第81話 他のチームは
一方、近藤のいるチームは、集まってすぐピリピリした空気になっていた。
「オレは、お前のチームメイトみたいに真面目に指示に従うつもりはない」
三条は、目の前にいる雨野に言う。
「そうですか。それはそれでいいと思います。ですが、やはり主導者のような存在が二人いるとチームもすぐに崩壊してしまいそうですね」
そう言って雨野は、クスッと笑う。
「ど、どうしましょう近藤さん」
雨野と三条の言い争いに入れない所谷は、近藤に助けを求める。
「どうしようもないわね。あの二人の間に入るなんて無理があるわけど、私達が止めないと本当にチーム崩壊するかもね」
近藤は、そう言って雨野と三条に元へ行った。
「雨野さん、三条君、あなた達の考えが違うのは、よくわかったわ。けど、このチームであなた達の考えで行動することは、不可能。変な戦略は、考えないことね。お昼まで時間もないし私としては早くリーダーをどのように回すかを決めたいところなんだけど」
「そうですね。近藤さんの言う通りどのようにリーダーを回すのか決めましょう。所谷さん、何かいい案はありますか?」
雨野は、近藤の提案に納得し、話を進める。
「わ、私? えっーと、結局は、みんなリーダーをやるんだし、首席番号順とかでいいんじゃないかな?」
所谷は、急に話を振られ慌てていたが自分が思う案を出す。
「いいと思います。そうなると今日は私がリーダーをやることになりますね」
所谷の意見は、採用されひとまずリーダーをどのように回すかは、決まった。
────────
昼食の時間となり各自役割を持ち昼食を作ることにする。
「雨野さん、次は何をすればいいのかしら?」
役割を果たした近藤は、調理している雨野に聞く。
「そうですね。特に今は何もすることがないので休んでいてもいいですよ。それとも私と雑談でもしますか?」
「後者を選ぶわ」
近藤は、こうして雨野と話すのもめったにないと思い、雑談することにする。
「では、何をお話しましょうか?」
「大山君のことであなたに聞きたいことがあるのだけど」
「大山君?」
「あなた大山君とよくいるけどどういう関係なの?」
近藤がそう尋ねると雨野は、ふっと笑った。
「大山君とは、昔一度お会いした仲なんです。私のお父様と大山君のお父様は、知り合いでして。その時、大山君とは、かなり仲良くなりまして。そんな彼と高校でまた再会出来るとは思いませんでした」
雨野は、自慢げに話した。
「偶然再会したってことかしら?」
「えぇ、そうです。会ったのは、10年前でしたので私と大山君は、すぐに会ったことを思い出せませんでした」
「10年前、よく思い出したわね」
「理事長、大山君のお父様が教えてくださったんです。大山君には、私から教えました。あの日、お会いしましたよねと」
「なるほどね」
「大山君は、謎が多い方、近藤さんもそう思いませんか?」
雨野は、ニコッと笑い近藤に共感を求めてきた。
「そうね。そのせいで苦労するわ」
──────同時刻
「えっーと、お昼だけどカレーでいいかな?」
1日目のリーダーになった濱野は、メンバーに聞く。
「いいと思います」
メンバーの藤村は、コクりと頷く。
「オレも賛成」
同じく武内も濱野の案に賛同する。
「お、小野寺さんは、どうかな?」
珍しく濱野は、勇気を出して小野寺にに話しかける。
「………」
「あの~、小野寺さん?」
濱野は、何度も小野寺に話しかけるが無視されていた。
「濱野、ちょっと来てくれ」
武内は、濱野の肩をつつきそう言った。
「う、うん……」
濱野は、武内に着いていき人気のない場所へ移動した。
「小野寺があんな風な態度であるのってもしかして濱野に原因があるのか?」
武内は、濱野に尋ねた。濱野は、武内に図星をつかれ下を向いた。
「やっぱりそうか。このまま濱野と小野寺がさっきみたいにギスギスした雰囲気じゃオレも他の奴も気まずい」
「ご、ごめん……」
「別に謝ってほしいわけじゃない。もしオレで良ければ話を聞く」
「武内君……」
濱野は、話すべきか迷った。武内とは、今同じチームなだけ。本当のチームメイトでもない彼に話すべきだろうか。
「誰かに相談することで何か変わるかもしれない。話したくないならそれでもいいんだが……」
「き、聞いてくれる?」
濱野は、苦しい状況から解放されたいという気持ちが勝ってしまい、武内に話すことにした。
だが、それは濱野にとって取り返しのつかない出来事へとなってしまうのはまだ先の話。
──────────
