第53話 文化祭デート

 文化祭2日目の18時50分、イベントが終わり、オレらのチームは、結果300点を獲得し終わった。チームの中で同じ番号を見つけられたのは、オレと近藤と北原だけだ。残念ながらあとの3人の番号は見つからなかった。


「楽しい時間というものは、早く過ぎますね」


 屋上から中庭を見ていると後ろから千佳に声をかけられた。


「そうだな……」


「言葉と表情が合ってないけど」


 千佳の隣にいる笠音がオレに言う。


「笠音は、文化祭、楽しんでいるのか?性格からしてあまりこういうのは好きじゃなさそうだが」


「そうね。けど、千佳のおかげで少しは楽しめた。まぁ、こういう行事は嫌いだけど」


 近藤も同じことを言いそうだな。

 笠音と近藤は、少し性格が似ている。


「そう言えば、楓君が大山君に感謝していました。同じ番号の方を見つけてくださったとか」


「松原とは、協力しようとなっていたからな」


「そうですか。大山君、1つ話があります」


 千佳は、真剣な表情で言うのでオレは聞くことにした。


「私がこれからしようとすることが上手くいけば、濱野一華のチームを潰してしまうかもしれません。もしそんなことが起きたら大山君、あなたはどうしますか?」


 どうする……か。

 正直言って、オレは濱野のチームがどうなってもいいし、千佳が何をしようと何も困らないしどうもしない。

 だが、濱野が退学となれば話は、別だ。オレにとって濱野は、失ってはいけない存在。今後、濱野がいなければ困ることが増える。


「その雨野がしようしていることを止める。濱野は、一応数少ない友人だからな」


「そうですよね。あなたならそう言うと思っていました。聞きたいことは聞けましたのでここで失礼します」


そう言うと千佳は、一礼し、笠音と共に屋上を出ていった。


「濱野のチーム……か」


───────────


 文化祭、3日目、オレは、約束していた通り千佳と文化祭をまわることにした。


「3日目にもなると楽しさがなくなりますね」


 オレも思っていたことを千佳は、オレの隣で呟いた。


「確かにな。せっかくだし恋人っぽいことするか?」


「ふふっ、一樹君からそんなこと言われると違和感しかありません。ですが、退屈しのぎにやってみますか」


 千佳は、そう言って笑った。


「まず、何をする?」


「提案した人が聞くとは……。そうですね、まずは一緒に屋台をまわりましょう。同じ時間を過ごす、それは、とても大切なことですから」


 同じ時間を過ごす……か。


「千佳がそう言うならそうするか」


「では、行きましょう」


────────────


「大山君、かき氷がありますよ。食べたことありますか?」


 千佳は、かき氷が売ってある屋台を見つけ立ち止まった。


「いや、聞いたことはあるが食べたことはない」


「なら、食べましょう」


「オレが買ってくる。千佳は、少しここで待っていてくれ」


「わかりました」


「すみません、かき氷を2つ」



 オレは、屋台にいる人に注文する。


「はーい、何味にしますか?」


 味があるのか……知らなかった。


「千佳、何味がいい?」


 オレは、後ろを振り返り千佳に尋ねた。


「イチゴで」


「わかった。えっと、両方ともイチゴで」


「イチゴですね……はい、お待たせしました」


 かき氷を2つ受け取り、オレは千佳に1つ渡した。


「ありがとうございます」


──────────


「どうでしたか? 初のかき氷は」


 食べ終わったオレに千佳は尋ねた。


「氷……だったな」


「ふふっ、面白い感想ですね。そろそろお昼ですし、買ってきた物をそこのベンチでいただきましょう」


 屋台で買った物が入っているビニール袋を持ちベンチへと移動した。


「いただきます。不思議なことに屋台のものは、いつも食べるのと少し違いますね」


「そうなのか?」


 オレは、屋台というものをこの学校に来て初めて知った。

 なので千佳の言うことに共感できなかった。


「はい。一樹君が買ったたこ焼きの味は、どうですか?」


「おいしい。千佳も食べるか?」


「なら、食べさせてください」


 千佳は、口を開けて待っていた。


「えっと……これでいいか?」


 オレは、たこ焼きを千佳の口の中へ入れた。


「おいしいですね。一口サイズで食べやすく文句なしです」


「それはよかった」


「ところで一樹君のクラスにはまだ行ってませんでした。確か3組は、脱出ゲームでしたよね?」


「あぁ、そうだ。今から行ってみるか?」


「はい、行きましょう」


───────────


「あっ、大山君! いらっしゃい!」


 3組の教室へ行くと同じクラスの栗山が受付をしていた。


「あまり人が来てないように見えるけど大丈夫か?」


「まぁ3日目だからね。お客様があんまり来ないんだぁ。……ってあれ? 大山君って雨野さんと付き合ってるの?」


 栗山は、隣にいる雨野に気付き驚いていた。


「いえ、大山君とは友達です」


 雨野は、ニコッ微笑む。


「そっか。勘違いしてごめんね。あっ、せっかく脱出ゲーム来てくれたのに雑談してごめん! 2人でいいのかな?」


 栗山は、当番中であることを思い出した。


「はい……といいたいところですが、大山君、ここで1つ勝負をしませんか?」


「勝負?」


「どちらが先に脱出出来るのかの勝負です」


「なるほど。面白そうだな」


「では、そうしましょうか。栗山さん、一人ずつでお願いします」


 雨野は、栗山にお願いした。


「オッケー。じゃあ、まずはどっちから行く?」


「では、私から。大山君、時間を計っていてくれませんか?」


「わかった。じゃあ、行くぞ」


 オレは、スマホに表示されている時間を見ながら言う。


「スタート」


 開始の合図と同時に千佳は、3組の教室へと入った。


──────────


「オレの勝ちだな」


 オレがそう言うと千佳は、ムスっとした顔をしていた。


「あなたの弱みは、何かないのですか?」


「そう聞かれて答える奴はいないぞ」


「そうですよね。さて、そろそろ後夜祭が始まる頃ですね。運動場のほうでステージがあるみたいなので行きましょうか」


「後夜祭か……」


 一体、何をするのだろうか。

 オレは、そんなことを考えていると校舎裏で濱野が誰かと話しているのが見えた。


「一樹君? どうかされました?」


「いや……なんでもない」

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