いに北原は、即答した。


「あっ、ここの席は美波ちゃんが座るよね。じゃあ、私は大山君の隣に座るよ」


 濱野は、席から立ち上がりオレの隣へ座る。


「ようよう少年。勉強は、進んでいるかね?」


 席に座るなり濱野が変な口調で話しかけてきた。


「まぁ、そこそこ……」


「そっか。そ、そう言えばさチョコどうだった?」


「チョコ……あぁ、美味しかったぞ。ありがとな」


「う、うん。美味しかったなら良かったよ」


 そう言って濱野は、下を向いた。

 よく見たら顔真っ赤だな……。そう思ってるとふとパートナー試験の時のことを思い出しだ。あの時も確か濱野は、顔を真っ赤していたよな。


「あっ、一華さん」


 後ろから山野が濱野に声をかけてきた。


「おっ、みゆちゃんだ。それに椎名さんも」


 濱野は、山野と椎名がいることに気付き席を立ち上がり二人のことを抱き締めた。


「ふゆっ! い、一華さん苦しいです!」


 山野は、身動きが取れなくなり困っていた。

 あれ? この光景前に見たな……。


「あっ、ごめんごめん。2人とも可愛いからさ抱きついちゃった」


 よくわからない理由を濱野は、口にする。


「そう言えば一華ちゃん、他のチームメイトは?」


 北原は、濱野が一人でいることに関して疑問を持った。


「みんなは、今日は忙しいんだって。あっ、別にケンカしたとかじゃないよ」


 いつもチームメイトと行動することが多い濱野は、心配をかけないように付け足す。


「ねぇ、濱野さん」


 こうしてみんなが会話している中、黙って勉強していた近藤が濱野の名前を呼んだ。


「ん? どうしたの?」


「濱野さんのチームは、誰に票を入れるのかしら?」


 近藤は、濱野に尋ねると以外と返事はすぐに返ってきた。


「三条君だよ。三条君も私に入れるって言ってたから仕返しにね」


 そう言った濱野は、クスッと笑う。


「言ってたってもしかして直接言われたの?」


 疑問に思った椎名は、濱野に尋ねる。


「うん、そうだよ。濱野、お前に票を入れるからなってね」


 そう言って濱野は、三条の真似をした。

 この様子から濱野は、前より強くなった気がする。濱野自身とチームメイトの成長が彼女を変えたんだろう。


「ところで今回のマイナス票システムの裏ルールって知ってるかな?」


 濱野がここにいるみんなに聞くと全員が首をかしげた。


「裏ルール? 詳しく聞きたいわ」


 近藤は、濱野に情報共有を求めた。


「いいよ。近藤さん達には、こないだお世話になったからね」


 こないだというのは、濱野が話していなかったことをすべて話したときのことだろう。


「裏ルールっていうのは、名前のとおり記載されてないし学校から説明されてないルールのこと。私が知ってる裏ルールは、取引で票の獲得、誘導かな」


「獲得? それはつまり票を買うってこと?」


 椎名は、濱野に聞く。


「そうそう、買収。言葉で聞いたら誰だってダメなことだと思う。けどね、この学校じゃ買収する人は、珍しくない。例えばチーム得点を取引材料に持ち込まれたら誰だって取引したくなるよね?そうやって相手の求めるものを考える、それが必勝法の1つ」


 なるほどな……さっき濱野が説明したことは、こないだ間近で見た。

 千佳は、その方法で自分の危機的状況を回避しようとしている。


「てか裏ルールなんて存在してて学校側は、どうにもしないのかよ。普通なら不正行為だろ?」


 話をさらっと聞いていた江川が濱野に言う。


「確かに普通なら不正行為だろうね。けど、この学校ではそれが認められてる。記載されてないなら、先生からの指示がなかったのなら……その時は、なんでもありなんだよ」


 そう話した濱野は、あまりしっくりきてないように話す。どうやら濱野は、なんでもありなところが気にくわないらしい。


「あっ、なんか私が来たせいで勉強の邪魔しちゃってるよね? ごめんね、みんな勉強再開しよっか」

 

 濱野は、そう言ってチームメイトでないオレ達に声をかける。


「謝ることないわ。濱野さん情報共有ありがとう」


 濱野の謝罪に近藤は、礼を言う。


「いえいえ、近藤さんのチームとは、仲良くしたいし情報共有ならお安いご用だよ」


 こういってくれるなら濱野のチームとは、いい関係が築けそうだな。



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