1学年特別テスト1日目終了後、夕食を食べ終えたオレは、特にすることもなく宿泊場所の廊下を歩いていた。ちなみに今は、自由時間のため生徒達は、部屋で遊んだり近くに設置されている体育館のような場所でオリエンテーション的なことをしているクラスもある。
オレは、そのような遊ぶ人もいなければ誘う人もいないのでこうして一人でいる。いや、正確には、この自由時間を利用して一人になりたかった。なぜならこの宿泊場所へ来てから行きたいと思っていた場所があったからだ。
「ここか……」
立ち止まった場所は、物一つない場所だった。今、見ても嫌な場所だ。ここは、昔、『フォースプロミス』が使っていた施設。だからオレはここへ来たことがある。
「そこに何かあるのか?」
立ち止まっていたオレにスーツ姿の男が声をかけてきた。
「いや、偶然通りかかって不思議な部屋だなと思っただけです」
オレは、声をかけてきた1年2組の担任である後藤田陸先生に言う。
「本当か?何もないここをわざわざ何もないところを通る生徒なんていないはずだが。まぁ、そういうことにしておこう。ところでここに来る前、理事長からこの施設は、理事長の所有地だと聞いた。大山は、そのこと知っていたか?」
後藤田先生とは、学年別一騎打ち試験で初めて会った人だ。なのにオレにその質問をするとは……。
「知りませんね。ところで後藤田先生は、オレが理事長とどういう関係かご存知で?」
「理事長の息子さんだろ? 名前でわかる」
「そうですか。そう言えば、後藤田先生は、なぜここへ?」
さっき後藤田先生は、オレにわざわざここを通る生徒はいないと言ってきた。そんな場所に来たということは、後藤田先生にも目的があってここへ来たと思われる。
「大山と同じく通りかかっただけだ。ところで話を変えるが大山は、この場所が何に使われていたか知っているか?」
後藤田先生は、まるでオレがこの宿泊場所を詳しく知っているかのように聞いてきた。
「さぁ、わかりませんね。この部屋、何もありませんし、物置だったんじゃないんですか」
オレは、まるでここに初めて来る人の感想を述べた。
「そうだな。オレもそう思う」
なんなんだこの会話。まったく会話の意図が見えない。
「後藤田先生、本当はオレに言いたいことがあってここへ来たのではないですか?」
オレは、思いきって聞いてみた。
「……よくわかったな。顔に出てたか?」
後藤田先生は、少し驚いていた。
「いえ、オレが勝手にそう思っただけです」
「そうか。なら、言うが、オレは、ずっとこの学校に対して違和感を感じているんだ。だが、その違和感は、今年の一年生が入ってきてから一層増した」
そう言うと後藤田生徒は、オレを見てきた。
「その違和感の原因がオレにあるとでも言いたげですね」
「あぁ、その通りだ。オレはこの学年の主任。担当しているクラス以外の生徒のことも他の一年生の先生より知っているつもり……だった。だが、この前、突然理事長から呼び出されてこう言われた、大山一樹を退学させるため手伝ってくれと」
「怖い話ですね……脅しているようにしか見えません」
まさか理事長が後藤田先生へそんな頼み事をしているとは思わなかった。
「理事長がそんなこと言うなんてかなり問題だとオレは思う。大山、理事長に嫌われてるのか?よほどのことがないと生徒を退学させたいなんて理事長は言わないはずだ」
「嫌われているのかもしれませんね。とりあえず後藤田先生、オレの父の頼みなんて真面目に聞かないでください。生徒のことを守る教師なら」
生徒を守るのは、教師の役目の一つ。後藤田先生もそれはわかっているはずだ。
「守る……か。つまり大山は、オレに理事長が言う退学から守れと」
「いえ、別にそこまで頼んでいません。けど、もし可能ならオレを守ってもらえませんか?」
「守るとは、具体的にどうしたらいい?」
「そうですね。後藤田先生は、理事長の言うことには、反論しにくい立場だと思うんで、とりあえず今は、何をいわれようと協力することを断ってください。もし、断れない状況となった時は、オレのところへ来てください」
「わかった。出来る限りのことはしよう」
「ありがとうございます。今話したことは、他の先生には話さないでください。あまり大事にされると困るので」
「あぁ、オレと大山だけの話しにしておく。就寝時間まであと数分だ。早く戻れよ」
後藤田先生は、そう言って立ち去って行った。
それにしても先生が協力してくれたのは、かなり助かる。協力してくるというなら後藤田先生も計画のために利用するとしよう。
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