第14話 居座る女騎士

 「はっ!ここは……そうだ私はあの後また気を失って……ここはあの家の中か?……よし、さっさと彼に挨拶をしてこの家を出よう。それがいい。彼の機嫌を損ねるのは危険とわかったからね」


 ***


 「まさか一日中起きてこないとは……起こすわけにもいかないしな」


 「ミーミ、ミーミ」


 「あれは確かセツナど、さんと一緒にいた、小人さんと言っていたか。運んでいるのは木かな」


 「ミ〜」


 「……可愛いな」


 ***


 「はぁ~小人さんは本当に可愛いなぁ~」


 「ミー!」


 「ちょっと撫でてもいいだろうか?」


 「ミー♪」


 「わぁ、笑顔で首を横に振られたぁ。でも可愛いぃ。見ているだけで癒されるぅ。よし、お姉さんが飴ちゃんをあげよう」


 「ミー」


 「いらないかぁ。そっかぁ。知らない人から物を貰わないなんてしっかりしてるなぁ」


 

 *** 

 


 「おはようございます!神獣様!いい朝ですね!」


 『……』


 「こんな気持ちの良い朝はお体でも拭きましょうか?」


 『……結構だ』


 「そうですよね!失礼いたしました!では、私はこの辺をちょっと走ってきます!あとついでにご飯も狩ってきます!」


 ***


 

 「ふ〜良いお湯だ。まさかこんな森の中でお風呂に入れるとわ。……しかしセツナさんと全然会わないな。いつ起きているんだろうか」


 

 ***


 「クロさんは畑仕事が好きなのか?」


 「キシャ―」


 「なるほど。わからぬ。だが、畝はもっとこう作った方が良いぞ」


 「シャ?」


 「そうだ。これでも実家は大農園で綿花を栽培していてな、畑仕事には一家言持ちなんだ」


 「シャ、シャ、シャ」


 「……随分器用に鍬を使うな」


 ***


 「そういえばレライアさんはいつまで居るんですか?」


 リビングのソファーで我が家のように寛いでいたレライアさんがピシリと固まる。


 レライアさんがこの家に訪れた日からおよそ一週間が経った。彼女はまだここに居た。寝過ぎて日にち感覚が曖昧だが、おそらく一週間。たとえ夜に明かりがない森の中だろうと体内時計は狂うことがわかった。また1つ世界の真理へと近づいてしまった。


 それはそれとして彼女のことだ。オレはここの家主?でありながら、本当に何のお構いもしなかったが、彼女は小人さんやクロ達と楽しく過ごしていたようだった。


 「セツナさん」


 「はい」


 「別に敬語じゃなくてもいいですよ?むしろ神獣様にあの喋り方なのに私だけに敬語を使うのは辞めていただきたい」


 「あっ、そうなの?了解了解。ちなみに名前はなんて呼べばいい?」


 「お好きなように」


 「んーまあこれはもう慣れちゃったからレライアさんでいいや。大丈夫敬称はつけてるけど敬ってるわけじゃないから。リー助の呼び方とほぼ同じだから」


 最早レライア=サンという名前なんじゃないかと思ってきた。


 「それはそれで妙な気分だな……」


 ひと段落。レライアさんもソファーの上で体を弛緩させる。


 「それで質問の答えは?」 


 レライアさんの体に緊張が走った。


 「ふふふ」


 彼女は笑いながらソファーから立ちあがると窓の外を向く。後ろから窓の外を覗き込むが特に面白いものは見えない。リー助がいつもの場所にいるぐらいだ。いつも通りの仏頂面だったので変顔をして笑わしてみる。呆れたように目を瞑った。残されたのは女性の背後にこっそり近づき顔を歪めた変態が一人。くっ、こうして冤罪は生まれるのか。


 「そう、だな。時にセツナさん。騎士とは何だと思いますか」


 「え?あー国の雑用係?」


 「そうですね。国への奉仕者。そういう面もあるかもしれません。流石はセツナさん」


 「言ってない言ってない」


 「しかし、騎士とは心の在り方そのものを指す言葉なのではないでしょうか」


 レライアさんは自分の胸に手を当てながら振り返る。その目はとても澄んでいた。


 「たとえ騎士の任を解かれようと、国に王にそして民に仕える心さえ持っていれば、私は騎士であるとそう思うのです。そう意味では私も未だ騎士といえるでしょう」


 「立派な考えだなぁと思いました」


 高尚な話すぎてそんなありきたりの言葉しか出てこなかった。


 オレが騎士団に入った時、果たしてそんなことを考えていただろうか。ただ無職から脱してみるかぐらいにしか考えていなかったと思う。レライアさんの言葉を借りるなら、オレは騎士ではなかったのだろう。


 「いえ、立派なんてそんな」


 そう謙遜する背筋を伸ばした彼女の姿が、今も働く騎士団の同僚の姿が被って見えた。


 「うん。それでレライアさんはいつまでここに居るんだ?」


 「……時にセツナさん。騎士とは―」


 「時が戻っているだと!」


 「ううっ」


 突如として床に這いつくばるレライアさん。


 「働きたくない!」


 それは誰しもが感情を揺さぶられるような彼女の心からの叫びだった。


 そう絶叫するか背中を丸めた彼女の姿が、今は無職のオレが五連勤した後の姿に被って見えた。


 騎士とは?


 「ここでずっと小人さんとかクロさんとかと戯れた過ごしたい!」


 「というかさっきの騎士の話は一体?」


 「ぐす、ただここでだらけているわけではない、自分が無職ではない、という些細な抵抗です」


 「涙ぐましい」


 床に這いつくばったまま彼女はしゃかしゃかとした動きで小人さんたちの方へ移動する。ちなみに今小人さんたちは積み木で遊んでいる。すげぇ、ただの木だけでなんというクオリティの城だ。


 「小人さん!小人さんは私がいなくなったら寂しいよな!?」


 「「「ミー♪」」」


 「やっぱり笑顔で首を横に振るぅ。でも可愛いぃ」


 そりゃそうだぞ小人さんだぞ。ある意味利害関係で人と関わっているともいえる小人さんだぞ。


 「はっ!そうだ私には神獣様を守るという指名が!そんなことをばっちゃが言ってた!ような気がする」


 「守るって言ったってだれからよ?」


 この森にリー助が負けそうな相手がいるとは思えない。触れた瞬間即アウトのクソ試合だ。


 「それは!その、神獣様が敵わないような相手……」


 そこで彼女はちらりとオレを見る。


 「むりぃ」


 何故か心が折れた。


 「く、クロさんなら私の有用性をわかってくれるはず……」


 情緒が不安定過ぎる。


 クロなら今は丁度畑の時間だから家の裏だな。


 がしっとオレの足を掴む這いよる混沌もといレライアさん。クロがいないと見るや否や今度はこっちに標的を定めてきたか。


 「頼む!私と小人さんの仲を裂かないでくれ!」


 「わぁ、なんか修羅場みたいな台詞」


 オレ、小人さん、レライアさんの間で矢印が向いているのはレライアさんから小人さんへのものだけだけど。斬新な三角関係だな。何が斬新って三角になってない。


 というか出て行けなんて一言も言ってないけどね。


 こうしてオレの足に縋り付く彼女はここに住むことになった。


 え?やだ、もしかしてドキドキ二人(+α)の同棲生活が始まるってことですか!?

 

 オレは+αの方ですよね。わかります。

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堕眠のセツナは森に住む シュガー後輩 @31040

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