第37話 怪物

(風間眞詞side)


 脳が色々なものを理解することを拒む中、体は本能に従ってショートソードを構え魔法の準備をする。


 気が付けばクズ男Aの前に体長3mくらいの人影があった。今まで相手にしてきた餓鬼を圧倒する存在感、これは……鬼……


 4階層に入ってからの異常な状況。フィールドタイプの階層に現れるはずのない幻想種のモンスター。言葉で言い表せない、何か、魂の根幹を揺さぶるような気配……。座学で山代先生が言っていた異常個体という言葉が頭によぎる。


 クズ男Aがみっともなく海老のようにバックステップを繰り返しモンドさんの横に並んで刀を構える。


「ヒッ、ヒッヒッ、やっぱり俺は主人公なんだ…コ、コイツを倒して俺は英雄になるんだ…」


 クズ男Aが妖しい目をしながら何かブツブツ言っている。


「いつも通りいくぞ!魔法を放て!!」


 クズ男Aを無視して鬼を観察する。一見無防備のように見えるがこちらの攻撃を誘っているようにも見える。


 喚き続けるクズ男Aの存在が初めて役に立ったと感じる。あそこまでの無様を晒してくれると他の人間は冷静にならざるを得ない。ボクとしてはもう一役買って欲しいんだけど。


 隣のアキラさんも槍を構え戦闘態勢をとっているが動く様子はない。


 後ろの2人はジリジリと後ろに下がっていってる。


 盾を前に構えたモンドさんはハンドサインで逃げろと伝えてくる。


 モンドさんに教えられた通り冷静に考える。目的は生き延びること。その為には逃げるか戦うか。モンドさんが逃げろと伝えるということは、この鬼はボク達を逃がすつもりがないということ。モンドさんが一人で抑えて時間稼ぎをするつもりだろう。


 なら、全員で一当てして鬼が怯んだところで逃げる。ただ、その場合、クズ男Aとクズ男Bとお供がどういう行動をとるかが分からない。協力するorしないならまだしも、足を引っ張る可能性が高い。


 今までは、モンドさんの袖振り合うも多生の縁という言葉があったから大目に見てきたがもういいだろう。


 もう少しすれば、クズ男Aが暴走し鬼に突っ込むか、離れていくクズ男B達に対して鬼が何らかのアクションを起こすだろう。そのタイミングで一当てして怯んだところで3人で逃走。だから、今は様子を見るとき。


 しかし、この判断は間違いだった。


「おい、おっさん!二人で攻撃して他の奴らの逃げる時間を稼ぐぞ!!」


 時間稼ぎをするつもりなんてないくせに…そう言えばモンドさんが動くと分かって言ったくせに…


 クズ男Aの一言でボク達は動かざるを得なかった。


 モンドさんとクズ男Aが動き出すと同時にボクとアキラさんは魔法を放つ。その時に見えた鬼の顔には笑みが浮かんでいるように見えた。


 鬼は水と雷の魔法が当たってもものともせず、腕を振り回す。その腕をモンドさんが受け流し、その隙にクズ男Aが切りつける。


 手応えがあったように見えましたが、鬼は怯まず攻撃を繰り出してきた。


 戦闘が始まったのを見てクズ男Bとお供は逃げ出しましたが、鬼が地面を叩きつけると衝撃波のようなものが土砂を撒き散らしながら2人を襲い、吹き飛ばしてしまった。


 ボクとアキラさんは少し離れたところから魔法を放ち、隙があればショートソードや槍で攻撃し、また離れたところから魔法といった感じで、一撃離脱ヒット・アンド・アウェイを心がける。


 鬼のパワーは凄まじく、空振りした攻撃で地面がすごいことになっており、そんな鬼の攻撃を受け流し続け誰にも被害を出さないようにしているモンドさんには相当な負担がかかっているはず。


 モンドさんが作り出してくれる隙をつき、幾度となく攻撃を繰り出し、少なくないダメージを負わせているはずなのですが、鬼の生命力、再生力がすごいのか気が付けば傷がなくなっている。


 ボクは体力も消耗し、魔法もあと1、2回撃てるかどうかというところまで追い詰められていた。


 モンドさんはほんの少しでもパーティメンバーの体力と魔力が回復するようにと今は一人で鬼の猛攻を凌いでいる。


 そんな時、クズ男Aはアキラさんに向かって何かを捲し立てている。おそらくモンドさんを囮にして逃げるとかそんな感じのことだと思う。


 それを無視して鬼の方へと向き直ると、


「なら、お前も囮になりやがれ!!」


 そう言って鬼に集中していたアキラさんを背後からローキックし、逃げ出しました。


 そのタイミングで鬼の猛攻を凌いでいたモンドさんの盾が耐えきれず破壊されてしまい、攻撃を受け流しきれず、地面を転がりました。


 クズ男Aは逃げるタイミングを逃し、鬼と対峙することになりました。


「おい、化け物、取引だ!そこの俺の女をお前にやるから、俺だけは助けろ!その女を好きにしていい!」


 アキラさんを指差しながら命乞いをするクズ男A。鬼はクズ男Aの言葉が分かったのか、口角を吊り上げて恐ろしげな笑みを浮かべると値踏みするかのようにアキラさん達がいるところに目を向ける。


 アキラさんは恐怖のためかギュッと目を閉じうつむいた。


「アキラさーーーん!!」


 そして、鬼はゆっくりと手を伸ばし連れ去って行った。


 クズ男Aを……

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