第84話 仲良くなれないチームメイト

 1学年特別テスト3日目、特に何もなく時間が過ぎていった。流れからしておそらく小試験は、明日あると推測される。


 午後6時、昨日と変わらずオレは、一人で食堂を訪れ、注文した後、一人で席へ座った。近藤が来るかもと謎に期待したがどうやら来ないようだ。


「あっ、大山君だ。隣いい?」


 そう言って隣に来たのは、北原だった。


「あぁ、別に構わない……」


 北原がいると怖くて楽しく食事出来ない。なんて言えないな。


「いただきます。ここの料理は美味しいね、大山君」


「あぁ、そうだな……」


「……もしかして警戒してる?」


 北原は、そう言って顔を近づけてきた。


「違うと言えば嘘になるな……」


「やっぱり……。私達、チームメイトだよね? なのに、私とこれからずっとこんな風に微妙な距離を保ち続けるの?それって辛くない? 私は、辛いよ……。私は、大山君と仲良くしたいのに」


 オレも北原と仲良くしたいと思うが性格が……。本当の北原を知ってしまったオレにとっては、仲良くするのは難しい。仲良く出来ても必ずオレは、北原を疑ってしまう。もう、そんな目でしか北原を見れない。


「私がもう成績上位者を嫌わないって言ったら仲良くしてくれる?」


 北原は、そう言ってオレの答えを待つ。


「いや、お前が誰を嫌おうとオレは気にしない。オレが気にしてるのは、別のことだ」


「別?」


「北原……お前、三条と裏で通じてるだろ」


「っ!!」


 北原の表情が一瞬曇った。


「それ誰から聞いたの?」


 北原は、オレの胸ぐらを掴み聞いてきた。


「誰かから聞いたというよりなんとなくそうかなと思っただけだ。ちなみに近藤も知っている」


 オレは、わざとここで近藤の名前を出した。


「彩沙ちゃんも……そっか、バレてたんだね」


 北原は、そう言ってオレの服から手を離した。


「北原が三条と協力関係を切ったらオレは、北原を警戒しない。そして北原が望むオレと仲良くすることが可能になる」


「……それは、難しいね。バレちゃったけど私は、三条君と協力関係を切るつもりはないよ」


「そうか……なら、オレはこれからもチームを妨害する北原を遠慮なく監視させてもらう。妨害する素振りを一つでもしたらオレは、北原を止めるからな」 


 オレは、忠告をした。


「どうぞお好きに。けど、驚いたよ、大山君って1位に興味ないと思ってたから」


「ここは、1位になるために来る生徒がほとんどだ。そんなに不思議なことじゃない」


「そうだね。ねぇ、大山君。話変わるけど、最近のみゆちゃんどう思う?」


 北原は、いつも通りの口調に戻りオレに尋ねてきた。


「山野? 何かあったのか?」


 確かに山野にはここ最近違和感があったがあまり気にする必要はないだろうと思いスルーしていた。だがやはり何かあったのか。


「何があったのかは知らないけど、ここ最近のみゆちゃん、ぼっーとしていることが多いんだよね。クリスマスの時、一緒に遊んだんだけどその時もなんだか元気がなくて……」


 クリスマスからか……。山野と会ったのは、クリスマスイブの日が最後。その時、松原の話で山野がいつもと違う反応をしたことは、気になった。だが、そこまで気になるものでもなかったので気にしないでいたが……。


「北原は、山野に何か聞いたか?」


「ううん。何かあったの? って聞いたんだけどなにも話してくれなかったの。大山君、どうしたらいいかな?」


 そう言われてもな……。北原が聞いて何も答えてくれなかったのならオレが何かしても意味はない気がするが……。


「よし、近藤にも手伝ってもらうか。北原も手伝ってくれるか?」


 オレは、一つ作戦を立て、北原に頼む。


「う、うん。けど、何で彩沙ちゃんも?」


 北原は、少し嫌そうに聞いてきた。


「何となく。さっそく近藤のところへ行くぞ」


 食べ終えたオレは、席を立ち座る北原に言う。


「う、うん」


 北原は、慌てて席を立ち、オレの後を追いかけた。


───────────


「山野さんね。確かに私も最近おかしいと思っていたのよ。で、私は何に協力すればいいのかしら? 北原さんが聞いても教えてはくれなかったんでしょ? なら尚更私には無理よ」


 食堂で一人で本を読んでいた近藤を見つけたオレは、近藤に協力を頼んだ。


「えっと、大山君。具体的にどうやって山野さんから聞き出すのかな?」


 北原は、横からオレに聞く。


「作戦は、こうだ。近藤が山野から聞き出す……これだけだ」

 

「あなたバカなの? さっき言ったわよね?

私は、人の相談を乗れるような力はないの」


「あぁ、そんなこと知ってる。近藤の話す力なんて全く期待してない。オレの作戦には、リーダーである近藤が必要なんだ。リーダーをな?」


 大切なことなのでオレは、二度繰り返した。


「リーダー?」


 近藤は、まだ作戦の意味がわからず困惑していた。


「説明続けるぞ。近藤の言葉じゃおそらく山野は、何も話してはくれないだろう。だからそこで北原の力が必要もなる。簡単にいうと近藤は、北原の言葉で山野から聞き出すんだ」


「私が北原さんの言葉で? 一体どうやって」


 近藤は、オレに尋ねてきたのでオレは、ポケットからイヤホンとスマホを取り出した。


「イヤホン………あっ、そう言うことか」


 北原は、わかったようで表情が明るくなった。


「どういうこと? 北原さん」


「スマホで私が彩沙ちゃんに彩沙ちゃんに言ってもらうことを伝えるの。つまり遠隔操作だよ」


「あぁ、北原の言う通りだ。近藤のリーダーという立場を利用し、北原のコミュニケーション能力を利用して山野から聞き出す。これがオレが考えた作戦だ」


 オレは、そう言うと北原は、クスッと笑った。


「大山君って意外と凄いね。やり方が普通じゃないっていうか……あっ、別に変な意味じゃないから。褒めてるんだよ?」


 褒められてる気は全くしないんだが。


「この作戦、やってみる価値はある。大山君、やるならやりましょ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る