第85話 山野みゆの過去

『近藤、聴こえるか?』


「えぇ、ハッキリ聞こえるわ」


 イヤホンをした近藤は、オレの声を聞いて小さく頷く。


『彩沙ちゃん、イヤホン隠すために髪の毛下ろした方がいいんじゃないかな?』


 オレの隣で北原は、近藤にアドバイスした。


「それもそうね」


 そう言った近藤は、髪の毛のゴムを外した。


『さっき椎名に聞いたが山野は、部屋にいるらしい。3階の突き当たりな』


「わかったわ。とりあえず二人っきりで話せる外へ山野さんを連れ出すわ」


 そう言った近藤は、移動のため電話を一度切った。


──────────


 食堂の隅の席に座るオレと北原は、近藤が山野を呼び出すまで少し待機していた。

 

「上手くいくかな?」


「さぁ、わからないな。近藤の頑張りどころだ」


「だね……あっ! 彩沙ちゃんから」


 北原は、通話が来たことに反応した。


『山野さんを連れ出すことが出来たわ。じゃあ、作戦通りよろしく北原さん』


「オッケー任せて!」


「じゃあ、始めるか」


近藤と北原の準備が整いいよいよ作戦実行だ。


────3階廊下。


「あの、話ってなんですか?」


 山野は、呼び出された近藤に問いかけた。


「えっと……」


 近藤は、北原の言葉が来るのを待つ。


「最近あなたの様子がおかしいと思ってね。何かあるんじゃないかと思ったの……」


 近藤は、自分の言葉ではないが、自分の考えた言葉のように不自然なく話す。


「な、なにもありませんよ」


 明らかに嘘をついているような仕草をし、山野は、笑う。


「……本当?」


「もちろんです。私、いつも通りですよ…」


 ニコッと笑うがそれを見た近藤には、無理して笑っているようにしか見えなかった。


「なら、質問を変えるわ。今のチームにいて不安なことはない?」


「不安?」


「えぇ、別にチーム以外のことでもいいけど」


 近藤の質問に山野は、少し間をあけて口を開いた。


「わ、私……怖いんです」


 話し出した山野の手は、小さく震えていた。


「怖い? それは具体的に何が?」


「いつかチームから見捨てられるんじゃないかって……」


 オレと近藤のスマホで電話を繋いだスマホから山野の会話を聞いていたオレと北原は、山野の発言にお互い顔を見合わせた。


「なぜそう思ったの?」


「私、小さい頃から何度も経験したんです。誰かに見捨てられる出来事を……」


 そう言って山野は、自分の過去を近藤に話した。


─────────


 私、山野みゆは、5才の頃、お母さんとお父さんを事故でなくした。

 お母さんとお父さんは、どんな人だった?と聞かれても私は、答えられない。

 まだ小さかったのでほとんど記憶がない。

 お母さんとお父さんがいない私は、お婆ちゃんの家に住むことになった。

 お婆ちゃんは、優しくて私の自慢のお婆ちゃんだった。

 けど、私が高校へと入るとなった時、お婆ちゃんは、病気で亡くなった。

 私の周りにいた人が失われていく悲しさが大切な人を失うごとに感じていた。

 私の周りからいなくなったのは、家族だけじゃない。

 学校の友達も……。

 いじめられていたとかじゃないが、私といることに対して飽きてしまったのかわからないけど仲がいいと思って一緒にいた子は、全員私のまわりから離れていった。

 私は、これから一生一人なのかなと思い始めた。


 高校生になって、チームを作ることには困らなかった。

 同じクラスの女の子に誘われたからだ。

 だが、そのチームは、上手くいかなかった。

 チームメイトから使えない奴といわれ私は、見捨てられた。

 私が何かいけないことでもしたの?とつい言いたくなる。

 けど、最近ではそんなこと思わないようになっていた。

 私をチームへと誘ってくれた大山一樹君。

 彼が私を救ってくれた。

 最初の頃は、いつかチームから追い出されたりするかもと思いながら過ごしていた。

 けど、チームメイトは、みんな優しくて家族のような関係で安心していた。

 そして松原楓君と仮で付き合うことになり私の高校生活は、楽しく過ごせていた。


 私は、一人になんてならない……そう思ってた。

 けど、楓君から別れることになって私は、また一人になった気がした。

 もしかしたら次は、チームから追い出されてまた一人になるかもしれない……そう、思った。


──────────


「思い込みね。私は、山野さんをチームから追い出そうなんて思ってないわ。山野さん、あなたはこのチームで必要とされたい人になりたいの?」


 山野の過去を聞いた近藤は、北原と電話を通じていることを忘れ自分の言葉で話し出した。


「えっ?」


「あなたがさっきから言っているのは、そう言うことよ。家族やお婆さんは、あなたを一人にさせたいからって亡くなったわけじゃないでしょ? それに友達だってそう……あなたとたまたま気が合わなかったからあなたから離れたという理由かも知れないわよ。すべてあなたの勝手な思い込み」


 厳しめな言葉だが近藤は、山野に言う。


「……そ、そうかもしれませんね。ごめんなさい変な話してしまって……」


「悩み事があるなら溜め込まずいつでもチームメイトに相談しなさい。心配する人もいるのだから」


「心配?」


「あなたの様子がおかしいと気付いたのは、北原さんよ」


「美波さんが……あとで心配かけてごめんなさいと言わなければなりませんね」


「……じゃあ、またね山野さん」


 山野は、いつもの元気な様子を取り戻したので近藤は、オレと北原のいるところへ向かった。

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