第28話 犯人探し
チーム全員で寮のロビーへ向かうと数人の生徒が集まっていた。そこには、雨野のチーム、三条のチーム、濱野のチームがいた。おそらくここに集まった誰かがこのメールを送ってきた人だろう。
「大山君達もメールが来たんだね」
濱野はオレが来たことに気付き話しかけてきた。今の濱野の言葉からしておそらく濱野はメールを送ってきた人ではない。
「で、誰がこんなメールを送ったの?」
近藤は、回りくどいことはせずここにいる全員にストレートに聞いた。中々名乗りでない展開になるかと思いきや1人の生徒が名乗り出た。
「オレだよ」
「三条君、あなただったのね。どうして、このメールを今ここにいる私達に送ったのか説明してくれる?」
「メールで言った通りだ」
確かメールの内容は『今から犯人探しをする。このメールを見た者は、今すぐ寮のロビーへ来い』だったよな。
「ここにいる何人かは聞いてただろ?今日の朝のオレと雨野の会話を」
「えぇ、私も聞いていたわ。けど、それとこれが何の関係があるの?全く結び付かないわ」
「近藤がわからないのは当然だ。朝の会話とこの犯人探しにどんな関係があるのかがわかる奴が犯人ってことだ」
三条は、そう言って回りを見渡す。
隣にいる近藤は、何がなんだかわからずとりあえず黙って回りの様子を伺う。そのとき、座って話を聞いていた雨野がクスッと笑った。
「雨野、何が面白いんだ?」
笑う出来事なんて起こっていないのに笑う雨野に三条は尋ねる。
「笑ってしまいすみませんね。あまりにもこの状況がつまらないもので笑ってしまいました」
相手を怒らせそうな発言だが、三条は怒らず雨野の話を聞いていた。
「三条君は何かの犯人を探しているようですが、
なぜ私達なんでしょうね。近藤さんのチームか濱野さんのチームが三条君に何かしたということですか?」
雨野の質問に三条は答えず黙り混む。これは、どういう意味だろうか。しばらく辺りがシーンと静まり返り不穏な空気が流れる。
「答えないのはどうかと思いますがまぁ、いいでしょう」
雨野は、そう言ってスマホをポケットから取り出し触りだした。何してるんだ?
雨野から視線を外し、オレはこの集まりの意味を考えた。そしてすぐに答えは出た。
三条は、昨日の夜、話しているところを誰かに聞かれていたということに気付いている。だから、盗み聞きした奴が誰なのかを特定するためにここに怪しいと思う人達を集めた。つまり、犯人は、昨夜、三条達の話を盗み聞きしたオレだ。
これは、困った……。雨野がなんとかオレが犯人だとばれないようにしていることは、さっきの発言からしてわかった。
「全員無言だと前に進まんな。よし、今から1人ずつ昨夜11時に何をしていたかを聞こう。まず、オレは豊田と加藤とテラスで話していた。そうだよな? 2人とも」
三条は、そう言って豊田と加藤に確認を取ると二人は、首を縦に振った。
「次は、濱野のチームだ。一人ずつ答えろ」
「私は、チームのみんなで私の部屋に集まってトランプとかして遊んでたよ」
濱野がそう言うと隣にいる平坂が口を開く。
「あぁ、濱野の言うことは間違ってない。オレ達は、12時近くまで濱野の部屋にいた」
「そうか。なら次は、雨野のチームだが……」
濱野と平坂の発言に対しては何も言わず三条は、進める。
「私は、自室にいました」
と雨野。
「オレと笠音は、一緒にこのロビーで勉強をしていた」
と武内がそう言うと笠音は、コクリと頷く。
「私と松原くんは、私の部屋でお喋りしてたよね?」
氷川は、そう言って松原は、頷く。
「オレも雨野と同じで自分の部屋にいてテレビを見ていた」
と最後に萩原は、話した。
「わかった。最後は、近藤達だ」
「私は、自室で読書していたわ」
と近藤は、答える。
「私とみゆは、楽しく女子会をしてたわ」
と椎名。
「私は、早く寝るタイプだから。11時には寝てたよ」
と北原。
「オレも北原と同じようなもんだ。昨日は、歩き疲れたから早く寝た」
