エピローグ




 神奈川県小田原市に於いて、両親と旅行に来ていた当時四歳の女児が夕方、両親が目を離した隙に行方不明になったその十二年後に無事保護された事件で、県警は二十六日、未成年者略取、逮捕・監禁の疑いで、発見時に一緒にいた同県綾瀬市、無職の藤野睦月容疑者(三十歳)を逮捕した。なお、余罪についても取り調べを進めている。





 窓の外を、獰猛な獣の咆哮に似た音と共に、バイクが一台、走り去るのが見えた。

 黒色のフルフェイスのヘルメットを被り、真っ黒なレーシングスーツを纏ったその姿を見て私は、外へ出掛けて行く睦月を思い出す。

 目の前に置いてあるカップを持ち上げ、唇を寄せると、ひと口飲んだ。

 柔らかな湯気が、睫毛に触れる。

 立ち昇る香りに胸が、痛む。

 先ほどから真っ白な紙を前に、一本のペンを指に挟んだまま、その滑らかな表面をじっと見つめていたのだった。

 ようやく、書くべき言葉を見つけた私は、一文字ひともじ、刻み込むように綴る。



『いま私は壊れてしまった世界に、います。

ここはきらめきに溢れ美しく、同時に少し、淋しいところです』



 それが最初で最後の睦月への手紙だった。








              《了》




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たとえこの世界が滅びようとも 石濱ウミ @ashika21

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