と江川。
ついにオレが言う番が来てしまった。ここは、適当に言うか。
「オレは、自室でスマホを触っていた」
「そうか。これで全員だな。ところで雨野、昨夜、誰かからメールは来なかったか?」
三条は、そう言って雨野を見た。気づかれたか? オレは、心配になり雨野を見守る。
「来てませんね。気になるのなら私のスマホを今、見てもらっても構いません」
そう言って雨野は、スマホを三条につき出した。そんなことして大丈夫なのか、雨野……。
「いや、その必要はない」
「そうですか」
スマホを直した雨野は、隣にいる笠音に何か耳打ちしていた。
「大山、お前は昨夜メール来なかったか?」
やはり、疑われるよな。スマホを触っていたと言ったのだから。
「来ていないな」
「そうか……」
納得していない。シーンとした空気になったその時、意外な人物が口を開いた。
「三条、少し質問してもいい?」
「笠音だったな?何だ?」
「あなたは、さっきから何の犯人を探しているか言わないけどそれはなぜ?」
笠音は、今この場にいる誰もが思うであろうことを尋ねた。
「チームだけの秘密だからな。簡単に言えることじゃない」
言わない……か。そりゃそうだな。ここで言ったら三条は、計画をばらすことになるのだから。
オレは、笠音のほうを見ると笠音は、機嫌悪そうに腕を組んでいた。
「なるほどな。雨野、お前だな?」
三条は、急に笑いだし、雨野に近づいた。当然、雨野を守ろうと武内は、前に出ようとした。
だが、雨野は、武内の前に手を出してこれ以上前に出るなと言う。
「武内君、下がってください」
「ですが、雨野様……。わかりました」
武内は、雨野の指示に従い、後ろへ下がる。
「三条君は、私が犯人と言いたいのですか?」
「そうだ」
「そう思うなら理由をお聞かせください」
「理由は、簡単だ。自分の部屋にいたと言ったからだ。自分の部屋にいると言って具体的には自室で何をしていたかは言わなかったからな。それに、自室にいたという理由は、誰もそれを否定することができない状況にすることができるからな」
「なるほど……確かに私の発言は、そう捉えることができますね」
「犯人だと認めるか?」
「認めません。私は、犯人ではありませんから。もう、帰ってもよろしいでしょうか?ここにいても退屈なので」
この状況で帰ると犯人だと疑われるはずなのに雨野は、立ち去ろうとする。
「あぁ、帰っていいぞ」
あっさりと三条は、答えた。
「皆さん、帰りましょうか」
雨野は、チームメイト全員に声をかけ、立ち去っていった。
「濱野達も帰っていいぞ。あと、豊田達もな」
三条は、そう言って濱野のチームと自分のチームメイトを帰らす。残ったのは、オレらのチームと三条だけだ。
「残されたってことは、私達は、疑われているの?」
近藤は、三条に聞いた。
「いや、お前らも帰っていいぞ」
「わかったわ」
近藤は、意味がわからず立ち去って行く。近藤が帰るので北原や江川、椎名、山野も帰って行った。
さて、どうしたもんか。最後にオレ達のチームを残したのは、このためだったか。帰っていいと言われたが、オレは、この場に残った。するとこの場に残ったオレに三条は話しかけてきた。
「大山、なぜこの順番で返したかわかるよな?」
三条は、そう言ってオレを見る。
「いや、全くわからないな」
「しらを切るのか。嘘をつくのは辛いはずだ……いい加減素直に話したらどうだ?」
「オレは、嘘が下手だからな。嘘はつけない」
「話さないってことか……」
三条がそう言うと何かに気付いたのかスマホをポケットから取り出し画面を見て小さく呟いた。
「なるほどな……お前らが犯人か。大山、今日のところは帰っていいぞ」
そう言って三条は、立ち去っていった。
何があったんだ? オレは、意味がわからないまま自室に戻ることにした。
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